東京都の小池都知事は、2019年4月5日の記者会見において
「平成30年度、初めて殺処分ゼロを達成することができた」
と発表しました。
平成29年度の実績でも、犬:0頭、猫:16頭でしたから、平成30年度は目標達成ができるのでは?と考えられていましたが。
2016年の都知事選で、掲げていた公約の一つ「ペットの殺処分ゼロ」に関して、達成した。というわけですね。
ただし、記者会見の小池都知事の説明にもありましたように
動物福祉などの観点での安楽死処分、引取り収容後に死亡した数は含まれていない。
というわけで、環境省が毎年公表している『犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況』での殺処分数とは異なるカウント方法になります。
こうした、国で公表するものと東京都で公表するものとで、集計方法やカウント方法が異なると、にわかに信じがたく、何が正しい数字なのか訝しげてしまうものです。
▼目次
- 平成29年度の殺処分数 環境省と東京都の違い
- 数字の違和感「東京都によると2008年度は、5,000匹以上が殺処分されていた」
- 何が功を奏して殺処分ゼロを達成できたのか?
- 引き取り拒否された猫は、その後どうなるのでしょうか?
- 殺処分数をゼロにするのが大目標に聞こえるが・・・
平成29年度の殺処分数 環境省と東京都の違い
環境省が公表している『犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況』の資料は、最新のものが平成29年度のものになるので、平成29年度で比較します。
環境省『犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況』https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/files/h30_3_4_3a.pdf(PDF)
こちらの資料の数字と東京都が発表している数字の違いを見てみます。
平成29年度殺処分数
環境省 | 東京都 | |
---|---|---|
犬 | 10 | 0 |
猫 | 192 | 16 |
合計 | 202 | 16 |
公表された数字にかなり違いがあるのがわかります。この差がどこで発生したものかというと、以下の数字を東京都は含めていません。
- 保管中の病気等による自然死
- 衰弱や感染症などで成育が困難な動物の殺処分
- 著しい攻撃性を持った個体の殺処分
自然死に関しては、これを殺処分数に含めるのはいかがなものか?と以前から指摘はあったようですが、現在、環境省が公表している資料には、自然死も含まれています。「殺処分」と考えた場合、自然死は含めない方が自然かと思います。
しかし、一言に「自然死」と言っても、収容後に人手不足などで面倒を見切れず、病気にかかったり弱ってしまった結果、自然死してしまうことも考えると「自然死」を数に含めるのも極端におかしいことではないようにも思います。環境省が自然死を含めているのは、動物愛護の観点からこの辺りが考慮されているものと管理人は考えています。
次に、衰弱や感染症などで成育が困難な犬猫の殺処分も東京都は含めていません。これは、どういうことなのか?猫に関して見てみます。
環境省の資料を見ると、東京都で殺処分された猫192頭の内、183頭が幼齢個体(離乳していない個体)であることがわかります。
このことから、産まれたばかりで衰弱してしまった子猫、感染症にかかってしまった子猫を殺処分した数が、東京都のものには含まれていないということがわかります。
加えて、殺処分された猫の183頭が幼齢個体であることから、著しい攻撃性を持った個体はほぼいなかったものと思われます。
子猫は、ミルクや体温、排泄など、面倒を見てあげないと、すぐに弱ってしまうのですが・・・
子猫は、殺処分していますよね。
数字の違和感「東京都によると2008年度は、5,000匹以上が殺処分されていた」
ニュース番組を見ていた時のことですが、
「東京都によると2008年度に殺処分されていた犬猫の数は、5,000匹以上いましたが・・・」
という報道内容がありました。
東京都の「過去10年間の返還・譲渡・致死処分数(平成20年度~平成29年度)」を見てみると
確かに2008年度(平成20年度)は、犬猫合わせて5,676頭が致死処分されていたことがわかります。
でもこれは、今回の殺処分ゼロに含まれていない、自然死、衰弱や感染症の個体の殺処分数が含まれた、5,676頭です。
殺処分ゼロと謳う時は、含めず、過去の殺処分数には、含める。
調べなければ、この違いはわからないものですが、正しい数字を提示すべきだと思います。
何が功を奏して殺処分ゼロを達成できたのか?
