ペットはペットショップで買うものと思っている方にはよく分からない話だと思いますし、ペットショップの裏側に潜む繁殖や飼育環境の問題を見聞きされている方は利用に関して疑問視されているかもしれません。
ペットショップを利用するくらいなら保護犬や保護猫、保健所や動物愛護センター、譲渡会などで飼い主を待つ犬猫を迎え入れて欲しいというのは動物愛護に携わる方の素直な気持ちだと思います。一方で、特定の血統種を望む飼い主や室内飼いに向く小型犬、鳴き声が小さい猫など飼いやすさを重視される方もいらっしゃるため、ペットショップを利用される方が多いのも理解できる話だと思います。また、犬種や猫種にこだわりがないならペットショップでわざわざ高いお金を出して買うより保護犬、保護猫を引き取ればお金もかからないし、動物のためになるからいいのに。と率直に思う方もおられるでしょう。
しかし、現状は保護犬や保護猫を迎え入れるケースは少数派なのが実態で、ペットショップを利用される飼い主が多いと思います。
本記事ではペットショップの利用についてを考察いたしますが、ペットショップを利用される飼い主の割合やペットを飼う理由などが公表されているデータを元に確認していきます。加えて、ペットショップを利用するメリット、デメリット、保護犬、保護猫を引き取るメリット、デメリットなどをまとめました。
▼目次
- ペットの入手方法、入手先の調査データ
- ペットを飼う理由、飼いたい理由
- 愛護家が保護犬、保護猫を勧める理由
- 保護犬、保護猫を飼うメリット
- 保護犬、保護猫を飼うデメリット
- ペットショップで犬猫を購入するメリット
- ペットショップで犬猫を購入するデメリット
- 飼育初心者にはハードルが高い保護犬、保護猫
- 「救いたい」「助けたい」理由でペットを飼うのは少数
- 保護犬、保護猫の譲渡を増やすためには
ペットの入手方法、入手先の調査データ
ペットの飼い主はどのような方法でペットを入手されたのでしょうか。これを確認するために一般社団法人ペットフード協会の全国犬猫飼育実態調査(令和4年度)を見てみます。
一般社団法人ペットフード協会の全国犬猫飼育実態調査https://petfood.or.jp/data/index.html
データの母数は、有効回収数が61,693サンプル、ウェイトバック集計後が50,000サンプルとなっています。※ウェイトバック集計は、アンケート調査結果の偏りを正して実態に即した集計を行う手法です。
ペット入手時の情報源・入手先の資料掲載の「ペットの入手先_年代別」より引用
犬の場合は、ペットショップで購入が51.9%、業者のブリーダーから購入が16.3%、友人/知人からもらったが13.5%、これらの上位で80%以上を占めます。猫の場合は、野良猫を拾ったが32.1%、友人/知人からもらったが26.7%、ペットショップで購入が16.9%、里親探しのマッチングサイトからの譲渡が12.2%、これらが上位の80%以上を占めています。
また、シェルターからの譲渡(保健所・動物愛護センター、愛護団体・ボランティアからの譲渡)の項目もありますが、犬で2.5%、猫で3.8%といった結果でした。
さらに、「ペットショップで購入」と「シェルターから譲渡」の入手方法が過去5年でどのような推移になっているかを確認してみます。
「ペットショップで購入」過去5年間のデータ
2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | |
---|---|---|---|---|---|
犬 | 51.0% | 50.3% | 53.7% | 50.9% | 51.9% |
猫 | 14.8% | 14.1% | 16.6% | 16.0% | 16.9% |
「シェルターから譲渡」(保健所・動物愛護センター、愛護団体・ボランティアからの譲渡)過去5年間のデータ
2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | |
---|---|---|---|---|---|
