殺処分ゼロを目指す自治体は、今では数多く見られるところだと思います。
その背景として、報道機関による動物の遺棄や保健所などの殺処分の実態が広く伝えられ、社会問題として捉えられたことが大きいと思われます。
また、環境省による「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト」を公表したのが、平成26年6月になりますが、このプロジェクトの要旨に、
『殺処分をできる限り減らし、最終的にはゼロにすることを目指します』
とありました。
犬猫の殺処分数については、自治体や動物愛護団体やボランティアの協力の元、かなりの数が減ってきたのは、環境省の統計資料「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」からもわかります。
画像引用元:環境省の統計資料 「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」対象期間:平成31年4月1日~令和2年3月31日(2019年4月1日~2020年3月31日)
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html
殺処分ゼロに関しては平成26年度(2014年)に、熊本市動物愛護センターで初めて犬の殺処分ゼロを達成されております。
さらに、最近では東京都が犬猫の殺処分数ゼロを達成したとの報道もあり、殺処分ゼロを達成する自治体もいくつか出てきています。
当記事では、殺処分ゼロを達成した自治体がどのくらいあるのかを調べました。(令和3年8月調べ)
▼目次
- 殺処分の方法(ドリームボックス)
- 殺処分ゼロを達成した自治体
- 殺処分ゼロ、奈良市の取組み例
- 基本方針は、引き取らない、引き取っても殺処分しない
- 殺処分ゼロにカウントしない処分方法
- 法改正で引取り拒否の強化、引取り数を減らす
- 地域猫活動で所有者不明猫を殺処分しない
- ドイツの動物愛護の取組み方
- (参考)ロードキル件数は、殺処分数の10倍
殺処分の方法(ドリームボックス)
殺処分ゼロを達成した自治体を列挙する前に、殺処分の実態に少し触れておきます。
おそらく、動物の殺処分に関心のある方は、ご存知かもしれません。
「ドリームボックス」
直訳すれば「夢の箱」。殺処分装置の呼び名になっておりますが、このネーミングセンスには違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。
殺処分の方法は、この装置に犬猫を入れて二酸化炭素などのガスを噴出するというものになりますが、瞬時に意識を失う動物ばかりではなく、数分から数十分の間苦しむ個体もいます。このため方法論については、国会(平成26年5月1日第186回国会(常会)参議院)の場でも取り上げられたことがありました。
窒息死させるという行為もそうですが、その後の処分方法も考えされられます。当然、そのままにはしておけませんので、火葬します。火葬と言えば聞こえはいいですが、モノのようにまとめて運び、焼却炉で燃やしてしまうというのが実態になります。
殺処分ゼロを達成した自治体
報道機関で公表されている、殺処分ゼロを達成した自治体を確認しました。令和3年8月調べのものになります。
- 東京都
- 茨城県
- 神奈川県横浜市
- 北海道札幌市
- 奈良県奈良市
- 福岡県福岡市
- 熊本県熊本市
- 神奈川県川崎市
- 愛知県名古屋市
- 沖縄県那覇市
- 沖縄県宮古島市
この他、北海道旭川市動物愛護センター(あにまある)など、動物愛護センターや保護施設で殺処分ゼロを達成している所もいくつかありました。
目標達成まであと一歩という自治体も見られましたので、今後もっと増えていくと予想されます。
※報道発表されているものを調べてリストアップしました。過不足あるかもしれません。
殺処分ゼロ、奈良市の取組み例
どのような施策で殺処分ゼロを達成したのかは、奈良県奈良市の公表内容が参考になります。
【市長会見】 犬猫殺処分ゼロを2年連続で達成しました(令和3年5月13日発表)
取組みの方策としては、
- 引取数の減少
- 飼養の充実
- 譲渡の推進
を挙げられており、こうした方策は、同様に達成されている福岡市でも取り組まれています。(ミルクボランティア事業、犬猫パートナーシップ店制度、譲渡サポート店制度)
また、取組みを行う上で、多くの助成金が設けられますが、ふるさと納税に「犬猫殺処分ZEROプロジェクト(奈良市)」があり、寄付金を殺処分ゼロ事業に充てられています。
基本方針は、引き取らない、引き取っても殺処分しない
奈良市や福岡市の取組み方を大雑把に考えてみると
「引き取らない」「引き取っても殺処分しない」
と言えます。
確かに、殺処分ゼロを達成するには自治体の保健所や動物愛護センターに犬猫を入れなければいいのですから当然です。また、単純に数字をゼロにしたければ、殺処分を行わなければ簡単に達成できます。殺処分は行わず、出来る限り飼育して自然死という形であれば殺処分にはなりませんから。
むろん、悪知恵のような対応を行っているわけではなく、飼い主に捨てさせない、持ち込ませない、増やさせないといった啓蒙活動や不妊去勢手術の案内。殺処分をする前に譲渡活動をされている保護団体や施設に引き取ってもらう。このような活動を地道に行ってきた成果になります。
殺処分ゼロにカウントしない処分方法
