伊佐市「猫の愛護及び管理に関する条例」自治体の本音

 先日、伊佐市が猫の日である2月22日に、猫の愛護及び管理に関する条例案を市議会で提案されたことが話題になりました。
その後、市議会で可決され令和4年6月1日施行を予定しておりますが、野良猫の餌やりについて言及された内容も盛り込まれており、興味深いものだと思います。

条例の大枠は動物愛護法に準ずるものですが、動物愛護法には餌やりのルールまでは条文に含みません。ここに踏み込んだ条例としたことから餌やりに関する問題が散見されていたものと思われます。

伊佐市猫の愛護及び管理に関する条例に関して、経緯や目的など管理人が気になった点をまとめました。

なお、経緯や目的は、ニュースサイトの記事では以下のように述べられております。

南日本新聞「ネコの飼い方にルールを 伊佐市が「スーパー猫の日」に条例提案 担当「重なったのは偶然です」」(投稿日:2022/02/23 21:04)より以下引用。

https://373news.com/_news/storyid/152025/

昨年9月に市民グループから、ネコの不適切な飼育でふん尿被害などが増大しているとしてペット条例を定める要望書と1418筆の署名が議会に提出された。市にも多くの苦情が寄せられ、担当者は「飼い主の責任を明らかにし、正しく飼ってもらうのが目的」と話す。

▼目次

  1. 伊佐市猫の愛護及び管理に関する条例が制定
  2. 条例制定の目的と伊佐市の本音と建て前
  3. 市の答弁、捨て猫がいても「そのまま何もしないこと」
  4. 地域猫活動の効果に疑問符
  5. 市のスタンスは、とにかく地域猫

伊佐市猫の愛護及び管理に関する条例が制定

条例に関する具体的な内容は、広報いさ(2022.5.01公布)に記載があります。

広報いさ(2022.5.01公布)
伊佐市猫の愛護及び管理に関する条例が制定されました。

https://www.city.isa.kagoshima.jp/wp-content/uploads/2022/05/4456c361a6f507f69955459146304eb8.pdf

要約すると、飼い主に対しては以下のような内容です。

飼い主に対して
  • 屋内で飼養する。
  • 名札やマイクロチップ装着する。
  • 不妊手術を受けさせる。

また、飼い主のいない猫への給餌に関しても明記されています。

飼い主のいない猫への給餌
  • 餌やりの対象は、不妊去勢手術を受けたまたは受けさせようとする猫を対象とすること。
  • 給餌の適切な管理。
  • 糞尿の始末。

加えて、これらの規定に違反した場合、市長は給餌を行う者に対して指導をすることができることも条例案では盛り込まれておりました。
制定された条例の原文は、伊佐市の例規集に公開されておらず(2022年5月23日時点)確認ができていませんが、おそらく上述の内容も削除されることなく盛り込まれていると思います。

罰則規定については、ニュースリリースや市の広報にも記載が見当たりませんでしたので、おそらくないでしょう。
他県では和歌山県のように餌やりに関して罰則規定が設けているところもありますが、地域住民間の軋轢や地域猫活動の妨げになるなどの理由により罰則規定は含まない自治体もあります。伊佐市も近い理由で罰則規定は見送ったものと思います。

条例制定の目的と伊佐市の本音と建て前

伊佐市市議会だより(2022年第54号 2頁目)によると条例制定の目的は、

伊佐市市議会だより(2022年第54号)

https://www.city.isa.kagoshima.jp/wp-content/uploads/2022/05/dd044ba5971813ad92396da81d2ba0e4.pdf

猫の愛護及び管理に関する必要な事項を定めることにより、市民の動物の意識を高めるとともに、良好な生活環境の保持するための条例制定

とあります。

一方、議案への質疑(3月7日本会議4日目)の環境政策長の回答では以下のように述べられています。(本条例制定によって猫に関する問題解決となるのか?という質問に対して)

伊佐市市議会だより(2022年第54号 4頁目)から以下引用。

目的はまずルール作りをすることによって地域猫に対する問題意識をもっていただく。運用していく間に問題が起こったら対処する。

だいぶ印象が変わります。

伊佐市の環境政策長の答弁から
市民の動物の意識を高める」の具体的な内容が「地域猫に対する問題意識を持ってもらう
ということなのでしょう。

伊佐市では地域猫活動を推進していますので、ここを推し進めたいという本音が垣間見られます。

市の答弁、捨て猫がいても「そのまま何もしないこと」

なんとも現実的で非情な回答だと思った答弁。これについても触れておきます。

伊佐市猫の愛護及び管理に関する条例の質疑の中で、捨て猫の相談に対して市はどう対処するのか?の質問に対しての答弁。
以下、伊佐市市議会だより(2022年第54号 4頁目)より引用。

相談者自信が飼うか、引き取り先を探すか、そのままに何もしないことである。担当課としては何もできない。

一部抜粋ではありますがひどい切り抜きをしているわけではありません。回答の主旨がこの内容です。
市としては当然の回答かもしれませんが、相談者からすれば何も解決にならないですし、捨て猫に対する市の公式見解がこの内容というのも動物愛護とはなんなのか?と考えさせられます。

