街で見かける野良猫、片方の耳先がカットされているのを見たことはありませんか?
「痛そうだな」とか「かわいそう」と思ってしまいますが、この感覚は正しいものだと思います。
猫同士のケンカで失うこともありえますが、水平やV字など不自然と言える綺麗な切り口は、人が施したものです。
この行為は虐待ではなく、命の尊重、世話をする人がいますよ。という猫に対する優しさの表れ。という話もありますが、もう少し深く、この方法論にも踏み込んで説明できればと考えています。もちろん痛みの話も。
▼目次
- 不妊・去勢済であることを知らせる耳先カット
- TNRの方法論と耳先カットをする利点
- 左右の耳カットの異なる意味
- 耳先カットの手術方法と痛みについて
- 猫サイドからしたら嫌なことは確かでしょう
- 野良猫の不条理なサイクルから脱するために
不妊・去勢済であることを知らせる耳先カット
地域で暮らす猫(野良猫)がこれ以上増えないように、不妊・去勢手術を行うことがあります。
これは、動物愛護団体や猫ボランティアが愛護活動の一環として行う場合もありますし、地域で管理する地域猫に行ったりもします。
そして、不妊・去勢済であることを外見から判別するために行うのが耳先のカットです。
虐待ではなく必要な処置。猫にとっては、何度も捕獲をされることがないくらいの利点しかありません。
「人と一緒に暮らしている証」「人に見守られて生きている猫さん」
といった表現をする方もおりますが、人の都合でこのような形を取られている(耳先を切られている)だけ。ということを知るべきでしょう。
TNRの方法論と耳先カットをする利点
野良猫の繁殖問題の対策として、TNRという方法が知られています。
Trap-Neuter-Return の略で、人道的に罠を仕掛け、不妊・去勢手術を施し、元の場所へ放してあげる。というものです。
殺処分による解決策ではない方法論で、野良猫の増加を防ぎ、減少に寄与し、不妊・去勢をすることで、サカリやマーキングを抑えられ、人との共生がしやすくなることで、野良猫の生活改善も行えるという方法です。
そして、TNRの方法は、捕獲 -> 手術 -> 解放 という手順を踏むことからかなりの労力を必要とします。
また、すでに手術済の猫を捕獲する必要はありませんし、逆に、未手術の猫を見分ける必要がありました。
当初は、耳に入れ墨をしたり、クリップのようなものをつけることもしていたようですが、入れ墨は猫の側で見ないとわかりにくいですし、クリップは生活している中で外れてしまうことが多かったようです。この他にも個体の写真を撮っておいて把握する方法などもありましたが、キジトラの猫のように見分けがつきにくい猫もいるのが実情でした。
試行錯誤の中、離れた場所からでも、手術済かそうでないかを判別するのに最も適していた方法が耳先カットということです。
虐待ではないのでしょうけど、人の都合で猫には悪いけど耳先をカットさせてもらっている。というのが実態です。
左右の耳カットの異なる意味
右耳カット → オス猫左耳カット → メス猫
これも雌雄を見分けるための工夫です。当初は、このような分け方がなかったこともあり、オス猫でも左耳がカットされていることもありました。今では、処置される場合の多くはこのような分け方をされています。
また、カットの形状は、水平であったり、V字であったりとこれは地域により異なります。
※V字カットは、桜の花びらに模していることもあり、「さくらねこ」とも呼ばれます。
耳先カットの手術方法と痛みについて
極力、痛みを伴わない方法や出血を抑える方法が取られます。また、耳ダニや感染症を患っている場合もあるので、これらの処置も合わせてとられることもあります。おおよその手順は以下の通りになります。
※耳先カットの事前に、不妊・去勢手術が行われているため、麻酔をかけられた状態で処置されます。
- 耳先カットの前にカット後の出血を抑える止血剤を用意します。
- 耳のダニ、感染症などを事前に診察します。必要に応じて、洗浄、ダニ駆除剤の投薬が行われます。
- 耳に滅菌作用のある薬を塗ってあげます。
- 耳先の先端部分をカットするために、クリップ上のものでカットする部分を抑えたりします。(特に抑えずにそのままの場合も)
- 鋭いハサミまたはメスを使用して、耳の先端を水平またはV字に、先端部分のみ切り落とします。(鋭いハサミやメスを使用することで出血を少なくすることができます)
- 切断面は、綿棒や綿などを使用して、止血剤を速やかに塗ります。また、止血剤には痛みを抑える成分が含まれていることが多いです。
手術は、このような方法、痛みや出血の伴わない方法がとられます。
また、痛みに関しては、手術中は麻酔がかかっていますので、痛みは感じないでしょう。加えて、耳先は血管や神経が多くは通っていない箇所。(私達の耳もつねったりすればわかりますが、激痛を伴う箇所ではないと思います)
これらのことから、痛みや出血といったものは極力なく、苦痛を伴う手術ではない方法が取られています。
猫サイドからしたら嫌なことは確かでしょう
痛くない、出血も少ない、とはいえです。
猫サイドからしたら嫌なことであるのは確かでしょう。少なからず痛みは伴うでしょうし、生殖器を奪われた挙句の果てに、耳先までカットされるわけですから。それに耳の上部が切り落とされることで、聴覚の機能の低下も少なからずあるでしょうし。
私達も他の生物に支配されていたとして、耳先をカットされることになれば嫌ですし、恐怖は計り知れないはずです。やはり、人の都合で猫に無理矢理協力してもらって耳先をカットしてもらっている。というのが事実なのだと思います。
野良猫の不条理なサイクルから脱するために
これまで自由に繁殖ができていた野良猫も容易に命を落としたり、殺処分の扱いを受けたり、人から忌み嫌われたり、虐待されたりという不条理な生活もありました。
捨て猫 -> 餌やり -> 繁殖 -> 望まぬ死、不条理な生活
このような苦しみのサイクルからは抜け出すべきだと思います。
そして、不妊・去勢手術は、繁殖をさせず、人の都合で生かしているわけですから、その余生は穏やかに過ごせるための温かさは必要なことでもあると思います。