地域猫活動における「地域の合意」は、環境省の『住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン』中の「V. 地域猫」でも、重要とされているものの一つです。
「実際に活動を行う人、自治会、猫が苦手な方、猫の管理に反対な方も含めて話し合いを行い、活動を行うか意思の統一を確認した上で活動を始めることが必要です」
しかし、猫が苦手な方、地域猫活動自体に反対の方が話し合いの場に来られないことや合意や了承をいただけないこともあるでしょう。また、活動を始めるにあたり、説明会の案内や活動内容の周知などを回覧等で行っても見ていない人がいて、活動自体を知らない方も出て来ます。
さて、地域にこのような方々がいる場合、「地域の合意」を得られたと言えるのでしょうか?
合意するということは、当然ながらその合意内容に従う必要があります。
賛成派の方や実際に活動を行う方は、決められたルールを守り、地域猫を管理していく必要があります。反対派の方も地域で合意したとなれば、地域猫として存在を許容するだけでなく、地域猫による被害のある程度は受忍する必要も出てきます。
このため「地域の合意」は、非常に重要な課題とも言えると思います。
「地域の合意」について、以下の点を深く掘り下げて、理解を深めていきたいと思います。
▼目次
- 言葉の意味としての「合意」
- 私達が普段行っている「合意」
- 法律における「合意」
- 環境省が考える「地域の合意」とは
- どのように「地域の合意」を得ればいいのか
- 実際はどのように地域の合意を得ているものでしょうか?
- きちんと「地域の合意」を得ていない場合、考えられる不都合・トラブル
- こんなものは「合意」ではない
言葉の意味としての「合意」
辞書を引くとこのような意味になります。
「互いの意思が一致すること」「法律上は、当事者の意思表示が合致すること」
地域猫活動に関して言えば、
「地域猫活動を行いたいか行いたくないかという考えが、地域の住民間で一致すること」
と言えるでしょう。
私達が普段行っている「合意」
例えば、コンビニで飲み物を買う
「これください」
とレジに持って行けば、店員がバーコードをピッ読み取り
「〇×円になります」
と金額を伝える。これを持って当事者間で合意した。と意識をして生活をしているわけではないと思いますが、お店側がやっぱり売らないということはないだろうし、購入した私達もやっぱり気に入らないから返品する。ということは基本的にありません。
もちろん、レシートを持っていけば返品に応じてくれるお店もありますが、これもお店側の判断で、レシートを持ってくる、未開封である、何日以内に。という条件付きで一度、合意した契約を解消する。ということになります。
他にもっと身近なことで考えると、朝出掛ける前、奥さんに
「帰りにプリン買ってきて」
と頼まれたとする。
「わかったよ。いつものね」
という会話のちょっとした約束事も当事者間の合意です。頼んだ奥さんは、買ってきてもらえると思っているし、頼まれた旦那さんは、約束を違えないようにするはずです。
もちろん買い忘れてしまう事もありますが、たかが「プリン」でヒドイ制裁を受けることもあります。つまり、合意したらその合意内容に関して、義務が発生するということです。
法律における「合意」
以下は、図解六法の「合意・同意・約束・約定・契約」から抜粋したもの。
合意当事者の全員の意思が一致(合致)すること(民訴一一、刑訴三二七、建基七〇③等)。なお、類語の「同意」と異なり、当事者の一方が能動的で他方が受動的立場に立つことを必要としない。
出展元:図解六法「合意・同意・約束・約定・契約」
当事者の全員の意思が一致(合致)すること。と考えると
地域猫活動に関しては言えば、活動を行いたくない。という方が一人でもいる場合は、合意に達しているとは言えないではないでしょうか?