犬 | 2.7% | 2.7% | 2.2% | 3.2% | 2.5% |
猫 | 2.4% | 3.6% | 4.5% | 4.2% | 3.8% |
※上記の数値は、一般社団法人ペットフード協会の全国犬猫飼育実態調査の過去資料を参照しています。
どちらもほぼ横ばいといった結果。猫については、ペットショップで購入とシェルターから譲渡のどちらもわずかな増加傾向が見られますが、2020~2022年はコロナ禍でペットを新たに飼い始める方も多いことも影響している可能性があるため、一過性のものなのか今後も傾向が見られるのかは推移を見守る必要があると思われます。また、猫のペットショップでの購入は意外と多くないと感じられる方もいらっしゃるかもしれません。(日本は野良猫が多すぎるのかもしれません)
ペットを飼う理由、飼いたい理由
ペットを飼う理由や飼いたい理由、その動機によっても入手経路が変わってくるかもしれません。一部の自治体でアンケート調査結果が公表されておりますので、東京都のアンケート調査結果を参考に見てみます。
東京都で平成29年度(2017年)に行われたアンケート「東京におけるペットの飼育」https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/01/29/01.html
アンケート期間:平成29年10月25日~10月31日 回答率:91.6%(458名/500名)
ペットを飼いたい、または飼い続けたい理由(東京におけるペットの飼育のアンケートより)
※Q7でペットを飼いたい、または飼い続けたいと「思う」と答えた131人による回答
心を癒してくれる | 67.9% |
---|---|
動物が好き | 50.4% |
かわいい | 35.1% |
一人暮らしや高齢者の心の支え | 13.0% |
子供の情操教育のため | 11.5% |
ペットの話題で人との交流が広がるため | 6.1% |
番犬として | 0.0% |
その他 | 3.8% |
他にも、au損害保険株式会社がコロナ禍におけるペット飼育に関する調査を行ったものがあります。
au損害保険株式会社がコロナ禍におけるペット飼育に関する調査https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000092.000005870.html
ペットを飼い始めた理由(コロナ禍におけるペット飼育に関する調査より)
※全国の犬もしくは猫を飼っている男女1,000人を対象
おうち時間を楽しく過ごすため | 63.0% |
---|---|
寂しい時に寄りそってくれると思うから | 46.2% |
一緒に散歩に行ったり、遊んだりしたいから | 43.8% |
家族仲を良くしてくれるから | 40.6% |
子供の教育にいいと思うから | 15.4% |
その他 | 14.6% |
結果を見ていかがでしょうか?心の癒しや心の支え、動物が好きで一緒に過ごしたい、遊びたいであったり、子供の教育のためといった理由がどちらのアンケートでも見られました。一方で、野良猫を見て「かわいそう」だったからとか保護犬、保護猫を「助けたい」気持ちでなどといった理由は見当たりません。おそらく「その他」に属するものと思いますが、特に猫に関しては野良猫を拾って飼い主になるケースも多いことから子供が野良猫を拾ってきてしまい飼い始めるケースなどはあると思われます。
愛護家が保護犬、保護猫を勧める理由
端的に言えば、苦しい状況に置かれている犬猫がたくさんいるので救いの手を差し伸べて欲しい。というのが大きいと思います。
他にも、ペットの購入費はかからない(ワクチン代などの実費を請求される場合はある)、動物愛護センターであれば獣医の診察を受けており健康状態を把握されているので安心、飼育で困ったことがあったら愛護家や保護団体のスタッフに相談できるなどもあったりします。
また、愛護家の中にはペットショップやブリーダーの繁殖や飼育環境、展示販売を疑問視されている方もおり、苦しむ繁殖犬や猫を増やすことにつながりかねない為、ペットショップで買うくらいなら保護犬、保護猫を迎え入れてあげてくださいと考える方もいます。
