西表島の野良猫対策は、主にイリオモテヤマネコを保護するための対策となっています。
野良猫対策の大枠としては、
- 猫の飼養条例による様々な規制
- 野良猫の捕獲および島外搬出
この二つです。
西表島を含む竹富町の猫飼養条例は、現時点で日本で最も厳しい条例と言え、外来種であり自然生物に影響を与える猫(野良猫や放し飼い猫)の対策として、最も効果的であると言えると思います。ある意味、先進的でより効果的な規制をかけられているとも言えますが、これも希少動物の保護を名目に行われており、生態系などへの問題が顕在化している地域だからこその対策だと思います。
ここまでできれば野良猫をなくすことができる良い前例と思いますが、ここまでしないと効果が得られにくいとも言えるかもしれません。
野良猫対策の参考にイリオモテヤマネコに関する様々な資料・記事を参照し、まとめてみました。
▼目次
- 国の特別天然記念物「イリオモテヤマネコ」
- 竹富町猫飼養条例の変遷
- 飼い猫の不妊化手術・ワクチン接種・マイクロチップ装着が、ほぼ100%
- 18年かかった野良猫捕獲
- 捕獲された野良猫は、島外搬出
- イリオモテヤマネコの交通事故件数
- 交通事故防止の様々な対策
- 事故当事者からの通報は、わずか1割
国の特別天然記念物「イリオモテヤマネコ」
西表島の固有種のヤマネコは、一見はキジトラのような見た目。目元や尻尾などに特徴があると言われていますが、注視して見ないイエネコとの違いはわからないかもしれません。
国の特別天然記念物に指定されており、生息数も少なく減少傾向にあることから絶滅危惧種としても知られています。※イリオモテヤマネコの生息数は、2008年の調査時点で100~109頭と発表されています。
イリオモテヤマネコの詳しい解説は控えますが、地球上のここだけしか生息しない希少動物です。この島内だけで生き続けており、この生態系の環境下で生きてきました。人が入植したことで、外来種問題が起こりますが、どのように保護していくかは20年以上前から議論されていたことです。
そして、外来種の中でも野良猫や放し飼いの猫による問題が大きく、イエネコが持つ病気がヤマネコに移り拡大すると、絶滅に追い込まれると危惧されてきました。イエネコが持つ病気は、イリオモテヤマネコにとっては未知の病原体です。飼い猫のようにワクチン接種をしているわけでもありません。仮に命を落とさなかったとしても少しでも寿命が縮まるだけで、生息数の減少は免れないでしょう。
イリオモテヤマネコは元々数が限られ、減少傾向にありました。外来種である飼い猫・放し飼い猫の適正飼養、野良猫の対策が進められていきました。
竹富町猫飼養条例の変遷
飼い猫・放し飼い猫の適正飼養、野良猫対策に関連する条例化の変遷。飼い猫や野良猫に対する規制強化が見て取れます。
2001年03月27日公布 竹富町ネコ飼養条例
飼い猫の放し飼いや野良猫から島固有の小動物の保護のため制定。
- 飼い猫の飼養登録義務付け
2008年10月30日改正 竹富町ねこ飼養条例
イリオモテヤマネコ保全を目的とした、西表島特有の規則を設けるべく全面改正。
- 飼い猫のマイクロチップ装着の義務化
- 猫白血病等の特定感染症に関する検査の義務化
- 感染症予防接種の義務化
- 放し飼い猫への避妊・去勢手術の義務化
- 飼養頭数10匹までの制限
- 島外からの持込み制限(特定感染症検査の義務化)
この他、特定感染症の罹患個体に対する飼養登録を町長が拒否できる点も特徴。(厳密には、検査証明書の提出がない場合、町長は登録を拒否しなければならない)
2020年12月11日改正 竹富町ねこ飼養条例
全町域の島々の自然や野生動物保全を目的に全面改正。
- 飼い猫のマイクロチップ装着の義務化(全町域に適用)
- 屋外にいる猫へのみだりな餌やり禁止(野良猫に加えて屋外にいる飼い猫にも適用)
- 室内飼養・繁殖制限・継続飼養の義務化(これまでは努力義務)
- 屋外への逸走防止の義務化
- 飼養頭数5匹までの制限(西表島を対象)
- 観光客などによる猫の持ち込みを禁止(西表島を対象。特性感染症の検査済個体であっても持ち込みを原則禁止とした)
禁止規定の違反者や措置命令に従わなかった者等に対しては、5万円以下や2万円以下の過料に処する罰則規定を設けられています。
西表島のように、希少種であるイリオモテヤマネコへの問題が顕在化している地域では、飼い猫などの飼育動物に対する規制とも言える条例が作られることがわかります。
飼い猫の不妊化手術・ワクチン接種・マイクロチップ装着が、ほぼ100%
条例制定の結果、西表島の飼い猫のワクチン接種率、マイクロチップ装着などほぼ100%を達成しているようです。
八重山毎日新聞「野良猫ゼロ達成か 西表島、「最後の2頭」捕獲」(2022年03月19日投稿)より以下引用。
島内で確認されている飼い猫は昨年11月末時点で132頭。条例に基づくワクチン接種99・3%、不妊化手術100%、マイクロチップ装着99・3%と非常に高い数値を保っている。
また、上記の記事では、目撃されている最後の2頭の野良猫を捕獲し、野良猫ゼロ達成か?とも言われています。
これらは、竹富町猫飼養条例の飼い猫に対する様々な規定により得られた効果と言えると思います。
- 飼い猫の望まない出産を防ぐ(不妊化手術)
- 猫エイズや猫白血病の感染防止(ワクチン接種)
- 飼い猫と野良猫の区別が可能に(マイクロチップの装着)