活動に反対する地域住民も含め、全員がこの条件で行うのであれば、活動を行ってもいい。
と全員の意思が一致(合致)しない場合は、地域の合意が得られた。とするのは難しいともとれます。
環境省が考える「地域の合意」とは
環境省の動物愛護管理室の職員に「地域の合意」は何をもって合意を得たとした方がよいか、電話で確認したものですが、
「地域ごと話し合いをしてもらって、ルール作りをし、進めていただければ」
という、あまり具体的な話はありませんでした。ガイドラインに縛りを設けてしまうと地域の実情に合わせた活動が難しくなるから。という理由だそうです。
その他、活動後に反対をされる方や引っ越ししてくる方も少なからずいらっしゃるので、一例として
「月に1回など定期的に話し合いの場を設けて、活動に関する意見を集めたり、改善をしていく」
こともいいかもしれません。とのこと。
やはり、自治体の職員と自治会を含めて、どのように合意形成をすべきかも含めて決め、それをどのように周知して合意を得るかはその地域で決める必要があるという話です。
また、反対派の方がいる場合は、
「その方が何に反対しているのかをきちんと聞き、事前に解消したり、妥協案を見つけて、納得の上、活動を始めないと住民間トラブルになる恐れがある」
というお話もありました。
どのように「地域の合意」を得ればいいのか
以上を踏まえると、決して、多数決で地域の合意を得られたと判断しても良い。そんなことはありえません。
管理人が環境省の職員の方と話をしている中で、気になったのは、住民間トラブルを大変気にされていた様子でした。これは昨今、事件になるような住民間トラブルもあるからだと思います。
反対派の方が何に反対であるのかを確認した上で、解決できることなら解決し、妥協点を見つけられるのであれば折り合いをつける。ルールに含める必要があれば盛り込む。
- 面倒を見るだけではなく、減らすための活動、ルール作り(不妊去勢手術、譲渡活動など)
- よその地域からの野良猫流入、捨て猫の扱い
- 飼い猫の完全室内飼いの協力(放し飼いの禁止)
- 猫アレルギーの方への配慮(餌やり場所の考慮等)
- 猫嫌いの方への配慮(猫よけグッズの貸し出し等)
- 餌代、不妊去勢手術費などお金の工面方法の取り決め
- 糞尿問題の把握方法(イエローチョーク作戦を行う等)
- 地域猫による損害の金銭補償
- ルールを守れていない、改善されない場合の対応の取り決め(活動の停止も含め)
反対派から出るであろう意見に対して、慎重に話し合い、ルールに盛り込むなどの必要性があると思います。不妊去勢手術、餌やり、トイレの管理、誰が活動を行うかなどは当然のことですが、ある程度のケースバイケースは踏み込んで、合意形成を得るべきです。
また、細かい話が盛り込めない場合でも、問題や疑問が生じた際は
「地域(自治会)で誠意をもって協議し、解決する」
これくらいの一文は、必要でしょう。
いずれにせよ、きちんと詰めておかないと引っ越してきた方が反対だった場合に、説得もできないと思います。
ここまで、地域の合意を文書にまとめて、周知し、住民の合意を得る。という前提で話してきましたが、合意を得るという意味であれば文書は必ずしも必要ではありません。しかし、地域猫を始める必要がある程の地域の問題であるはずだから、まさか、文書もなく話し合いや口頭での説明だけで合意した。などということはないでしょう。それこそトラブルの元だと思います。
さて、実際はどのように地域の合意を得ているものでしょうか?
