公益財団法人動物環境・福祉協会Evaは、日本の動物福祉の向上を掲げ、人と動物がしあわせに共生できる社会を目指して活動を行っている団体です。理事長は杉本彩氏が務めており名前を見聞きされたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
Evaに関して例えば、毎年啓発ポスターを作成されておりますがその標題は以下の通りになります。
2019年「命の店頭販売はいりません。」2020年「言い訳は必要ありません。ネグレクトは犯罪です。」2021年「ペットの商品化の闇」2022年「おもいやりは、想像。」
上記のうち二つがペットショップに対する問題提起の内容です。また、2015年にはクラウドファンディングで支援を募っておりましたが、この時の題目が「動物たちにやさしい世界を」であり、動物のための映像製作を目的とするものでした。こちらのクラウドファンディングは、目的、内容、支援の結果に対する活動の報告など現在も公式HPにて掲載があり確認することができます。
クラウドファンディング 杉本彩と一緒に作ろう!動物たちにやさしい世界を~動物のための映像製作!-> https://www.eva.or.jp/nopetshop_project
「動物たちにやさしい世界を」の標題ではありますが、要約すれば『ペットショップは闇があるので購入しないでください』といった内容です。少し前の活動ではありますが、訂正も差し替えも取り下げもないところを見ると掲載に見られる団体の考え方は大きく変わっていないものと拝察いたします。
本記事のタイトル通り、Evaの偏ったペットショップ批判を上記クラウドファンディングの掲載内容を元にまとめますが、団体批判をするためのものではありません。あくまで客観的に「偏った」部分を精査した内容としています。
▼目次
- クラウドファンディングの概要
- 動物のための映像「しあわせなおかいもの?」について
- 大量生産と売れ残りの実態の根拠や具体例が示されていない
- 一部の悪徳ブリーダーを取り上げているだけにすぎません
- 殺処分と同数かそれ以上がペット流通で亡くなると考えるのは憶測
- 掲載内容全般において根拠や具体例がなく誘導的であり作為的
クラウドファンディングの概要
標題「杉本彩と一緒に作ろう!動物たちにやさしい世界を~動物のための映像製作!」
申込み期間 | 2015年7月17日~9月14日 |
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目標金額 | 4,000,000円 |
支援総額 | 5,380,000円 |
支援者 | 328人 |
こちらのクラウドファンディングは、「動物たちにやさしい世界を」Projectの一環として動物のための映像製作を呼び掛けたものになります。結果としては目標金額を上回り、動物のための映像「しあわせなおかいもの?」が製作されております。
動物のための映像「しあわせなおかいもの?」について
製作された映像は、Evaのホームページにて公開されております。
「しあわせなおかいもの?」-> https://www.eva.or.jp/nopetshop_movie
映像の概要としては、ペットショップと流通過程の繁殖場やペットオークションの様子から動物をモノのように扱うニンゲン(ペット業界の関係者)を描きます。また、ペットを購入しにきたニンゲンのお嬢ちゃんが最初は嬉々として犬を見つめていた所からペット流通の闇に気付き考え直すといった内容です。もう少し描写を詳しく見てみると以下のようなところです。
ペットショップのスタッフの描写として「すっかり大きくなっちまって」「おまえはもうダメだな」「売れない自分たちを恨めよ」といった言葉があり、スタッフの顔はドクロに変わっていきます。また、ペットオークションのスタッフは「お買い得でーす!」「足が悪いけど売っちまえ」とこちらも顔がドクロに。さらに、繁殖場のスタッフも「おお、産んでる、産んでる」「こいつぁ、高く売れそうだ。足りねえ、足りねえ!もっと子犬が必要だー!」と狂気じみた発言をしています。最後に「その負のサイクルに加担しますか?買う前に知ろう。」「犬や猫と暮らす時は、ペットショップではなく保護施設から」と締めます。
さて、率直な感想を申し上げると、酷い職業差別だと思いますね。ペット業界に携わる方の多くがここで紹介される考えや行動であるのならまだしもその事実や根拠を示すことなく作られている映像です。法令やルールを守って生業とされている方々に対して恣意的な印象操作が行われていると言わざるを得ません。
大量生産と売れ残りの実態の根拠や具体例が示されていない
こちらのクラウドファンディングに掲載の内容によると、ペットショップに並ぶ犬猫は工場のラインで生産されるがごとく「大量生産」されているとのことです。その根拠として以下のようなものが挙げられています。
ぬいぐるみみたいに小さくて可愛いのはほんの数週間です。それなのに常にペットショップには子犬子猫が展示されています。
値段は1頭何万円も何十万円もします。そんな高額なものが毎日次から次へ売れるとは到底思えません。
このご時世、物を作って100パーセント売れることなどまずありません。
