自治体推進による地域猫やまち猫活動の成果に関する情報は、詳しく公表された文書はほとんど見つけることができません。
地域猫活動自体は、横浜市磯子区で始まったと言われており、自治体が作成する猫の飼育ガイドラインに『地域猫』の呼び名が登場したのは、1999年に遡ります。古くは既に、20年以上も経過している地域猫活動になりますが、その成果や成功事例に関する情報はというと乏しさを感じるのは管理人だけではないでしょう。
個人的に思うのは、推進する自治体の関心事が個別の成否ではなく、都道府県や市区町村全体でどのように改善されたかを見定めようとしているからだと思います。そう考えると、自治体の中の特定地域の猫の増減などは些末なことで、やはり数の話で言えば、自治体全体の中でどのように改善が見られたかが重要なのかもしれません。(例えば指標として殺処分数や自治体に寄せられる苦情件数など)
しかし、地域猫活動を推進している自治体では、少なからず税金が投入されています。本当に効果があるのか、使われた税金に見合った成果は得られているのか?税金の使い道に疑問を感じている方にしても興味を感じるところでしょう。
昨今、自治体によっては「人と動物との共生」というテーマを掲げ、地域猫の取り組みにふれられることもありますが、従来の地域猫活動を考えると不妊・去勢手術を行い、一代限りの生を全うさせる。最終的には飼い主のいない猫をゼロにするのが目的でしょう。目的に沿って考えると、猫の数の自然減は苦情の減少につながるはずですし、殺処分も減るはずです。外にいる猫の数が少なくなれば交通事故などによる路上死も減ることでしょう。
本記事ではこうした考えの元、苦情数・殺処分・路上死の増減の関連性をグラフにしてみましたが、不満もあります。本当は、地域猫の活動グループ数、地域猫の数などを合わせて見ると増減の関係性に一歩踏み込んで見える情報になると思うのですが、この活動グループ数や地域猫の数自体を見つけることができません。自治体推進の地域猫活動は報告書の提出が義務付けられていますので、集計すれば数の把握もできるはずです。しかし、一般にはこの情報を見ることができません。ですので、グラフ化したところで関連性を読み取る情報まで至らない点に大変な不満を感じられるのだと思います。
▼目次
- 京都府京都市のケース(まちねこ推進自治体)
- 神奈川県のケース(地域猫推進自治体)
- 栃木県のケース(地域猫検討中)
- 北海道札幌市のケース(令和2年に地域猫明文化)
- 減らない苦情件数についての考察
- 路上死についての考察(補足程度)
※路上死や苦情数を自治体HPで公表している自治体は多くありません。※このため限られた自治体の中でまとめています。(神奈川県・栃木県・京都市・札幌市)※比較の上で地域猫活動を推進していない自治体も例として挙げてました。※地域猫・まち猫活動の推進自治体 -> 神奈川県・京都市※栃木県は検討段階。札幌市は令和2年に「飼い主のいない猫への対応ガイドライン」で明文化されています。
京都府京都市のケース(まちねこ推進自治体)
上のグラフの見方は、灰色の棒が苦情(相談)件数を表しており、メモリが右側になります。折れ線は、▲保健所の猫引取り数、■殺処分数、●路上死となっております。メモリは左側。これらを自治体の公表資料から数値が取れた年度順に並べたものです。
例えば、上のグラフは京都市のものになりますが、2009年度(平成21年)から苦情件数(棒)、引取り数・殺処分数(折れ線)が並び、2011年度(平成23年)から路上死数(折れ線)を表示しています。(全体としては2019年度(令和元年)まで)
京都市は、2010年度(平成22年)から「まちねこ活動支援事業」を開始しております。少し視点を変えて、まちねこ活動支援事業における猫の不妊・去勢手術の頭数と苦情件数の増減に着目すると以下のようになります。
手術頭数(折れ線)は、累計数のため右肩上がりを示しています。苦情件数については、2013年度(平成23年)に急減しておりますが、これは改正動物愛護管理法の施行が影響していると思われます。(2012年9月公布、2013年9月施行)多頭飼育の適正化や犬猫の引取り拒否事由が明記されたことによる影響が少なからずあるものと思われます。
また、京都市を最初に取り上げたのは、全国の自治体の中でも地域猫活動の実態について詳しく公表されているからです。以下の京都市情報館のページで詳細を見ることができます。
まちねこ活動支援事業の10年間の事業評価
https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/0000277536.html