特に、飼い猫の飼養登録が義務付けられたことは、その後の野良猫捕獲事業の進めやすさにつながっていると考えられます。
18年かかった野良猫捕獲
西表島の自然生物の生態系保全およびイリオモネヤマネコへの猫エイズや猫白血病の感染を防ぐための野良猫捕獲事業は、2004年に始まりました。これまでに延べ505頭が捕獲されており、捕獲された野良猫の多くが譲渡されたと言われています。
島内の野良猫の捕獲に、18年。捕獲の約半数が開始から3年で行われておりますが、全ての野良猫をなくすためには、18年の歳月をかける必要がありました。
海に囲まれた小さな島ですが、条例を整備し野良猫捕獲を事業化して取り組み、やっとこさの結果と考えると、一度増えた野良猫をなくすことは本当に困難なことだと思い知らされます。
捕獲された野良猫は、島外搬出
捕獲された野良猫、延べ505頭の行末の詳しいデータは見当たりませんでしたが、そのほとんどは島外搬出されているのは確かだと思います。これは、2021年11月時点の島内の飼い猫の数が、132頭であることが示していると思います。(島内の飼い猫は登録制のため。島内で適正飼養下に置いたのであれば、飼い猫の数が大幅に増えると考えられるため)
島外搬出された猫の多くは譲渡をされていると言われておりますが、殺処分がゼロであったかというとおそらくそれはないでしょう。人に危害を与える恐れがあるなど飼育に適さない猫も少なからずいたことを考えると、やむを得ずの部分はあったと思います。
とはいえこの結果から野良猫や放し飼いの猫は、ほぼゼロに近づけており、イエネコによる影響(病気の感染や餌の取り合い、交雑の恐れなど)がない状態にまで改善されているようです。現時点では、野良猫ゼロ宣言は出されておりませんが、継続してモニタリングを行い、一定の期間で野良猫の目撃情報やセンサーカメラでの感知がなければ、野良猫ゼロ宣言が出されると思われます。
また、島嶼部の基本的な野良猫対策は、島外搬出。共生という考え方はなく、根絶方針としていることが窺えます。
イリオモテヤマネコの交通事故件数
イリオモテヤマネコの交通事故件数は、記録が残っている1978年から2021年12月までの間で、97件発生しています。西表島の道路開通が1977年ですので、道路開通当初から交通事故の懸念はあったのだと思います。
なお、2019年12月11日から20年4月20日までの496日間は、交通事故が起こっていません。新型コロナウイルスの影響で観光客が減ったこと、社会活動低下で交通量が減ったことが原因と見られているようです。
交通事故防止の様々な対策
交通事故対策は、1995年から沖縄県のエコロード事業の取組みから始まっています。
- ドライバーへの注意喚起
- 道路沿いの交通標識・注意看板
- 島内の制限速度40km
- ゼブラゾーン(減速帯)の設置
- アンダーパス(動物専用通路)の設置
- 小動物の交通事故対策(二次ロードキル対策)
アンダーパスは、動物が道路を横切らなくても反対側に横断できるトンネルのようなものですが、現在までに120ヵ所超が設けられております。(1基造るのに1,000万円かかると言われており、これだけの数が造られているのは世界的に見ても稀)
しかし、継続して対策は行ってはいるものの、2010年頃から増加傾向が顕著になり、交通事故の増加に歯止めがかかっていないのが現状です。
なお、2021年7月に世界自然遺産に登録されましたが、イリオモテヤマネコ以外の野生動物の交通事故死防止も課題とされております。このため、2022年2月から交通実態調査が行われており、特定区間の通過時間や平均速度などが継続調査されています。(2022年12月までにユネスコへ、交通事故対策を検討したリポートを提出する予定になっています)
世界自然遺産に登録されたことで、観光客が増えることが考えられますが、これまで以上に交通事故対策が必要なのだと思います。
事故当事者からの通報は、わずか1割
環境省 自然環境局 生物多様センター「イリオモテヤマネコの交通事故」の資料によると、事故当事者からの通報は以下の通りです。(以下、交通事故発生におけるヒト側の要因の項目から引用)
事故当事者からの通報は1割!
当事者からの通報は9件のみで事故全体の1割にすぎず、いまだ事故発生状況が詳しくわかっていない。しかし、島内の制限速度である40kmの超過が原因の1つであると推測される。
本来、島内の制限速度を40kmと定めたのは、低速運転の車との接触事故であれば怪我をしたとしても亡くなることは少ないという考えもあったと思います。しかし、残念ながらドライバーからの通報が少なく、助かる命も助からなかったという事が起こってしまっていると思われます。
交通事故死については、特にメス猫の死は個体数を維持する上で大きな影響が出てしまいます。一度の出産で1~3頭の仔猫を出産すると言われておりますが、ヤマネコの数が100頭程度とするとそのうちの1~3頭と言えども影響が少なくないのがわかると思います。
また、西表島には怪我をしたイリオモテヤマネコを救護する病院もあります。リハビリを行い、元気になったら山に放しています。(ヤマネコ緊急ダイヤル:0980-85-5581※24時間受付)交通事故対策も大切ですが、人の動物へのモラル向上も課題なのかもしれません。
以上になります。環境省西表自然保護官事務所では、2020年から3年計画で個体調査を行っています。来年にも最新の生息数が明らかになると思いますが、個体数の減少に歯止めがかかっていることを願うばかりです。