「殺処分ゼロ」って実はものすごく簡単で、明日にでも保健所や動物愛護センターで殺処分を止めればいいだけです。
「保健所」や「動物愛護センター」での殺処分の数なんですから、ここでの殺処分を止めるだけで、ゼロになるわけです。
それから東京都が言う「殺処分ゼロ」で言えば、
病気などの自然死や衰弱してしまった場合の殺処分数は含めないわけですから、やはり殺処分を止めるだけで達成できるともとれるわけです。離乳していない子猫は、数時間置きにミルクを与えたり、体温を管理してあげたり、排泄物の面倒を見てあげなければ、生きていけませんし、衰弱もしてしまいます。東京都の「殺処分ゼロ」のように、衰弱してしまった場合の殺処分を数に含めないというのであれば、簡単に達成できると思います。
とは言え、実際のところ何が功を奏したのかというと
一番大きなところは、保健所、動物愛護センターで、犬猫の引き取りを拒否しているのが大きいでしょう。
以下、主要な都道府県の引取り数を見比べるとよくわかります。
平成29年度 犬・猫の引取り状況 引取り数
犬 | 猫 | 合計 | |
---|---|---|---|
東京都 | 363 | 429 | 782 |
神奈川県 | 405 | 444 | 849 |
大阪府 | 161 | 532 | 693 |
愛知県 | 1,214 | 818 | 2,032 |
埼玉県 | 981 | 570 | 1,551 |
千葉県 | 1,347 | 1,526 | 2,873 |
兵庫県 | 340 | 1,230 | 1,570 |
北海道 | 657 | 1,624 | 2,281 |
福岡県 | 1,042 | 1,213 | 2,255 |
静岡県 | 262 | 570 | 832 |
なお、人口を補足すると、
- 東京都、約1,380万人
- 神奈川、約920万人
- 大阪府、約880万人
- 愛知県、約750万人
- 埼玉県、約730万人
- 千葉県、約630万人
- 兵庫県、約550万人
- 北海道、約530万人
- 福岡県、約510万人
- 静岡県、約370万人
東京都の人口の多さから考えると、引取り数がかなり少ないのが見てわかります。
保健所、動物愛護センターでの収容数を減らせば、殺処分数も減らせる。というのがはっきり分かる結果かと思います。ここを強化して対策したのが大きいと思います。
また、「収容した犬猫の譲渡を推進してきた」と小池都知事の話にもあるように、ここはお金をつぎ込んでいます。
平成30年度の動物譲渡推進事業の予算額は、1億5,552万円 です。これは、譲渡推進の事業のみの予算額なので、動物愛護関連の事業の予算額総額は、2億円は軽く超えていると思います。財源がない都道府県には真似できない取り組みであるとも言えます。
東京都「事業評価票 動物譲渡推進事業」http://www.zaimu.metro.tokyo.jp/syukei1/zaisei/30jigyouhyouka/01_30jigo/30jigo_122.pdf(PDF)
引き取り拒否された猫は、その後どうなるのでしょうか?
東京都の殺処分数は、引き取り拒否を強化したことで、ゼロにすることに大きく寄与したわけですが、引き取り拒否された猫達はどうなるのでしょうか?
まず、保健所、動物愛護センターに引き取られる猫は、幼齢個体(離乳していない子猫)が、7割と多くを占めます。さらに、所有者不明の猫(野良猫)の割合は、8割です。
引き取り拒否をされた猫の内、飼い主がいる場合は、直ちに生命の危険があるかと言えば、それは少ないと思います。
また、野良猫の成猫もすぐに衰弱してしまうかと言えば、負傷や病気がなければ、ただちに生命の危険はないと思います。
ですが、離乳していない野良の子猫は、どうでしょうか?
持ち込んだ人が家で飼えなければ、元の場所に放すことだってあります。そして、元の場所に放してもらったところで、子猫達が生きていけるかと言えば難しいと思います。これは、人間の臭いが付いてしまうと親猫は子育てを放棄することがありますし、一度手元から離されてしまっているので、すでに母猫は子猫のことを諦めてしまっているかもしれません。元の場所に戻したからといって母猫が現れるとも限りません。
また、元居た場所が、持ち込んだ人の敷地内だったら、敷地内で放す人も少ないと思います。放した場所が悪ければ、生存が困難になることも多いように思います。
殺処分ゼロの達成の裏で、悲惨な最期を遂げてしまう猫が少なからずいるであろうことが想像できると思います。
殺処分数をゼロにするのが大目標に聞こえるが・・・
猫サイドからすれば、殺されなかったから命拾いなわけですが、その後、満足に暮らしていける生活は手に入れられるんですかね?
譲渡先が見つからなかった猫達は、動物愛護団体や猫ボランティアの方に面倒を見てもらっているとは思います。
その環境って、猫サイドは幸せなものなのか疑問に思うわけです。
自由の効かない狭いケージに閉じ込められ、譲渡会となればどこぞの知らない場所へ連れてかれ、知らない人にジロジロと見られる日々。
まあ、逆らったらエサはもらえなくなるから、我慢しているけど・・・って感じではないかな。
「殺処分ゼロ」って、この数字をゼロにするだけが目的なわけじゃないですよね?
犬猫をただただ殺処分する行いは、非人道的だからそれだけは止めましょう。がゴールならただの自己満足になってしまいますからね。