保護犬、保護猫を飼うメリット
では、ペットを飼いたいと考える飼い主にとって、保護犬、保護猫を飼うメリットはどういったものがあるのかを列挙してみます。
- ペットの購入代金がかからない。
- 困っている動物を助けてあげられる。
- 殺処分されていたかもしれない動物を救ってあげられる。
- 人馴れなど基本的なトレーニングをされている(場合もある)。
- 人間不信の動物が私だけには心を開いてくれる。(自己満足感や達成感)
他にも「助けた」「救った」という満足感やSNSなどに投稿される方は承認欲求を満たすことができるなどもあるかもしれません。
保護犬、保護猫を飼うデメリット
保護犬、保護猫、野良猫なども該当すると思いますが、飼育するには様々なハードルがあるのも確かです。
- ほぼ雑種。(犬種や猫種の選択肢が限られる)
- 血統種であっても血統書は付いてこない。
- 子犬や子猫など希望の月齢で飼うことはできない。
- 何歳かわからない。(何年一緒にいられるかわからない)
- 虐待を受けていたなどの過去の扱いがわからない。(懐くかどうかわからない)
- 食糞癖や吠え癖、夜鳴きなど問題行動を起こすことが少なくない。
- 病気など健康状態がはっきりしない場合がある。
他にも保護団体によっては向かえ入れる際に条件が厳しいケースもあります。(家族構成や年収証明、家の間取りや飼育後の定期報告が必要など)また、病気を患っていることも十分あり得るため、タダで譲り受けたとしてもその後の治療代の方が多くかかってしまうこともあり得ます。
ペットショップで犬猫を購入するメリット
ペットショップで犬猫を購入するメリットは以下の通り。
- 気軽に見に行ける。
- 気軽に対面できて触れ合える。
- いろんな種類の犬猫を見て選べる。
- 純血種の子を買える。
- 血統によって大きさや性格の傾向がわかるので生活環境に合わせやすい。
- お金を出せば誰でも購入できる。
- 大きくなった子を安く買えることがある。
- すぐに迎えることができる。
- 飼育に必要なグッズを取り揃えている場合が多く、迎え入れる準備をしやすい。
- 猫エイズや猫白血病などの病気が検査済みなので安心して迎えられる。
- 幼犬、幼猫から育てられるので躾がしやすい。
- 幼犬、幼猫から育てられるので子供の教育にいい。
- 幼犬、幼猫から育てられるので長く一緒に過ごせる。
- アフターフォローをしてもらえる。
- トラブル対応をしてもらえる。(契約に基づく対応はしてもらえるはず)
特に飼育初心者にはメリットと感じる点が多いと思います。また、ペットショップの数も全国的に多く、令和2年4月1日時点の動物取扱業者の登録・届出状況(環境省資料)では、ペットショップの登録件数が16,679件です。ペットショップが身近に存在するというのも利用のしやすさにつながっていると考えられます。
ペットショップで犬猫を購入するデメリット
ペットショップで犬猫を購入するデメリットは以下の通り。
- 店によっては生体価格が高い。
- 親と過ごす社会化期が短く、社会性が身に付いていない場合がある。
- 生育が悪い場合がある。
- 両親の犬猫を見ることができないので、大きさや気質は飼ってみないとわからない。
- 子犬の親、兄弟等の遺伝情報が分からない。
- 販売員の知識不足。犬種や猫種の詳しい知識を持ち合わせていない場合が多い。
- 年会費のかかる協会等への加入を勧められることがある。
- ペットの代金が安い代わりにフードの定期購入を申し込ませられることがある。
- 問題のある繁殖施設から仕入れられている可能性がある。
- 問題のあるお店だった場合、間接的に悪事に加担してしまう可能性がある。
生育が悪いを補足すると、ペットショップでは幼犬、幼猫の方が売れやすいです。このためフードを抑えつつ運動も必要以上にはさせずにサイズを大きくさせないことがあります。特に売れ残りの大きくなってきている犬猫は成長期に運動が不十分であることが多く、ケージで過ごす時間が長いことから身体的にも精神的にも悪い状態の可能性があります。こうした店側の対応は飼育にかかる費用や手間を抑えたいという理由だけではなく、幼犬、幼猫といった小さくて可愛らしさを好む飼い主の趣向も影響しています。
