全国の犬猫苦情・相談件数の集計と増減の考察

 全国の都道府県で公表されている犬猫の苦情・相談件数を集計し、増減の考察をまとめました。
苦情・相談件数については、自治体HPで公表されている動物愛護推進計画書から参照しております。

※件数の掲載がない自治体もあるため、集計は掲載のあった自治体のみ。

全国の犬猫の苦情・相談件数の傾向としては、犬に関しては減少傾向にあり、猫に関しては増加傾向にありました。
増減の傾向には様々な要因がありますが、大まかに捉えれば、犬猫の数が増えるにつれて苦情や相談も増加します。また、動物への関心が高まればその分、不適切飼養や動物の問題行動が露見されると考えられます。

詳しくは、本文にて犬猫の苦情・相談件数の集計と増減の考察をまとめておりますので、ご参照ください。

なお、都道府県別の苦情・相談件数に関しては、前回投稿でグラフと表で掲載いたしました。個別に確認したい場合は、前回投稿分をご確認いただけると幸いです。

▼目次

  1. 全国の犬猫の苦情相談件数推移(平成27年~令和元年)
  2. 苦情相談の増減割合
  3. 苦情相談が増えた上位5自治体
  4. 苦情相談が減った上位5自治体
  5. 苦情相談の内訳(令和元年度分)
  6. 犬の苦情が減った理由と考察
  7. 猫の苦情が増えた理由と考察
    1. 住環境の変化(密集化)
    2. ペットの増加
    3. 地域社会の希薄化
    4. 動物に対する意識の違い
    5. 不適切飼養
    6. 放し飼い
    7. 無責任なエサやり
    8. 多頭飼育
    9. 高齢化の問題
    10. 貧困や社会的孤立等の要因
    11. 動物愛護の意識向上による影響
    12. 動物愛護センター開設に伴う苦情の増加
  8. 京都市の餌やりに関する条例と苦情件数の増減
  9. 不妊去勢手術の補助金制度は、苦情件数に影響を与えるか?

全国の犬猫の苦情相談件数推移(平成27年~令和元年)

平成27年~令和元年の期間で件数の掲載があった都道府県について、数値を集計したものが以下になります。

【犬猫】全国(24府県)の苦情相談件数推移(平成27年~令和元年)

グラフの画像

平成27年 平成28年 平成29年 平成30年 令和元年
140,618 136,613 137,616 135,243 128,804

対象の24府県->青森県・岩手県・秋田県・山形県・栃木県・群馬県・埼玉県・富山県・石川県・山梨県・長野県・岐阜県・静岡県・三重県・京都府・大阪府・兵庫県・鳥取県・岡山県・高知県・福岡県・長崎県・大分県・鹿児島県

【犬】全国(25府県)の苦情相談件数推移(平成27年~令和元年)

グラフの画像

平成27年 平成28年 平成29年 平成30年 令和元年
68,346 65,928 62,785 61,110 56,715

対象の25府県->青森県・岩手県・宮城県・秋田県・山形県・福島県・栃木県・群馬県・埼玉県・富山県・石川県・山梨県・長野県・岐阜県・静岡県・京都府・大阪府・兵庫県・鳥取県・岡山県・山口県・高知県・長崎県・大分県・鹿児島県

【猫】全国(22府県)の苦情相談件数推移(平成27年~令和元年)

グラフの画像

平成27年 平成28年 平成29年 平成30年 令和元年
59,249 59,197 60,278 59,854 59,244

対象の22府県->青森県・岩手県・秋田県・山形県・栃木県・群馬県・埼玉県・富山県・石川県・山梨県・長野県・岐阜県・静岡県・京都府・大阪府・兵庫県・鳥取県・岡山県・高知県・長崎県・大分県・鹿児島県

苦情相談の増減割合

苦情相談の件数について、過去の件数と最新の件数を見比べて、増減の割合を円グラフにしました。

増加:最も古い年と最新の年の件数を比べて、最新の年が増えていれば増加にカウント。
減少:上記の逆。最新の年で減っていれば減少にカウント。
不明:件数の掲載がない都道府県をカウント。

