犬及び猫の多頭飼育は、近年、多頭飼育崩壊の問題が顕在化しており、周辺環境の悪化が社会問題になっております。
多頭飼育による問題は、かなり以前(それこそ10年くらい前)から問題視されておりましたが、昨今は報道が散見されることもあり、より問題視されてきていると感じる方も多そうです。また、平成25年9月1日施行の改正動物愛護管理法において、地方自治体の措置として多頭飼育者に対する届出制について、条例に基づき講じることができるようになりました。
こうした背景もあり、自治体では動物の愛護及び管理に関する条例等で、多頭飼育届出制度を設けるところが多くなりました。おそらく、今後も条例に盛り込む自治体は増えてくると思いますので、多頭飼育する場合は、届出が必須となってくると思われます。
さて、ペットとして飼っている犬猫であれば、届出の必要有無にさほど疑問に思うことは少ないかもしれません。では、野良猫を保護している、地域猫を管理しているケースではどうでしょうか?
飼育しているわけじゃないんだけどな・・・飼育していることになるのかな?
と、疑問が湧くことがありそうです。とはいえ、届出をされている方はまずいないと思いますが。
野良猫を10頭以上保護している場合、多頭飼育の届出は必要かどうかをまとめてみました。
▼目次
多頭飼育(10頭以上)は自治体への届出が義務
基本的な要件は、多くの自治体で同様です。
- 犬及び猫を合わせて10頭以上飼う者
- 犬及び猫を合わせて10頭以上になった時には、30日以内に知事に届出なければならない
- 届出をしない、又は虚偽の届出をした者は、○万円以下の過料(行政罰)
この他、繁殖制限に関する内容が含まれる場合もあります。また、生後90日以内の子犬・子猫の頭数は、含まれないとされています。
※佐賀県のように、6頭以上としている自治体もあります。
届出義務違反は、過料(行政罰)が適用される
過料に関しては、1万円、3万円、5万円と様々ですが、罰則規定を設けていない自治体はほぼないと思われます。
なぜ過料を設けるかは、届出義務の実効性を担保するために必要であるのは言うまでもなく、届出義務化の背景として、不適切飼養による周辺環境の悪化や子犬や子猫の保健所への持ち込み(殺処分)への苦慮がありますから、当然の措置と言えるでしょう。
なお、過料の額としては、最大5万円です。これは、条例による罰則としての過料は、5万円以下。と地方自治法で決められているからです。過料が安くて罰則にならないと思われる方もおりますが、法律の範疇で最も重い過料を科していると捉えることもできます。
むろん、届出義務違反の過料であって、さらに悪質なケース(多頭飼養によりネグレクト等の虐待)であれば動物虐待と判断され、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が適用されることもあります。
飼養する犬及び猫の定義
条例の対象となる要件は、都道府県のホームページに以下のような案内文で書かれています。
「10頭以上の犬や猫を飼育する場合」「10頭以上の犬猫を飼う方」「犬・猫を合わせて10頭以上飼養、又は保管をする方」
通常の飼い主(ペットとしての飼育)は、特に疑問に思わないものですが、野良猫を保護している、地域猫を管理しているとなると該当するのかがあやふやになります。
では、各自治体の動物の愛護及び管理に関する条例に、対象の動物をどのように定義されているかを確認すると、
「飼養者 動物の所有者又は占有者をいう。」(大阪府)「飼い主 動物の所有者(所有者以外の者が飼養又は保管する場合は、その者を含む。)をいう。」(新潟県)「動物 人の飼養(「保管」を含む 。以下同じ。)するほ乳類、鳥類及びは虫類に属する動物で、 規則で定めるものをいう。 」(福岡県)「動物 人の飼養(保管を含む。以下同じ。)する動物で、哺乳類、鳥類及び爬(は)虫類に属するものをいう。」(岐阜県)
上記のような記載になります。
出展・引用元
大阪府動物の愛護及び管理に関する条例https://www.pref.osaka.lg.jp/houbun/reiki/reiki_honbun/k201RG00000574.html
新潟県動物の愛護及び管理に関する条例https://www1.g-reiki.net/pref.niigata/reiki_honbun/e401RG00000498.html
福岡県動物の愛護及び管理 に関する条例http://www.city.kurume.fukuoka.jp/1070kenkou/2040hokeneisei/3115doubutsuaigo/files/2015-0710-1510.pdf
岐阜県動物の愛護及び管理に関する条例https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/219889.pdf
大きな違いはないものの、少しの違いがあり、
大阪府と新潟県では、「動物の所有者、占有者」を指しているのに対して、福岡県と岐阜県では、「人の飼養(保管を含む)する動物」を指しています。
動物の所有者、占有者に関しては、例えば野良猫の面倒を見ている場合、どうでしょうか。本人からすれば所有もしていないし、占有しているつもりもないと思いますが、民法でいうところの占有権(第百八十条 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。)があると判断されるか否かだと思います。
では、福岡県や岐阜県のような定義の「人の飼養(保管を含む)する動物」とする場合、飼養している(飼い養っている)わけじゃないと考えることはできても、自宅で保護(=保管)している実態があれば、該当するのではないでしょうか?