地域猫活動の効果に疑問符

伊佐市としては、地域猫活動を推進していきたいというのが本音なのでしょうが、そもそも地域猫活動の効果自体に疑問があります。

地域猫活動自体の成否については話が広がりすぎるので控えますが、伊佐市に関してはどうでしょうか。
自治体のHPに具体的な活動報告などの内容の掲載はありませんし、猫の苦情件数などの数値が見られるものもありません。
このため伊佐市の状況はわかりかねますが、鹿児島県全体であれば猫の苦情件数や殺処分数の公表があります。

鹿児島県動物愛護管理推進計画より苦情件数や引取り数を以下引用。

鹿児島県HP「鹿児島県動物愛護管理推進計画」

http://www.pref.kagoshima.jp/ae09/kenko-fukushi/yakuji-eisei/suishin/suishinkeikaku.html

猫に関する苦情件数

猫に関する苦情件数
猫に関する苦情件数

令和元年度までの苦情件数になりますが、平成22年度に約600件だったものが、平成29年には約1,200件と倍の件数となっています。平成30年、令和元年こそ減少していますが微減程度に留まり、苦情の多い状態が続いているといった状況と言えるでしょう。

猫の引取り及び殺処分頭数の推移

猫の引取り及び殺処分頭数
猫の引取り及び殺処分頭数

猫の引取り数に関しては、多くの自治体で減少傾向です。
平成24年の改正動物愛護法で、所有者の責務に終生飼養が努力義務に加わり、これを理由に保健所では引取り拒否するようになりました。
また、令和3年の改正動物愛護法では、生活環境が損なわれる事態でなければ野良猫の引取りを明確に拒否できるように改定されました。
このため、猫の引取り数の減少に伴い、殺処分が減っています。鹿児島県でも同様の推移を見せています。

さて、鹿児島県の地域猫活動の推進はいつ頃から行われてきたものでしょうか?
例えば、鹿児島市では「鹿児島市猫の適正飼養及び管理ガイドライン」(平成22年2月12日公布)に地域猫活動が登場します。
鹿児島県で言えば、「地域猫」の手引きを平成30年10月に策定しております。加えて、鹿児島県動物愛護管理推進計画(令和3年3月)では保護及び引取り数を減少させるための取組みに地域猫活動の推進が明記されています。

鹿児島県動物愛護管理推進計画(概要版)より以下引用。

鹿児島県動物愛護管理推進計画(概要版)

http://www.pref.kagoshima.jp/ae09/kenko-fukushi/yakuji-eisei/suishin/documents/38253_20210323200029-1.pdf

猫の引取り及び殺処分頭数

少なくとも鹿児島市では平成22年に地域猫活動を市として案内しており、鹿児島県でも平成30年に地域猫の手引きが公表されました。

では、平成22年以降の猫の苦情件数の推移がどうだったかと言えば、増加しています。それも2倍近くに。
地域猫活動の推進を早期に始めたのは鹿児島市だけで県全体で見ればごく一部という話もありますが、人口で言えば鹿児島県全体で約156万人(令和4年4月時点)。対して鹿児島市は約59万人です。県全体の人口の4割近くが鹿児島市に占めるのを考えると猫の苦情件数の推移にも少なからず影響があってもいいと思われます。しかし、県全体の猫の苦情件数は増加を続けていきました。

地域猫を始めれば苦情が減るわけではないことを示しているだけかもしれませんが、苦情が増えてしまっているところを見るに、地域猫活動が良好な生活環境を保持するために効果的であったかは疑問に思わざるを得ません。

※現段階で地域猫活動が広まっていないため、効果うんぬんと呼べる段階ではない可能性もあり。

市のスタンスは、とにかく地域猫

言い過ぎかどうかはともかく、伊佐市が公布されている広報いさをあらためて見てみます。

広報いさ(2022.5.01公布)
伊佐市猫の愛護及び管理に関する条例が制定されました。

https://www.city.isa.kagoshima.jp/wp-content/uploads/2022/05/4456c361a6f507f69955459146304eb8.pdf

こちらの広報の≪市の責務≫には、以下のように書かれています。

猫に起因する生活環境の問題を解消するために必要な施策を講ずる。

そして、市民(飼い主や野良猫への給餌者)に対しての責務が明示されており、問題解消するための施策としては、地域猫活動が案内されています。

地域猫活動の推進

もちろん、地域猫活動を続けることで猫に起因する生活環境の問題が解消されるのであればいいでしょう。
管理人としては、疑問に思うところもありますが、今後の経過も注目だと思っております。

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のらねこらむプロフィール

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のらねこらむ管理人

2017年4月に新居へ引っ越した直後から野良猫に悩まされる。
日々、野良猫との領地争いを繰り広げています。

対策グッズのほとんどは、実際に買って・試した結果をまとめたものです。
当サイトの情報が皆様の野良猫対策の助けになれば幸いです。
詳しいプロフィールは、こちら

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