【犬猫】全国の苦情相談件数の増減

グラフの画像

増加 21%(10県)
減少 47%(22県)
不明 32%(15県)

【犬】全国の苦情相談件数の増減

グラフの画像

増加 4%(2県)
減少 60%(28県)
不明 36%(17県)

【猫】全国の苦情相談件数の増減

グラフの画像

増加 40%(19県)
減少 17%(8県)
不明 43%(20県)

苦情相談が増えた上位5自治体

苦情相談が増えてしまっている自治体のTOP5が以下になります。なお、犬に関しては増加している自治体が2自治体のみになります。

【犬猫】苦情相談が増えた上位5自治体

過去 直近 増減数 増加率
山形県 955
(平成25年)
2,233
(令和元年)
1,278 134%
宮城県 1,610
(平成19年)
2,233
(令和2年)
623 39%
島根県 649
(平成15年)
860
(平成24年)
211 33%
大阪府 26,844
(平成25年)
34,209
(令和元年)
7,365 27%
熊本県 2,456
(平成18年)
3,091
(平成28年)
635 26%

【犬】苦情相談が増えた上位5自治体(2自治体のみ)

過去 直近 増減数 増加率
大阪府 13,287
(平成25年)
18,409
(令和元年)
5,122 39%
滋賀県 208
(平成16年)
232
(平成25年)
24 12%

【猫】苦情相談が増えた上位5自治体

過去 直近 増減数 増加率
兵庫県 200
(平成10年)
2,500
(令和元年)
2,300 1150%
島根県 38
(平成15年)
361
(平成24年)
323 850%
山形県 256
(平成25年)
1,717
(令和2年)
1,461 571%
鳥取県 580
(平成22年)
1,220
(令和元年)
640 110%
長野県 1,265
(平成23年)
2,518
(令和2年)
1,253 99%

苦情相談が減った上位5自治体

苦情相談が減った自治体のTOP5が以下になります。

【犬猫】苦情相談が減った上位5自治体

過去 直近 増減数 減少率
秋田県 1,620
(平成14年)
545
(令和元年)
-1,075 66.4%
山梨県 3,466
(平成16年)
1,171
(令和元年)
-2,295 66.2%
奈良県 1,639
(平成18年)
687
(平成28年)
-952 58%
長崎県 3,352
(平成20年
1,619
(令和元年)
-1,733 52%
大分県 6,800
(平成24年)
3,900
(令和元年)
-2,900 43%

【犬】苦情相談が減った上位5自治体

過去 直近 増減数 減少率
秋田県 1,343
(平成14年)
346
(令和元年)
-997 74.2%
山梨県 2,289
(平成16年)
595
(令和元年)
-1,694 74.0%
奈良県 1,125
(平成18年)
306
(平成28年)
-819 73%
福島県 3,521
(平成18年)
1,031
(令和元年)
-2,490 71%
長崎県 2,204
(平成20年)
653
(令和元年)
-1,551 70%

【猫】苦情相談が減った上位5自治体

過去 直近 増減数 減少率
山梨県 1,177
(平成16年)
576
(令和元年)
-601 51%
大分県 3,300
(平成24年)
2,200
(令和元年)
-1,100 33%
秋田県 277
(平成14年)
199
(令和元年)
-78 28%
奈良県 514
(平成18年)
381
(平成28年)
-133 26%
長崎県 1,148
(平成20年)
966
(令和元年)
-182 16%

苦情相談の内訳(令和元年度分)

苦情相談内容に関する内訳の掲載があった自治体について、令和元年度分で集計をしました。

※苦情相談内容の内訳は、項目が全国で統一されていません。このため項目を整理して一部は振り分けなおしています。おおまかな件数計上となりますので、正確な情報を知りたい場合は、自治体のHPで参照できる動物愛護推進計画の資料からご確認ください。

