先日、Yahoo!のニュースにもあがっていたオーストラリアでの野良猫駆除の話題。
『オーストラリア政府、毒入りソーセージを飛行機から撒き、野良猫200万匹を駆除へ』
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190429-00010003-finders-sctch2019.4.29 Yahoo!ニュース
上記記事は現在はリンク切れになっています。当時記載の内容では「野良猫」という表現をされていますが、自ら狩りをして生活している猫。野生の猫が主な対象のようです。
野良猫200万匹を駆除する。
と聞くと、残酷、残忍、非人道的と批判の声が上がるのは仕方ないような気がします。しかし、政府主導で行う対策です。安易に出した答えであるはずもなく、熟考の上、やむを得ずの対策であると思うのです。
増えすぎたから駆除する。
そんな単純な話ではないと思いました。
Yahoo!のニュースでは、固有種、在来種の絶滅危惧の為であることは書かれていましたが、文末には「クジラに向ける慈悲の心を多少なりとも猫に向けてほしい」など話をすり替えたり、思考を誘導するような記述に違和感もありました。
やはり海外の原文を読んでみないと伝わらないことがあるように感じ、原文に目に通し、事の一端をまとめてみました。
▼目次
- 駆除計画の概要
- 駆除の背景
- 他の動物が誤飲するのでは?
- 毒餌は非人道的?苦しみながら死に至るのでは?
- 捕鯨には反対、猫は毒殺っておかしくない?
- 批判する人は数多くいるが、代案を出す者はいない
- ニュージーランドでも飼い猫禁止令制定の動き
- 日本では奄美大島でノネコ管理計画
※管理人が目を通した原文は、以下で読むことができます。
駆除計画の概要
野生の猫が生息する地域への毒餌空中散布による駆除方法で、2020年までに200万匹の駆除を行うというもの。
毒餌
カンガルーの肉、鶏の脂肪、ハーブ、スパイス、猫が好む香料を混ぜて作られたもの。形状は、Chipolataと呼ばれるソーセージに似ている。とされており、短めのソーセージと考えるとしっくりきます。
毒には、化合物1080と呼ばれるものが使用されます。この化合物1080は、犬、猫の中毒性が非常に高く、ウサギやワラビーなどの小動物にも毒性が高いです。一方で鳥類の多くは、この毒に対して高い耐性を持っているようです。
また、毒の元になるものは、pellet(小さい固まり)にしてソーセージの中に入れられるようです。
散布場所
西オーストラリアの州都「Perth」(パース)付近の工場地帯、猫が多く生息する場所での散布を計画しているようです。
※パースの位置は、シドニーのちょうど反対側。海外沿いの都市です。
散布方法
飛行機から1キロメートル毎に50個のソーセージを落とす。
※記事中には、飛行機からの散布とありましたが、その他の原文を読んでいると人海戦術で生息場所に毒餌を投げ込む方法も取るようです。
駆除の背景
オーストラリアの猫に在来種はおりません。全て外から持ち込まれたもので、野生の猫の個体数は、200~600万匹の範囲と考えられているようです。
オーストラリアは、先住民族アボリジニが居住してきた大陸ですが、大航海時代、ヨーロッパの発展と共にイギリスにより植民地化されていきます。
猫もこの頃にネズミ退治の名目で穀物を守るために船に積まれてやってきます。そして、ネズミ退治が役割の猫は、室内飼いするものではなく、当然のように放し飼いが一般的です。また、当時はネズミによる感染症、黒死病(ペスト)などがネズミにより拡散され、多くの人の命が奪われた歴史もあり、猫をネズミのハンターとする放し飼いは、自然な飼い方として根付いていました。
しかし、人が考える害獣の駆除のみ行ってくれれば、益獣として確固たる地位を確立できたと思いますが、猫が持つ狩猟本能は、害獣以外にも向けられます。
この結果、数の増える野生の猫とその猫に狩られる在来種、固有種達。
野生の猫は、推定20種の哺乳類を絶滅に追いやることになります。
このように生態系への見過ごせない影響は、貴重な環境を残す上で見逃せない事態。環境保護の観点からすれば、現地の固有種を守ることはもっともなことで、駆除という方法を取るのもやむを得ず、苦肉の策という見方もできます。
他の動物が誤飲するのでは?
化合物1080と呼ばれる毒は、現地の植物「Gastrolobium plants」(ガストロロビウム)と呼ばれるマメ科の植物成分にも含まれるものです。
オーストラリアの在来種、猫の標的となっているビルビーやバンディクート、ポトルー(イタチの一種)は、この植物と共に進化をしてきたため、毒への耐性があるようです。
また、毒は、毒入りソーセージの中に小型の固形物として入っています。在来種の多くは、食物を噛み砕いて食べる習性があることから、毒の固形物に気付いて吐き出すことができるそうです。(オーストラリア政府の報告による)
毒餌は非人道的?苦しみながら死に至るのでは?