飼育初心者にはハードルが高い保護犬、保護猫
保護犬や保護猫はどのような環境下で過ごしてきたかわからないことが多く、寄生虫、感染症、先天性の病気など検査をしてみないとわかりません。病気であった場合は治療も欠かせません。また、その子の性格や抱えているトラウマといった問題もわかりません。どれくらいの期間を一緒に過ごせば心を開いてくれるかもわかりません。場合によっては攻撃性のある子もいると思います。かなりハードルが高く、それなりの覚悟を持って迎え入れる必要があるのが保護犬や保護猫だと思います。
そして、ペットを飼ったら終生飼養になります。
ペットを飼いたいけど飼育に自信がない場合は、保護犬、保護猫は向かないですし、安易にお勧めするのも人にも動物にもよくない結果を起こしてしまうかもしれません。
「救いたい」「助けたい」理由でペットを飼うのは少数
前述のペットを飼いたい、飼う理由のアンケート結果でも分かる通り、ペットを飼う理由に「救いたい」「助けたい」は入りません。でも、保護団体や愛護家はペットショップでは買わずに「命を助けて」と言います。さりとて命を助けるためにペットを飼うわけではないことを考えれば、保護犬や保護猫を迎え入れるのは少数でしょう。
少数でも動物愛護の気持ちのある方であれば保護犬、保護猫をお勧めするのはいいと思いますが、単に心の癒しや支えを求めている飼い主に対して勧めるのは酷でしょう。むしろ、命を助ける、救うのが目的というなら保健所で殺処分間近の犬猫を引き取ったり、譲渡会に参加する犬猫の中でも病気の子を引き取ってあげた方がいいと思います。
いずれにせよ、保護団体や愛護家が勧める保護犬と保護猫と飼育を検討している飼い主の意向に大きな隔たりがあるのは確かだと思います。
保護犬、保護猫の譲渡を増やすためには
昨今は、ペットショップから買わずに保護犬、保護猫を飼うように促すご意見は散見されます。さらには芸能人や有名人がペットショップで犬猫を購入して飼い始めたなんて伝われば、批判的な意見が出るくらいです。こうした話題を通じてペットショップから買わずに保護犬、保護猫を飼いましょうと誘導するのも一つの手でしょう。
一方で、保護犬、保護猫の譲渡率はまだまだ低いと思われます。例えば、一般社団法人ペットフード協会の全国犬猫飼育実態調査の資料、ペット入手時の情報源・入手先の『「愛護団体」からの入手検討有無_飼育ペット別』を見てみると以下の結果であることがわかります。
犬、猫ともにグレーの棒グラフが半数を占めており「シェルターを知らなかった」という結果です。
認知度が十分でないことを考えると保健所・動物愛護センター、愛護団体・ボランティアの譲渡会や保護情報を広めることが譲渡率向上につながる近道であると考えられます。
以上になります。動物愛護団体や愛護家のみならず、困難な状況にある犬猫を助けてあげたい、できれば保健所から引き取ってあげた方がいいと思うのは誰しもでしょう。しかし、動物を飼うということはその時々の出会いもあるしご縁もあります。それがペットショップであることもよくある話だと思います。
「その一目惚れ 迷惑です」というペットショップの衝動買いを問題視するCM(AC JAPAN 日本動物愛護協会)が一時期流れておりましたが、個人的には一目惚れでもいいと思います。責任を持って最後まで飼うのであれば。
また、「命」をお金で買うなという方もおられますが、牛や豚や鶏は殺して買って食べていますし、毛皮も刈り取ったり時には殺して身に付けています。ペットの話に限った言葉だとしても犬猫以外の小動物や爬虫類などはほぼペットショップからしか買うことができないと思います。では犬猫以外のことはどう考えているのでしょう。もし犬猫に限った話だとしてもなぜ犬猫だけを特別扱いするのかという話になります。おそらく行きつく先はペット自体を飼うなという話になるのかもしれませんが、それこそ極端すぎて話にならないと思います。