犬の苦情相談の内訳(令和元年度分)

グラフの画像

生活環境被害(糞尿・悪臭等) 被害(家畜農産物) 被害(財務等) 放し飼い・係留不適 飼育管理 野犬・迷い犬・飼い主不明 捕獲・保護 捨て犬 多頭飼育 虐待 引取り その他 被害(咬傷・負傷)
青森県 88 0 0 71 0 348 0 0 0 0 0 172 0
宮城県 166 0 0 119 0 0 469 0 0 0 0 0 0
秋田県 69 0 0 183 0 0 0 0 0 0 0 0 0
山形県 25 0 3 331 0 0 0 7 1 14 84 170 5
福島県 104 0 0 836 21 0 0 0 0 0 0 70 0
山梨県 130 1 0 96 0 0 127 0 0 0 105 73 63
岐阜県 67 1 0 33 0 0 0 0 4 0 0 0 60
京都府 70 2 0 37 0 0 72 0 0 0 0 91 0
高知県 170 0 0 50 40 320 200 0 0 0 0 0 0
合計 889 4 3 1,756 61 668 868 7 5 14 189 576 128

※咬傷の被害は、苦情相談の件数と分けている自治体が多くみられました。上記は、一部自治体で咬傷の被害も計上されていますが、苦情相談の内訳に記載のあったとおりです。(別計上としているため、苦情相談の内訳にはのってこない自治体があります)

猫の苦情相談の内訳(令和元年度分)

グラフの画像

生活環境被害(糞尿・悪臭等) 被害(家畜農産物) 被害(その他) 放し飼い 飼育管理 餌やり 飼い主不明 捕獲・保護 捨て猫 多頭飼育 虐待 引取り その他
青森県 157 0 0 15 0 0 289 0 0 54 0 0 271
宮城県 270 0 0 82 0 151 0 0 0 0 0 976 0
秋田県 96 0 35 0 0 0 0 0 382 0 0 0 0
山形県 131 0 9 7 0 0 0 146 45 65 12 571 742
山梨県 130 4 0 0 0 0 0 63 0 0 0 120 259
岐阜県 120 19 0 0 0 90 0 0 0 40 0 0 0
京都府 80 0 3 0 0 0 0 59 0 0 0 0 151
高知県 150 0 0 0 125 0 0 220 0 0 0 60 0
合計 1,134 23 47 104 125 241 289 488 427 159 12 1,727 1,423

犬の苦情が減った理由と考察

犬の苦情に関しては、多くの自治体で減少傾向でした。苦情内容は、放し飼い(逸走)・糞尿・鳴声など生活環境被害が多く、これは以前からあまり変化はないようです。

苦情が減少傾向にあること、生活環境被害が多いことを踏まえると、単純に以前と比べて生活環境被害が減ってきているということになります。

なぜ、生活環境被害が減ってきているかを考えると、飼い主のマナー向上、室内飼養の増加は一因であると思われます。

犬の社会的役割が番犬から愛玩動物に移行するに伴い、室内飼養の増加や、飼い主のマナー意識が向上したためと思われます。(奈良県)

-> 奈良県動物愛護管理推進計画(第2次計画)資料より引用

室内飼養の増加について、特に集合住宅では鳴声や臭気の問題が増えてもおかしくありませんが、ペット可の物件が増えたり、住民間の理解も少なからずあれば、相当な問題が発生しない限り苦情に至らないのかもしれません。何より番犬のように常時外で飼われている犬よりも鳴声や臭気の問題は軽減できるということだと思います。(昨今の小型犬人気も影響があるかもしれません)