2020年12月2日, 京都市情報館
自治体公表資料(数値参照資料)
「京都市動物愛護行動計画」https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/cmsfiles/contents/0000281/281387/keikaku.pdf
「まちねこ活動支援事業の10年間の事業評価」https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/0000277536.html
神奈川県のケース(地域猫推進自治体)
※神奈川県動物保護センターが管轄する28市町村の数値になります。(横浜市、川崎市、相模原市、横須賀市及び藤沢市を除く)
神奈川県に関しては、横浜市磯子区で地域猫が始まった経緯もあり、是非とも確認をしたかった地域でした。しかし、残念ながらその横浜市のHPではデータの公表はなく、また発起である磯子区(いそねこ協議会)でも数値記載のデータ見当たりません。特に磯子区では20年以上続く地域猫活動です。積み上げられたデータもお持ちだと思いますので、セミナー等に限らず有益な情報を広くシェアして欲しいものです。
なお、上記グラフは神奈川県動物保護センターが管轄する28市町村の数値になりますが、路上死の数値は一部の資料でしか確認が取れなかったため記載しておりません。以下は、2016年度(平成28年)のデータになりますが、「神奈川県 飼い主のいない猫対策ガイドライン」(3ページ目)で参照できます。
また、手元にあった藤沢市の飼い主への啓発パンフレットでは、
2014年度(平成26年)の路上死数が、847匹。2018年度(平成30年)の路上死数が、559匹。
でした。
自治体公表資料(数値参照資料)
「平成28年度動物保護センター事業概要」https://www.pref.kanagawa.jp/osirase/1594/awc/assets/pdf/about/summary/1157257_4095293_misc.pdf
「平成29年度動物保護センター事業概要」https://www.pref.kanagawa.jp/osirase/1594/awc/assets/pdf/about/summary/1157257_4095291_misc.pdf
「平成30年度動物保護センター事業概要」https://www.pref.kanagawa.jp/osirase/1594/awc/assets/pdf/about/summary/30gaiyou.pdf
「令和元年度動物保護(愛護)センター事業概要 」https://www.pref.kanagawa.jp/osirase/1594/awc/assets/pdf/about/summary/r1zigyougaiyou.pdf
「神奈川県飼い主のいない猫対策ガイドライン」https://www.pref.kanagawa.jp/osirase/1594/awc/assets/pdf/ownerless-cat/nekogaidorainn.pdf
「猫を正しく飼いましょう」(藤沢市)http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/seiei/kurashi/dobutsu/documents/hp_2020_kaineko.pdf
栃木県のケース(地域猫検討中)
栃木県では、令和3年3月に動物愛護管理推進計画(第3次)の中(第4 施策の取組 2 適正飼養の推進)で、
『対象となる猫が地域住民と共生しつつ、問題解決へ向かう取組(地域猫活動等)の検討を進めます。』
とされています。栃木県が目指す人と動物の共生する社会に向けて、必要に応じて地域猫活動の支援の取組みも検討されるということでしょう。
栃木県では殺処分数が以前と比べて大きく減少しています。引取り数と合わせてみると、保健所で引き取らなければ殺処分しないで済むを地で行っているような結果です。(東京都の殺処分ゼロの施策も同じようなものです。引取りしなければ殺処分を減らせる。)
自治体公表資料(数値参照資料)
「それでも自由に外に出しますか?」https://www.pref.tochigi.lg.jp/e53/system/desaki/desaki/documents/2020tadasiineko.pdf
「栃木県動物愛護管理推進計画(第3次)」https://www.pref.tochigi.lg.jp/e07/system/honchou/honchou/documents/20210706105305.pdf