環境省では、毎年殺処分数を各自治体に調査し、統計データを公表しておりますが、2015年度分からいくつか区分けをして集計するようになりました。
- 譲渡することが適切ではない(治療の見込みがない病気や攻撃性がある等)
- ①以外の殺処分(譲渡先の確保や適切な飼養管理が困難)
- 引き取り後の死亡
このうち、殺処分ゼロを達成した自治体では、②のみを集計しています。病気や攻撃性のある譲渡不適切の個体、引取り後の死亡を除外して、殺処分ゼロを達成したとしています。
例えば、引取り後の死亡のことを考えると、生後間もない幼齢の子猫は十分なケアをしない限り、衰弱して亡くなることになります。こうした実態も少なからずあるだろうから、集計方法を変えてまで無理にゼロにする必要はないと考える方もいます。
なお、譲渡不適切をどう判断するかは、自治体側に委ねられているのが実情のようです。
法改正で引取り拒否の強化、引取り数を減らす
引き取り数を減らせれば、自治体による殺処分ゼロは達成しやすくなるのは言うまでもありません。だから、動物愛護法を改正しているわけではありませんが、法改正により引取り拒否の強化を行ってきました。
平成25年9月1日施行 改正動物愛護法
終生飼養の徹底に伴い、都道府県等は、終生飼養に反する理由により引取り(動物取扱業者からの引取り、繰り返しての引取り、老齢や病気を理由とした引取り等)を拒否できるようになりました。
令和元年6月1日施行 改正動物愛護法
所有者不明の犬猫の引取り関して、周辺の生活環境が損なわれる事態になっていなければ、引取りを拒否できるようになりました。
なお、「周辺の生活環境が損なわれる事態」とは、動物に起因した騒音又は悪臭の発生、動物の毛の飛散、多数の昆虫の発生等を指します。
平成25年度に、所有者からの犬猫の引取りを一定の条件で拒否できるとし、令和元年度に、所有者不明の犬猫の引取りを一定の条件で拒否できるとしました。
ここ最近では、野良猫は引き取っていません。と明言する自治体もあるくらいで、引取り拒否の強化を行った結果、殺処分数の減少に寄与してきたことは間違いないと思います。
※所有者不明の犬及び猫の引取りの取扱いに関しては、環境省から自治体に通知された「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律の施行について(PDF)」で詳しく見ることができます。
地域猫活動で所有者不明猫を殺処分しない
引取り拒否の強化に加えて、引き取らない(殺処分しない)方法の一貫に「地域猫活動」の推進があります。
地域猫は、元々は野良猫で所有者不明の猫になりますが、地域猫にしてしまえば、殺処分をしないですみます。
自治体で地域猫活動を推進しているので、活動地域を把握しています。その地域から所有者不明の猫として持ち込まれたとしても地域猫の可能性があります。本来、地域猫は所有者不明の猫のはずですが、地域が管理しているからという理由で引取りを断られます。(断ることができます)
仮に周辺の生活環境が損なわれる事態が生じていたとしても、引き取る前に地域で対応が必要になります。
野良猫の多い地域は、野良猫を地域猫にしてしまえばいいのです。地域猫にすれば殺処分の対象を減らせます。
ドイツの動物愛護の取組み方
動物の殺処分を行わない国は、ドイツが有名です。
ドイツでは、「動物の家」(ティアハイム)と呼ばれる施設が国内に500ヵ所以上存在すると言われ、民間ボランティアにより運営されます。また、犬を飼うことの多いドイツではペット税(犬税)が導入されており、1頭目に120ユーロ(約15,000円)、2頭目以降は180ユーロ(約23,000円)の納税義務があります。(年間)この他、迷子対策のためにマイクロチップによる動物登録制度もあり、万が一ペットが迷子になってもティアハイムで保護され、飼い主に返還できる仕組みが整っています。
他にもドイツ憲法に動物保護規定である「動物の権利」が設けられるなど、法的義務に関してもしっかりされていると感じるところです。
(参考)ロードキル件数は、殺処分数の10倍
殺処分は、報道機関に取り上げられることが多く目に付くものですが、ロードキル件数もそれ以上に多いと言われています。
猫の交通事故について、NPO法人人と動物の共生センターが発表した「全国ロードキル調査報告」では、路上で死亡する猫の数が、347,918頭にも上ると言われています。
数値引用:人と動物の共生センター「全国ロードキル調査報告」
この数は、2017年度の1年間に路上死していた数になりますが、2017年度の猫の殺処分数は、34,854頭です。(犬を含めると43,216頭)ロードキル件数は、殺処分数の10倍もあることがわかります。
※ロードキル(交通事故)以外が原因の死亡も含むようです。
殺処分ゼロと言っても譲渡不適切、病死や自然死は含まれません。譲渡不適切と判断された犬猫が殺処分されていると思うとやるせない気持ちにもなりますが、治療の見込みがなく苦しむ動物を安楽死させることは必要なことでもあると思いますし、狂暴な犬猫は飼育が難しく、他の動物への危害や飼育員の負担も大きいと思われます。
保健所などでは限られた人員と予算の中で対応を日々迫られていると思います。飼い主の立場であれば、捨てない・迷子札を付けてあげる・不妊去勢手術を行う。など当たり前のことをきちんとしてあげること、終生飼養をする気持ちで面倒を見ていくことは大事なことだと思います。