また、犬に関しては野良犬という存在自体がほぼなくなりました。狂犬病予防法により放浪犬は保健所で捕獲が行われます。このため飼い犬も放し飼いをする飼い主は少ないと思われますし、係留義務があるため外で見かける飼い犬は飼い主が手綱を握って付き添います。逸走してしまうケースはありますが、猫と比べて放し飼いや野良による問題は少ないことが窺えます。
さらに、犬は犬種によっては咬傷事故を起こす危険性もあるため、飼い主は第三者に対する加害者になり得ます。加えて、飼い主の適正飼養が図られない場合、条例の罰則強化に踏み切る自治体も出てきます。適正飼養に関する飼い主の意識は、猫より犬の方が高いことも考えられます。

平成 26 年度以降、犬による咬傷事故の届出件数が増加に転じており、その主な原因は犬の放し飼い(逸走中)によるものです。県では、平成 30 年に条例を改正し、犬の放し飼いに関する罰則を強化しました。(茨城県)

-> 茨城県動物愛護管理推進計画(第4期)資料より引用

猫の苦情が増えた理由と考察

様々な要因が考えられ、その一部は犬猫共通するところもあります。また、多頭飼育の問題が取りざたされるなど問題は多様化し複雑になってきているのかもしれません。

住環境の変化(密集化)

戦後から高度経済成長を経て、経済が活性化すると共に都市部への人口集中が顕著になりました。日本の人口は平成17年以降減少に転じましたが、一方で世帯数は増加するという核家族化が進んだことは周知の事実と思います。

動物に関わる苦情は、当然ながら人が多ければ多いほど増加します。都市部への人口集中は住宅の密集化や集合住宅の増加を招き、近隣住民から受ける影響は以前より高くなったと考えられます。

集合住宅や人口密集地域における苦情・相談が多く、他の人に迷惑のかからない飼養や猫の屋内飼養等に対する意識の欠如によるものです。(京都府)

-> 京都府動物愛護推進計画資料より引用

ペットの増加

一般社団法人ペットフード協会の全国犬猫飼育実態調査結果によりますと、2021年の犬猫飼育頭数は、
犬:710万6千頭、猫:894万6千頭
犬猫をペットとして広く飼われるようになった昭和30年代後半以降、犬の飼育が多い時代がしばらく続いておりましたが、近年(ここ10年くらい)ではその数が逆転したようです。

※一般社団法人ペットフード協会 -> https://petfood.or.jp/

ペットの数が増えても適正に飼育される飼い主ばかりであれば問題はありませんが、不適切な飼養をする飼い主の割合が変わらず一定数いると苦情の増加につながります。

犬の苦情相談件数が減少傾向にあり、猫が増加傾向にあるのは、ペットの犬の減少と猫の増加がリンクしているようにも見てとれます。

猫の飼養頭数の増加と共に放し飼いによる苦情や相談も増えてきました。(京都府)

-> 京都府動物愛護推進計画資料より引用

地域社会の希薄化

同じことをされても、Aさんは許せるけど、Bさんは許せない。赤の他人だったらなおさら許せない。そんなことは誰にでもあると思います。この場合、Aさんは問題にはならないし、Bさんと赤の他人は苦情になるかもしれません。

特に都市部だと顕著かもしれませんが、地域や隣人とのつながりは希薄化しています。このため、(地域の関係性がある程度保てていた)以前は問題にならなかったことが、希薄化した今ではトラブルに発展してしまうことがあるようです。

このような分析をされる自治体がいくつかありましたが、根っこの問題は不適切飼養だと思います。ペットの糞尿や鳴声の問題は、飼い主の飼育管理によるところが大きいです。寛容な地域社会であるのは望ましいかもしれませんが、それよりもまず不適切飼養をされる方を何とかした方が健全だと思います。

住環境の都市化や核家族化の進行により、近隣との関係が希薄化するなかで、ペットの鳴き声や臭いなどの身近な問題が複雑・長期化し、対人関係のトラブルにまで発展する傾向も見受けられます。(埼玉県)