北海道札幌市のケース(令和2年に地域猫明文化)
札幌市のデータは、少し古いです。公表されている札幌市動物愛護管理基本構想は、2015年(平成27年)5月時点のため、過去10年のデータの記載は2004年(平成16年)~2013年(平成25年)のものになります。また、地域猫に関しては、「飼い主のいない猫への対応ガイドライン」(令和2年)にて明文化されておりますが、不妊・去勢手術の補助金等はなく、あくまでガイドライン上で札幌市の考え方を伝えるものになっております。
殺処分に関しては、2013年に大きく数を減らしておりますが、改正動物愛護管理法(2012年9月公布、2013年9月施行)による影響が大きいと思われます。(全国自治体で同様の推移)
自治体公表資料(数値参照資料)
「札幌市動物愛護管理基本構想の策定」https://www.city.sapporo.jp/inuneko/main/kihonkoso.html
「札幌市動物愛護管理推進計画」https://www.city.sapporo.jp/inuneko/main/keikaku.html
「飼い主のいない猫への対応ガイドライン」https://www.city.sapporo.jp/inuneko/main/documents/sapporo_cat_guideline.pdf
減らない苦情件数についての考察
地域猫活動を推進されている、京都府京都市と神奈川県(横浜市、川崎市、相模原市、横須賀市及び藤沢市を除く)のデータを見ると、苦情・相談件数は思った程の減り具合ではないと感じられる方もいるかもしれません。どちらの地域も一定期間、地域猫活動を続けてこられておりますので、地域環境の改善にもっと寄与してもいいように思います。
地域猫活動は、地域の猫を管理して環境改善する目的がありますし、活動を続けることで地域猫の数が減るはずです。また、地域猫を始められたからには野良猫が多く、糞尿などの問題を抱えられていた地区が対象であったはずです。加えて、この苦情・相談件数は、自治体の動物愛護センターや保健所に寄せられる声の集計になります。地域猫活動を行っている地区の中で処理される苦情や相談の数は含まれないということになります。野良猫の事であれば、保健所や役所などに苦情や相談をしていたと思いますが、その猫達が地域猫になれば苦情や相談は、活動グループに寄せられ、地域で何かしらの対処が行われていくものと思います。これらを踏まえると、地域猫活動を一定期間続けていけば苦情や相談の数は減っていくはずと思うのは、当然のことだと思います。
では、なぜ苦情件数が思うように減らないのか?いくつか考えられるところを挙げてみます。
- 猫の数が減っていない。
- きちんと管理されていない。
- 迷惑をしていた人の状況が変わっていない。
猫の数が減っていない。
地域に生息する猫の数について、正確な数を把握されている地域はほぼないと思いますが、猫の数(特に飼い主のいない猫)を判断する材料として、路上死(自治体の死体収容)の数が参考になります。
例えば、京都市では2016年に3,715匹の猫が路上死しています。単純計算で1日に10匹もの猫が外で亡くなっています。死因の多くは交通事故になりますが、殺処分よりはるかに多い路上死もまた問題だと思います。
京都市では、2011年~2016年にかけて、おおよそ一割程度順調に路上死が減っています。2017年以降はデータを見つけることはできませんでしたが、京都市に限っていえば猫の数が減っていないということでもなさそうです。また、神奈川県の路上死数はわかりませんでしたが、藤沢市の2014年(847匹)、2018年(559匹)を見る限りでは減少傾向にあるのかもしれません。栃木県の路上死数は横ばい、札幌市は順調に数を減らしているように見えるところです。(データは古いのですが)
一部の地域の例にすぎませんが、地域に生息する猫の数が減っていないということではないのだと思います。
きちんと管理されていない。
地域猫を始めたからといって、きちんと管理されていなければ、餌やりされている野良猫と変わりありません。食べ残した餌の後片付け、糞尿の管理、糞尿の始末、流入猫の把握と不妊・去勢手術の継続実施、譲渡活動の推進などやるべきことを続けていかないと活動自体が形骸化してしまいます。少なからず地域猫活動を成功されている地区もあるかと存じますが、取り組み方によってはとても差が出るところなのかもしれません。
迷惑をしていた人の状況が変わっていない。
苦情をする人はどういう人か?