化合物1080の症状は、以下の文献によると
https://dpipwe.tas.gov.au/agriculture/agvet-chemicals/1080-poison
「Symptoms of nervous distress are seen in dogs, cats, and man, but from reports from men who have recovered, no pain is felt」
とあり、
「犬、猫、男性に神経質な苦痛の症状が見られますが、回復した男性からの報告によると、痛みは感じられませんでした」
とあります。
また、散布後の土壌や地表への影響に関しても微生物により容易に溶解されるものであり、極力苦痛を伴わず、環境へ配慮のある駆除剤と言えるのではないでしょうか。
捕鯨には反対、猫は毒殺っておかしくない?
オーストラリアは反捕鯨国であり、反捕鯨団体では「シー・シェパード」が有名です。
これは、散々昔から言われてきたことで、カンガルーも毎年何万頭もの数が射殺、撲殺され、食肉としてペットフードとして売られています。
クジラはダメ、カンガルーはぶっ殺し食べる。それはいいのか?
というと、カンガルーは害獣扱い、もしくは文化の違いという話のようです。日本で言うと鹿なども増えれば鹿狩りが行われ、間引きされます。この辺りの考え方は、野生の猫が在来種、固有種を脅かす害獣と考えれば、同様の扱いを受けても不思議はないような気がします。
しかし、クジラに関しては、先進国、経済大国である日本がわざわざクジラを捕って食べる必要なんか一つもないじゃないか?
と言われれば、それも一理。
それから、オーストラリア人から「今でも日本はクジラを食べるのか?」と聞かれたら、「私は食べないし、よく知らない、詳しくない」と答えるのが良さそうです。大いなる論争を引き起こさないためにも。
批判する人は数多くいるが、代案を出す者はいない
Yahoo!のニュース記事中にも、16万人のオンライン署名の反対やミュージシャンや女優からの批判などがありました。
それは誰でも「野良猫を200万匹を毒餌で駆除する」と聞いてしまえば、野蛮な行為だと思うし、残酷とも思う。動物愛護に関心がない人でも。
しかし、環境保護を考える人々からすれば、何とかして生態系を保護、保持していくことはできないものか?そう考えるのは至極当然のことのように思う。
そして、異や批判を唱えるならば、代案を以って然るべきと思うが、批判をする人々には代案がないのである。
もし批判する人々の話を鵜呑みにして、このまま生態系を破壊し続けていくようなことがあれば、在来種、固有種の生態は維持できない。
オーストラリアではこれまで、捕獲と射撃による駆除を行ってきていますが、在来種、固有種の絶滅の危機を防げそうにありません。こうした事態、人の手が加わったことによる生態系の破壊は、人の手で何とかしないといけない事態に直面しているのだと思います。
ニュージーランドでも飼い猫禁止令制定の動き
一方で、オーストラリアのお隣の国、ニュージーランドではどのような対策が取られているのでしょうか?
ニュージーランドでもイギリスによる植民地化の過程で、猫の持ち込み。その後の増加は顕著です。
ニュージーランド本島の南端に位置するオウマイでは、自治体が「飼い猫禁止令」を提案しました。今飼っている猫に対しては、避妊・去勢とマイクロチップ装着の義務化。今飼っている猫が死んだ後に新しい猫を購入することができない。というもの。
他にも2019年、ニュージーランドのオークランド評議会で、特定地域で見つかった所有者のいない猫の駆除を許可する害獣駆除計画を決定しています。
※特定地域とは、外来種の猫による捕食が許容できない地域、絶滅危惧種の生息地域、沖合の島などが対象。
ニュージーランドでも固有種の絶滅と現在進行形の絶滅危惧。危機に瀕すれば環境保護活動が活発化します。「飼い猫禁止令」は、その最たるものだということでしょう。
日本では奄美大島でノネコ管理計画
環境省、鹿児島県、奄美大島5市町村の自治体による共同計画となる
『奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画』
これは、奄美大島の固有種・希少種を含む生態系に対してノネコが及ぼす影響を取り除き、生態系の保全、保護を行う管理計画のこと。
2018年度~2027年度にかけて、ノネコを3,000頭捕獲、譲渡できなかった猫を殺処分するというもの。
なお、2018年度の捕獲の目標数は、270頭でしたが、結果として38頭と大幅に少ない捕獲の結果となりました。(ほぼ全頭の引き取り手が見つかったそうです)
日本でも固有種、在来種の保護、生態系の保全のためには、名目とやり方は異なるにしろ、人の手による生態系の維持を迫られます。
野生の猫に推定20種の哺乳類を絶滅に追いやられたオーストラリアでは、より早急に効果の得られる手段、非人道的、残酷とも言える手段が取られることになるという一例なのだと思います。
以上になります。
できることなら保護と譲渡、不妊去勢手術でこれ以上増やさない、自然減をさせていく方針を取ることが人道的であり批判も浴びない方策だとは思います。ソーセージ毒餌による駆除も野生猫憎し、即刻駆除すべき。といった過激な意見からくるものではなく、必要に迫られての方策であることがわかります。穏便な方策を取る時間も余力も労力もなければ、時にはこのような愚かな手段を取らされる羽目になる、愚かとわかっていてもやらざる負えなくなることを示唆するソーセージ毒餌による駆除ということでしょう。