-> 埼玉県動物愛護管理推進計画資料より引用

動物に対する意識の違い

主に飼い主のいない猫(野良猫)に対する意識の違いです。

野良猫の被害は、保護したいと思っている人からすると大したことないと思うことが少なからずあるようですが、大したことないなんてとんでもありません。管理人も長い間糞尿の被害に遭い続けてきましたが、朝玄関開けたら庭に糞です。放置しておくとまたやられるので仕事前や出掛ける前に片付けることになります。これがほぼ毎日。下痢の日は最低です。ゴミ捨て前にチェックするように習慣化していましたが、全くおかしな話です。飼い猫でもないし、面倒を見ている猫でもない。餌やりする近所の人は、餌をやるだけです。あなた達が可愛がった後始末を私がやっているようなもんです。大したことがないと思っている人がいたら、犬でも猫でも酔っ払いでもいいので家に毎日野グソされて同じこと言えるか聞いてみたいもんです。

話を元に戻すと、猫嫌いと猫好きの意識の違いということだと思いますが、猫好きが野良猫を保護しようとすること自体は、動物愛護の観点からもいいことのはずです。それが動物に対する意識の違いで苦情になったり、対立が起きたりというのはおかしな話です。それも、苦情を申し立てるのは猫嫌いや被害に遭われている方がほとんどでしょう。
もし、苦情を言わざるを得ない状況を猫ではなく人が作ってしまっているなら、猫より人の問題の方が大きいと思います。

猫による被害を受けていると考える人と、猫を保護しようという人の間で意識の隔たりが問題解決を難しくしています。(山形県)

-> 山形県動物愛護管理推進計画資料より引用

不適切飼養

動物に関する苦情の多くが、動物の適正飼養についての知識、理解不足に起因する。(静岡県)

-> 静岡県動物愛護管理推進計画(2021)資料より引用

根本はこれだと思います。
猫に限らず犬にも通ずるところだと思いますが、猫は犬のように自治体への登録(犬の鑑札と注射済票の交付)は必要ありません。その分、猫を飼うことのハードルは低いと思います。

飼い主の動物に関する知識や適正飼養の知識が不足していれば、動物の自由な行動を管理できません。加えて、飼い主のマナーも欠如していれば近隣への迷惑行為へとつながります。
また、ペットによる問題行動や迷惑行為が飼い主の責任(加害者)であることの意識が低いのかもしれません。特に猫は、犬のように噛み付くなどの怪我を負わせてしまうことが少ないと考えてしまえば、放し飼いや外でちょっとくらいの悪さをしても問題ないだろうと考えてしまう飼い主もいるかもしれません。

放し飼い

いまだに放し飼いをされる飼い主がおられるようです。

飼い猫の室外飼育によるトラブルなど飼い主のマナー違反による苦情も近年増加傾向にあります。(熊本県)

-> 第3次熊本県動物愛護管理推進計画資料より引用

放し飼いに関しては、都心部は少なく、郊外が多いような地域差があると思います。昔ながらの外飼いが主流だった時代は過ぎているのは、住環境の変化、地域社会の希薄化、動物に対する意識の変化を考えてみても明白だと思います。

無責任なエサやり

近所のエサやり住民は、エサをやるだけで後は何もしません。ではエサをやるとどうなるか、エサ場から程よく近い糞をしやすい場所にやってきます。それがうちの庭でした。そりゃあ問題になりますよ。うちの庭だけじゃなく、歩道にも糞が落ちていることなんて日常なんですから。その片付けは地域の有志の方がやるだけです。エサやりする人は知らんぷり。

なかなか酷い状況だと思うのですが、苦情になり問題になるくらいの地域は似たり寄ったりの状況なのかもしれません。

無責任な餌やり等により、飼い主のいない猫が問題となっている地域があります。 (岩手県)