案外、一部の人なんじゃないでしょうか?些細な事でも許せない人、猫嫌いな人、糞尿や庭荒らしなど本当に困り果てている人。
管理人も自治会、役所、保健所に相談の電話を入れている一部の人です。別に猫が嫌いなわけではありませんし、憎いわけでもありません。本当に猫の数が多くて糞被害も毎日でした。朝、仕事に出掛けようと玄関から一歩出たら目の前にホカホカの糞。こんなのが毎日続いたら苦情の一つでも入れたくなります。しかも、餌やりする人は餌やるだけであとは知らん顔です。だから歩いていると糞だらけです。片付けは有志の人がやっているのです。
もし、地域猫を続けていても迷惑している人の状況が変わっていないのなら、苦情や相談の状況は変わらないのかもしれません。
地域猫を始めたらすぐに苦情や相談が減るものじゃない
一方、地域猫を始めたからといって、すぐに苦情や相談が減るわけではないという考えもあります。猫の数はしばらくは変わりませんし、猫の問題行動がすぐになくなるなんてこともありません。給餌や寝床、糞尿の始末などどこまで管理できるかも地域によって異なることでしょう。
それに自治体が地域猫の推進を始めたとして、活動を始められるのは限られた一部の地区です。県内全体や市内全体で一斉に行う活動ではないので、限られた一部の地区の効果が自治体全体で見た時にどこまで影響があるのかというところです。ただし、地域猫推進事業を長く続けていれば、活動地区も広がると思いますし、一定の効果も求められるところだと思います。(税金が投入されています)
そう考えると京都市のケースで言えば、いい結果が得られているとも考えられるし、長く続けている割には苦情や相談が減っていないとどちらにもとれるのかもしれません。
路上死についての考察(補足程度)
路上死(自治体による死体収容数)に関しては、公表があまりされておらず一概に何かを言えるものではないと思います。
数の推移だけで言えば、京都市や札幌市は減少していますし、栃木県では横ばいです。地域猫活動との関連性があるかは定かではありませんが、いずれも増加傾向が見られないのは事実だと思います。
路上死に関しては、どの地域でも交通事故が多数を占めると言われています。昨今、自治体による殺処分数は明らかな減少を見せていますが、その陰で別の亡くなり方をしていては元の木阿弥と言われても仕方ないと思います。
また、人によっては殺処分を忌み嫌い、路上死に関しては仕方ないと考える方もおられるでしょう。その違いは、殺処分による死を非人道的であり、人間のエゴが滲み出るかのような行為だと感じるか、人間社会のルールにおいて仕方ない犠牲と感じるのかの違いであるように思えます。
路上死の数はあまり目にすることはできませんが、外で生活する猫の数の目安にもなります。動物愛護の観点からしても殺処分の数ばかりではなく、路上死の数も公表をしていただきたいと思うところです。
以上になります。地域猫の成功事例として東京都台東区、北海道天売島(天売猫)は知られるところです。こうした地域では同様の指標を取れば明らかな減少が見られると思います。これらの地域の取り組み方を見ると試行錯誤しながら地道に活動をされているのが伝わりますが、もっと率直な感想は、金と人をかけてやっているな。と感じます。助成金の額もやはり多いし、動物愛護団体やNPO法人、地域の有志の方や地元住民の参加意欲の高さがあります。関連性を見ていく中で、お金と人も合わせるとより理解が深まるのではないかと思いました。