マイクロチップの義務化が2022年6月から施行
2019年6月に改正動物愛護法が成立し、犬猫販売業者(ペットショップ)へのマイクロチップの装着、情報登録が義務付けられることになりました。法改正の施行は公布から3年以内とされ、2022年6月から施行を予定しております。
マイクロチップ義務化の対象は、ペットショップやブリーダーに限り、すでに飼い主の方や個人間等の譲渡で飼い主になる場合は、努力義務とされています。むろん、野良猫や地域猫も義務化の対象ではありません。
地域猫は、所有の明示が曖昧
動物の愛護及び管理に関する法律では、第七条に動物の所有者又は占有者の責務等が記されており、この第6項には所有の明示が記載されています。
(動物の所有者又は占有者の責務等)第七条 6 動物の所有者は、その所有する動物が自己の所有に係るものであることを明らかにするための措置として環境大臣が定めるものを講ずるように努めなければならない。
出展元:e-GOV 法令検索 動物の愛護及び管理に関する法律
自己の所有に係るものであることを明らかにするための措置とは、首輪や名札、マイクロチップなどの装着を指しています。一般の飼い主であれば、迷子や逸走した際、見つかりやすいように装着をしている方も多いと思いますが、地域猫となると必ずしもそうではありません。
しかし、地域猫は地域で管理する猫達ですから、マイクロチップの装着とは言わずとも、首輪や名札等、地域で管理している猫というのが分かるようにしておいた方がいいようにも思います。
ただ、全く何もしていないかというとそうではなく、地域猫の猫達は子猫を除けばほとんどが不妊・去勢手術を施されます。この際に、片耳をカットして不妊・去勢済みの印をつけられますから、少なくても不妊・去勢済みの猫であることは判別が可能になっています。
マイクロチップを装着する目的
マイクロチップを装着することにより、その動物の個体識別が可能になります。マイクロチップのデータコードに固有の個体識別番号が割り当てられますが、その個体識別番号を元にデータベースに登録された、飼育者の情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレスなど)が照会できるというものです。
飼育者の情報が分かれば、逸走や迷子の発見にも役立ちますし、災害時の動物救護活動にも役立てられます。また、捨て犬、捨て猫といった動物の遺棄に関しても抑止をきかせることにもつながります。
昨今では、無責任な飼い主による近隣の迷惑、汚損、危害の発生が問題になることも多く、責任の所在を明らかにすることで飼い主の自覚を促すことにも有用であると考えられています。
これらのことから、動物愛護と管理責任の観点から普及が図られてきた経緯がありました。
- 迷子、逸走動物の所有者等の発見
- 事故に遭遇した動物の所有者等の発見
- 災害時の迅速な対応
- 動物の盗難への対応
- 遺棄の防止
- 迷惑防止(地域における共生)
- 危害の防止
- 動物の健康管理
- トレーサビリティー
- 動物輸出入時の個体証明
- 血統登録管理
- 動物医療保険時の個体証明
動物愛護や管理責任の観点から考えると地域猫にもマイクロチップ等、個体識別が可能な器具の装着が必要なことは確かだと思います。
地域猫は誰が飼い主か?所有者か?占有者か?
さて、改正動物愛護法のマイクロチップの装着義務化では、地域猫は対象外です。第七条の所有明示に関しても努力義務どまりです。
加えて、地域猫って飼い主は誰なのかという話もあります。
この話は、民法における第七百十八条(動物の占有者等の責任)に係る部分、また、第百八十条(占有権の取得)にも係るところでしょう。
仮に、所有者のいない猫=所有者、占有者のいない猫に対しての地域の取り組みであるとすれば、所有者や占有者はおらず誰が責任を持つということではないと解釈することができます。一方、不妊・去勢手術を行い、給餌や糞尿の始末を地域(コミュニティ)で、労力と費用をかけて行っている(飼育している)という実情を鑑みれば、地域で所有、占有していると考えることもできます。
地域猫の扱いについて、動物の占有者が誰であるか、問題が発生した場合に責任は誰が負うのかなどを明確に決められていないのが現状と思います。
そう考えると、地域猫へのマイクロチップ等、個体識別が可能な器具の装着に関しては、地域の取り組み方次第になるのはうなずけます。
地域猫にマイクロチップは必要。しかし費用の問題が
地域猫の個体識別に関して話し合えば、ほとんどの人がマイクロチップは装着しておいた方がいいと思うのでは?地域猫活動をされている方、その地域の住民、役所の担当者に限らず多くの方が。
しかし、現実を見れば装着している地域猫はほとんどいないのが現状でしょう。
地域猫活動には、不妊・去勢手術にお金がかかりますし、日々の給餌代もばかになりません。自治体から補助金が出るところも少なくはありませんが、全てを賄えるくらいのものではないでしょう。
マイクロチップの装着にはお金がかかります。装着の手術代に数千円。飼育者の情報の登録料に1050円(AIPOの場合)かかります。
数匹程度なら可能かもしれませんが、数匹しか面倒を見ない地域猫活動は稀だと思います。それ相応の数の野良猫がいて、地域の問題になっているから地域猫活動を行うのです。
やはり、全ての猫をきちんと管理できるだけのお金が十分でないというのが実態ではないでしょうか。例えば、茨城県獣医師会のマイクロチップ助成事業では、AIPOへの登録手続き及び登録手数料(1050円)を負担してもらえますが、対象は飼い主のいる犬猫です。地域猫を対象するものではなく、この他の自治体でも補助金等を負担するところは少ないものと思われます。
現状は、法的にも装着の義務はありませんし、地域猫の扱い(責任の範囲)に曖昧な部分もあります。動物愛護や管理責任の観点からすれば必要だと感じますが、現時点では装着が進むのは難しいと思います。
(GPS機能が付加されるなどすれば、費用対効果の面から採用を検討する地域が増えるかもしれません)
なお、マイクロチップの情報を登録する「動物IDデータベースシステム」の登録件数は、
2002年度末時点で、約2,000件2010年度末時点で、約45万件2019年度末時点で、約200万件2021年4月時点で、約250万件
となっております。来年から義務化が始まることで登録件数もぐんと増えていくものと思われます。