-> 第3次岩手県動物愛護管理推進計画資料より引用

では、責任あるエサやりだったらいいのか?という話もありますが、どこまで責任を持てるのでしょう?現実問題、自由に歩き回る猫の行動の全てに責任が持てるわけがありません。糞くらいは片付けることができるかもしれませんが、畑や花壇を荒らされた、子供が猫にひっかかれた、車やバイクに傷をつけられた、汚損された・・・こうした事が起こってしまってもエサやりしている人が責任を取ることはまずないでしょう。もっと言えば地域猫でさえ同じことがあっても泣き寝入りだと思います。
結局のところエサやりをし続けるには、近隣住民が想定される被害を許容するしかありません。
エサやりに起因する苦情を減らすには、エサやりをなくすか、近隣住民の我慢と許容を強いるか、責任の所在を明確にするかのいずれかだと思います。

多頭飼育

昨今、多頭飼育の問題がニュースに取り上げられることも散見され、増えてきているのは確かだと思います。また、犬より猫で問題が多いことも事実でしょう。犬に関しては、生後90日を経過してから30日以内に自治体への登録が必要です(鑑札と狂犬病の予防注射)。犬の多頭飼育の問題が少ないのは登録制度が抑止力になっていると考えられます。(むろん無登録で飼うことも可能かもしれませんが、登録義務を守らない場合は、20万円以下の罰金に処せられます)

猫をペットにする人が増えたこと、登録など手続きなく容易に飼えること、適正飼養の知識が不足していること、猫が増えてしまった時に適切な対処が行えないこと、様々な要因が重なって起こる多頭飼育の問題だと思いますが、多くの自治体が問題として認識しているのが現状です。

全国的に課題となっている多頭飼育問題も発生しています。特に猫は不妊去勢せずに飼養し、管理能力を超える頭数まで増えてしまうことが多くなっています。(山形県)

-> 山形県動物愛護管理推進計画資料より引用

高齢化の問題

犬猫共通の問題ですが、飼い主の入院や死亡により、動物が取り残されてしまうケースがあるようです。

犬・猫の飼い主が引取りを求める理由として、全体では「飼い主や家族の病気・高齢」を挙げる割合が高く(兵庫県)

-> 兵庫県動物愛護管理推進計画資料より引用

こうしたケースは、飼い主だけでなく犬猫もシニア化が進んでいると思われますので、譲渡先を見つける難しさや犬猫にとっても住環境が意図せず変わってしまうことは負担になると思います。

貧困や社会的孤立等の要因

地域社会の希薄化に近い要因と思いますが、問題の複雑性を示すかのようにとりあげる自治体もありました。

(迷惑問題に関して)その背景には貧困や社会的孤立等様々な要因が存在していることもあり、県や市町においても対応に苦慮している現状があります。(長崎県)

-> 第3次長崎県動物愛護管理推進計画資料より引用

管理人の地域でもエサやりをされている方の中に生活保護を受けられている方がおりますね。ただ、一軒家で車2台持ち。野良猫に毎日エサやりをしているくらいなので、あまり貧困とは結びつかない印象ですが。
貧困や社会的孤立により、寂しさを紛らわすためにエサやりをしたり、誰にも相談できず気付いたら不適切飼養に陥り他人に迷惑をかけていたなどが考えられます。なお、生活保護を受けていてもペットを飼うことは可能です。生活保護受給者の動物飼育を規制する法律は存在しません。

動物愛護の意識向上による影響

近年、県民の動物愛護気運の醸成により離乳前の子猫や負傷動物についての相談件数が増えてきており、これらの根本的解決のための施策が必要とされています。(宮崎県)

-> 第3次宮崎県動物愛護管理推進計画資料より引用

上記の宮崎県のような相談であればいいですね。問題は相談件数の増加であり、子猫や負傷動物が増えてしまうこと。宮崎県では「無計画な動物への餌やりに代表される不適切な動物の管理に起因する様々な苦情が数多く寄せられてる」との記載もありましたので、野良猫のエサやり問題は根が深いのだと思います。