また、ペットの流通の問題点として以下を挙げられています。
消費者が買う→だから産ませる→だから余る→だから処分する
確かにこの内容を鵜呑みにするとペットショップで動物を買うから裏での大量生産に繋がり、売れ残りが出れば処分に繋がってしまうと読み取れます。ただし、処分されてしまう程の大量生産が行われているかの裏付けがありません。子犬子猫の展示販売や高額だから毎日売れるとは思えないといった内容は単なる憶測でしかありません。
ペットショップの業者は、第一種動物取扱業の登録が必要です。また法令遵守が義務付けられています。例えば、動物の所有状況について個体毎の帳簿の記載と5年間の保管及び報告が義務付けられています。すなわち、仕入れ頭数と売れた頭数を自治体に報告する義務があるということです。当然、流通の過程で死亡する動物も出てきますが、死亡原因や死亡日についても帳簿への記載が必要です。こうした報告義務により、犬猫が売れずに多く余っていたり死亡する数が多ければ、自治体で把握できる仕組みになっています。このため、問題があれば自治体が立入検査し行政指導を行います。さらに、改善が見込めなければ動物取扱業の取消処分となります。(改善命令・業務停止命令に従わなかった場合の罰則規定ももちろんあります)
では、ペットショップの売れ残りや処分に関して、自治体が立入検査をして行政処分、取消処分となったケースが多数あるかと言えばそうではありません。しかし、だからといってペットショップの運営が健全だとも言い切れません。それは、自治体が問題を発見して立入検査を行った場合でも取消処分に踏み切れないことも多いからです。取消処分をすれば残った動物達の取扱いが問題になります。また、取消処分を行ってしまうと動物取扱業ではなくなってしまう為、自治体の立入検査が容易にはできなくなってしまいます。このため行政指導に留めてしまい問題が悪化することもあります。
この説明でも具体的な根拠は示せていないと思いますが、少なくともペットショップは仕入れ頭数と売れた頭数、販売・引渡し先、死亡原因等を自治体に報告を行っている(法令に則って運営している)のだけは確かだと思います。
一部の悪徳ブリーダーを取り上げているだけにすぎません
パピーミル(仔犬工場)と呼ばれる世間に波紋を呼ぶような事件の摘発は、ニュースなどで時折取り上げられており悪徳ブリーダーが存在することは周知の事実と思います。
劣悪環境での繁殖については、Evaのクラウドファンディングの掲載内容にも指摘があります。
とにかく劣悪な衛生管理の中で、ワクチン接種もフィラリア予防もせず10年以上このような状態で子供を産ませ続けられている子が、ペットショップに並ぶ犬猫の親なのです。
このような状態というのは、空調管理もなく、狭いケージに入れられ、ケージの中は糞尿だらけ、足や背骨が曲がっていても、腫瘍ができていても、膿で目がつぶれていても、無理な出産でアゴの骨が溶けていても、治療など施されることなく繁殖を強いられているとのことです。摘発された悪徳繁殖業者のケースで言えばこういった事例があります。例えば、長野県松本市のペット繁殖場「アニマル桃太郎」の事件は記憶に新しくこのような実態が白日の下にさらされたケースです。
また、Evaのクラウドファンディングの掲載内容には、
もちろんすべてのブリーダーを非難するわけではありません。ブリーダーの中には心底その種に惚れ込んで大切に育て正しい知識を持った素晴らしい方もいます。
とフォローも入りますが、
しかし、ペットショップで売られている、愛くるしい動物たちの多くは、金儲けの道具となっている悲惨な動物たちから産まれていることは少なくありません。
とのことです。悲惨な動物たちから産まれていることは少なくないそうですが、少なくない根拠がどこにも示されておりません。しかし、こちらの文章を読み進める限り、善良なブリーダーは中にはいるがペットショップで売られている動物達の多くが悲惨な動物たちから産まれていることが少なくないとしているため、ペットショップに並ぶ犬猫の多くは悪徳ブリーダーによって生産されたものと誘導し、印象付けるものとなってしまっています。
それからもう一つ付け加えるとすれば、Evaの掲載内容に見られる「少なくない」という表現が巧みなところです。「多い」とは決して断言していないのです。おそらくこちらの文章を書かれた方の中に、『悲惨な動物たちは一定数いると思うんだけど多いとも言えない』という気持ちがあったと垣間見れるわけです。
では、少し数字の根拠らしいものを環境省の資料から拝借したいと思います。
環境省の動物愛護に関する報告書に「動物の遺棄・虐待事例等調査報告書」があります。
環境省HP「動物の愛護と適切な管理」パンフレット・報告書等に掲載
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph.html
パンフレット・報告書等 -> 動物愛護管理法 報告書等
令和4年度動物の虐待事例等調査報告書平成30年度動物の虐待事例等調査報告書平成25年度動物の虐待事例等調査報告書平成21年度動物の遺棄・虐待事例等調査報告書平成19年度動物の遺棄・虐待事例等調査報告書
こちらの報告書では、過去の判例及び新聞報道された動物虐待事例を一件ずつ要約しリスト化されており、総数は以下の通り。