自治体が地域猫活動を支援して進めている場合、以下のような届出を必要とします。
- 活動代表者の氏名、団体名、活動者の人数、連絡先
- 活動地域、地域の図面(および餌場、トイレの設置場所の明記)
- 管理する猫の数、猫の特徴をまとめたもの
- 猫の管理方法をまとめたもの(餌場、餌の時間、片付け、トイレの設置場所・数、糞の始末等)
- 自治会の承認書類
- 不妊去勢手術の補助金申請書
- 活動記録、苦情対応等の報告書
このうち「自治会の承認書類」をもって、地域の合意を得た。としています。
承認書類には、自治会、町内会の代表者の氏名、住所、電話番号、捺印を必要とします。また、地域によっては、代表者だけでなく役員等複数名の連名が必要な場合もあります。
自治会の承認については、自治体による活動の説明会、啓発資料の配布、自治会内での話し合い、住民に対しての回覧を行われているところが多いようです。さらに、活動の周知は継続して行うことも盛り込まれている場合が多く、問題の把握や理解、協力を得るための活動も必要としています。
きちんと「地域の合意」を得ていない場合、考えられる不都合・トラブル
- 理解を得られない餌やりのトラブル
- 餌やり場所を巡ってのトラブル
- 地域猫の被害による金銭トラブル
- 不妊去勢手術費の寄付金トラブル
- 活動家と反対派の間での住民間トラブル
きちんと「地域の合意」を得ていない活動の場合、これらトラブルが発生した時の対処は、万全でしょうか?
もし、十分な話し合いの上、始めた活動であれば、ルール作りの中に何かしら盛り込まれているか、問題発生時の対応についても取り決めがあるはずです。何もなければ行き当たりばったりで、困っている人は困ったまま、トラブルに発展することが目に見えています。
加えて、引っ越してきた方が反対された場合、十分に説得できる材料があるかも疑問です。
他にも万が一、活動がうまくいかなかった場合、活動自体の止め方でも揉める可能性があります。活動自体を止めると言っても、これまで餌やりをしてきたわけですから、簡単に給餌、給水をストップするわけにもいきません。動物虐待ではないのか?という意見が必ず出て来ます。活動を止めるにしても、止めた後、どのように猫達の面倒を見るか、決める必要があります。
こんなものは「合意」ではない
単純な話、
「地域猫活動を行いたいという考えが、地域の住民間で一致すること」
行いたくない。と考えている方がいるなら地域で合意が得られていないと考えることもできます。しかし、自治会に所属する世帯数と言えば、少なくても数百世帯がいることが普通で、一人一人の合意を得るのは現実的に難しいことも確かでしょう。実際のところは、何度か説明会の場を設け、出席できない方には、個別の説明か回覧での周知(この際に承諾の記名、捺印)などで自治会として合意した形を取り、始めることが多いと思います。
では、こういった方々はどうなるのでしょうか?
地域猫活動なんてやりたくない、やって欲しくない、合意なんてしたくない。出張で説明会に参加できない、回覧なんて知らなかった、そもそも自治会に所属していない。引越して来たら地域猫活動が行われていた。家の側が餌場でとても困っている。
自治会として合意し、自治会の承認書類が提出されてしまった場合、この方達も同意したことになるのでしょうか?
少し見方を変えてみます。
性犯罪が起きると加害者は、
「合意の上で行ったものだ」
と主張します。しかし、被害者からすると真逆の性的暴行を受けた。という主張になります。
お酒に酔っていたり、熟睡してしまった場合、無理やりでなくとも意思表示が正しくできない状態だとしたら、それは合意したとは言えないのではないでしょうか?
「相手が嫌がっていなかった」「相手も乗り気だった」
加害者がこのように思っていても「準強制性交罪」が成立します。
意思表示ができない、正常な判断ができない状態では、同意や合意を得られたとは認められないのです。
もし、反対をしている方や活動自体を知らない方、説明会に出ていない、出られなかった、回覧はまわってきたけどイエスともノーとも意思表示はしていない。
このような方がいた場合、この方達から「合意」を得られたとは言えないと思います。
以上になります。地域猫活動を始めるということは、地域猫が起こすある程度の問題は受忍する必要があると考えられます。なぜか?地域猫活動を始めたからといって、すぐに猫による問題が解決するわけではなく、時間をかけて問題を解決していくことになるからです。これは、説明があるなしに係わらず、容易に認識できることです。ですので、地域猫活動に合意するということは、地域猫による問題や被害についてその地域の住民は、受忍や許容が必要になるわけです。また、猫の数が減っていくにしても少なくて数年はかかります。これらを踏まえて活動を行うべきかは慎重に十分に検討すべきことかと思います。(管理人)