野良猫を10頭以上保護している場合、多頭飼育の届出は必要か?
野良猫を保護して、譲渡活動を行っている方がいたとして、多頭飼育の届出は必要でしょうか?
これを深追いする前に、動物愛護管理法には、第二種動物取扱業というものがあります。
第二種動物取扱業とは、簡単に言えば、動物愛護団体が動物を保護する際、動物の飼育施設やシェルターで管理することがありますが、こうした取り扱いをしている団体や個人は、第二種動物取扱業の届出が必要です。この要件の肝となるのは、非営利目的であること、飼養施設があること、反復継続性が認められること(業であること)です。
仮に個人で野良猫の保護と譲渡活動をしている場合でも、野良猫を飼養するための部屋を設けていたり、ケージなどで専用の飼育スペースを設けている、かつ、継続的に行っており、10頭以上の頭数がいる場合は、この「第二種動物取扱業」に該当し、届出が必要になるということです。
野良猫の愛護活動をされていて、こうした事情を理解されている方は、10頭以上保護しないように気を付けている方もいます。なお、第二種動物取扱業の届出をされている場合は、多頭飼育の届出は必要ありません。
さて、多頭飼育の届出に話を戻すと野良猫の面倒を見ている方で、この届出の存在を知っていても届けようと思う人なんていないような気がします。こうした方達の言い分としては、ペットとして飼っているわけじゃない、飼育しているわけじゃない、行政になんとかしてもらいたいけどやってもらえないから活動している。だから、多頭飼育しているわけではない。このようなところだと思います。
しかし、近隣住民からすれば、敷地内で餌や寝床を提供し、たくさんの猫を自由に(放し飼い)させていると思われてしまえば、ペットではない、飼育しているわけではないと主張したところで、周辺環境の状況によっては受け入れてもらえません。
例えば、野良猫達に不妊・去勢手術を行い、給餌や糞尿の始末をきちんと行っており、加えて、ダンボールや発泡スチロールなどで寝床を用意し面倒を見ている場合は、飼育の域に達していると言えるのではないでしょうか。
こうした事実があれば、管理が不十分であったり、野良猫が問題行動を起こして近隣住民の生活環境に悪影響が出れば、責任を取る必要も出てきます。野良猫への餌やり問題に関する損害賠償請求裁判では、飼育の域に達していると判断されるケースは、賠償金の支払いの判決が下されることも実際にありました。
野良猫の愛護活動とは言え、不妊・去勢手術の繁殖制限措置、給餌や糞尿の始末や管理、住処を提供するなど、労力と費用をかけて行っている(飼育している)という実情があれば、多頭飼育の届出が必要と考えられます。
似たような実態として地域猫活動もありますが、こちらも本来は届出が必要でしょう。地域猫活動は、地域住民の合意を得て、行政に届出をされている場合、地域猫活動の届出書類に「活動地域・活動人数・猫の数・餌やり場所・トイレ設置場所」の記入欄があります。地域猫の管理状況というのが把握できるようになっています。多頭飼育の届出制度には、多頭飼育に関する情報の早期把握と飼い主支援や指導を行う為という目的も含まれますが、地域住民と行政の許可を得ている地域猫活動は、別の形で管理できるようになっていると言えると思います。
野良猫の面倒を見ているだけなのか、飼育している、飼養しているのかは、曖昧な部分が多いと思います。難しいところではありますが、問題が起きた時に初めて裁判などで個別に実態を問われ、実態に即して飼育の域に達していたかが判断されます。多頭飼育の届出をするしないで踏み込んで実態が問われるようなことはまずないとは思われますが(多頭飼育崩壊でもしていなければ)、猫達に対して責任を持って世話をしているのであれば、本来は届出をすべきものなんだと思います。