判例及び新聞報道された動物虐待事例の総件数
新聞報道 | 551件 |
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裁判判例 | 80件 |
※動物に関する事例集計のため、犬猫以外の動物も含まれます。※新聞報道の集計期間は、2003年~2017年。※裁判判例の集計期間は、1974年~2018年になります。
この中から動物虐待または遺棄に該当し、かつペットショップまたは繁殖業者、引取業者が関わった事件の件数をカウントすると以下の通り。
ペットショップまたは繁殖業者、引取業者が関わる件数
新聞報道 | 30件 |
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裁判判例 | 1件 |
※動物に関する事例集計のため、犬猫以外の動物も含まれます。
具体的な手口としては、ネグレクト(給餌不足、放置等の劣悪環境下での飼育)、遺棄、虐待、多頭飼育、殺傷といった内容が含まれます。このうち判例の一件は、2009年の山形県寒河江市のハト殺傷事件によるものです。
加えて、環境省の資料「動物取扱業者の登録・届出状況(都道府県・指定都市)」では動物の販売に携わる全国の件数が確認できますが、平成28年4月1日時点の資料で21,104件となっております。
これらの資料より、20,000を超える数の業者が販売に携わっている中、過去15年間を遡って新聞報道・判例を見て31件の結果であったことがわかります。ただし、あくまで新聞報道されたものに限りますので一部の事例と考えられます。しかし、新聞報道や裁判にまで行きつく程の悪質なケースは限られているとも考えられますので、一定の参考になるデータと言えるでしょう。
「動物取扱業者の登録・届出状況(都道府県・指定都市)-> https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/work.html
悪徳業者と呼ばれるような違法な業者は、ペット業界に限らずどの業界でも一定数存在します。上記のデータを見る限りではペット業界だけが飛びぬけて問題が多いとは考えにくいと推察します。
殺処分と同数かそれ以上がペット流通で亡くなると考えるのは憶測
クラウドファンディングの掲載内容には、平成25年の年間殺処分数が掲載されています。その数、年間12万8千頭の犬猫の殺処分。
現在(令和3年度)では、10分の1近くまで殺処分を減らしてきておりますが、当時はかなりの数でありました。
そして、ペット流通の中で亡くなる数として以下のような内容が掲載されています。
ペット流通の闇の中で死んでいった命の数はカウントされてなく、全体数を含めたらこの倍、いえそれ以上かも知れません。
どうやら年間12万8千頭の殺処分と同等数かそれ以上の数が亡くなっているかもしれないと考えていたようです。ただし、何ら根拠は示されておりません。
ペット流通で亡くなる数については、いくつかの調査結果があります。例えば、環境省が平成22年度に行った動物取扱業者(全国ペット協会加盟店舗)向けの郵送アンケートの結果では以下のような記載があります。
犬猫の生体流通における死亡率は約 2%(犬で約 1.5%、猫で約 3%)で、より若齢を取り扱う自社繁殖での個体における死亡率が高い。
また、集計結果の生体流通における死亡状況を引用すると以下の通りです。
参照資料「動物愛護管理基本指針の点検(第4回)について 図表資料」の12頁-> https://www.env.go.jp/council/content/i_10/900435047.pdf
資料には売れ残った動物の取り扱いについても取り上げられておりますが、当然、違法な処分が行われている実態は確認できません。
また、2018年の朝日新聞の調査では、国内で繁殖・販売されていた犬猫のうち約2万6千匹が亡くなっていたとも報道されております。なお、犬猫あわせた流通量は、のべ89万6126匹とのこと。
参照記事「犬猫、流通中に年2.6万匹死ぬ ペットショップ・業者」朝日新聞, 2020年4月1日掲載-> https://www.asahi.com/articles/ASN3Y575NN3KUUPI001.html
これらの調査結果を踏まえるとEvaの考えるペット流通における死亡数がいかに誇張したものであったのかがわかると思います。
掲載内容全般において根拠や具体例がなく誘導的であり作為的
Evaのクラウドファンディング「杉本彩と一緒に作ろう!動物たちにやさしい世界を~動物のための映像製作!」では、根拠や具体例がなく、「大量生産」「余る」「処分する」といった抽象的な表現に留まり具体的な数字が出てきません。一部の悪徳ブリーダーを取り上げて業界全体の問題のように取り上げるのは誘導的と言わざるを得ません。また、一部の問題ある劣悪環境の画像を差し込んだり、犬猫殺処分数のグラフを用いて誇張する内容は、作為的であると感じます。
Evaの主張は、具体例や根拠がなく誘導的な印象操作であると捉えられてしまっても仕方ないものではないでしょうか。
感じ方は人それぞれな面もあるかもしれませんが、偏ったペットショップ批判と思われる方もいらっしゃるかと思います。