一方で、動物愛護の意識の変化もあるかもしれません。例えば、お腹を空かせてる野良猫にエサをやるのは慈悲深いと思われていたことが、エサをやることで不幸な野良猫を増やす、糞尿など近隣への迷惑行為につながるなどが広く考えられるようになれば、無責任なエサやりという言葉が使われるようになります。
別の問題で考えてみると、タバコも昔はどこでも吸えました。電車でも飛行機でも会社のオフィスでも。それが副流煙や受動喫煙の問題が取り沙汰され、健康被害が広く知れ渡ると徐々に自由に吸える場所はなくなります。健康被害だけでなく臭いや汚れの問題もヤリ玉に挙げられたと思いますが、あくまで周囲の人が我慢していたから成り立っていた事。元から嫌な思いをしていた人がたくさんいたということでしょう。
平等でもないし、公平でもない、公正でもなかったわけです。喫煙に関してはスペースがあまりなかったという問題が解消されて、以前よりは公正な状態が保たれてきていると思います。
猫の問題も同じようなことは起きており、周囲の人の我慢に甘えて許されていた行為が厳しい目で見られるようになってきていると思います。これまで苦情の声を上げていなかった人が声をあげるようになってきたのも増加の要因の一つかもしれません。

動物愛護センター開設に伴う苦情の増加

平成 31 年度に動物愛護センターが開設し、動物愛護行政に対する県民の関心や対応への期待の高まりが犬猫に関する苦情や相談の増加につながっていると推定されます。(秋田県)

-> 第3次秋田県動物愛護管理推進計画資料より引用

苦情や相談をどこにしていいかわからなかった人が、動物愛護センターの開設によって苦情や相談をしやすくなったということでしょう。この他、大分県でも令和元年度におおいた動物愛護センター(大分県と大分市の共同運営)が開設された後、猫の引取り依頼の相談が3倍程度(前年度300件強だったものが1000件弱に増加)になったケースもあります。潜在的に困っている人がたくさんいたということだと考えられます。

自治体の集計方法が変わった、変えた

自治体の集計方法はブラックボックスです。実際のところわかりません。しかし、集計方法を変えれば件数が大きく変わる可能性があるのは確かです。一例として以下のグラフを見てください。

グラフ

上記は、島根県の猫に関する苦情相談件数をグラフにまとめたものですが、平成17年以降、件数が急増しました。また、内訳を見てみると平成19年までは糞尿の苦情や相談は一件もありません。しかし、翌年の平成20年には一気に40件程度計上されます(他にも餌やり・家屋侵入なども新たに計上)。この内訳をそのまま読み取れば、平成19年以前は糞尿の苦情は一切なかったようにも見えてしまいます。おそらくは、その他の中に一緒くたにされていたものを正しく振り分けるように変えたというのが正解だと思いますが、集計方法を変えることで件数に影響が出てくることもありえるということです。

京都市の餌やりに関する条例と苦情件数の増減

京都市では、平成27年7月1日より「京都市動物との共生に向けたマナー等に関する条例」が施行されております。飼い主のいない猫への不適切な給餌の禁止とする条項があり、違反した者には、50,000円以下の過料に処する罰則規定が設けられました。
このような野良猫への適切な給餌の基準を設けた結果、京都市の苦情件数の変化はどのようなものだったでしょうか。

以下、第二期京都市動物愛護行動計画より猫の苦情件数を引用。-> 第二期京都市動物愛護行動計画の策定について(https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/0000281387.html

グラフの画像
出展元:第二期京都市動物愛護行動計画資料(18ページ目)

上記のグラフから平成27年以降、ふん尿被害苦情のうち、無秩序な餌やりに関する苦情は、少しずつ減少しているのがわかります。
しかし、延べ苦情件数、ふん尿被害苦情の総件数を見る限り、横ばいといった推移。令和元年こそ減少に転じていますが、同年は改正動物愛護法が6月1日に施行されています。動物虐待等の罰則強化、所有者不明猫の引取拒否事由の追加などがありました。動物への不適切な取扱いへの対応が強化されており、動物に関わる業者、所有者への影響も少なからずあったと思われます。このため減少に転じたかの判断は今後の推移を見守る必要があると思います。(平成25年も大きく苦情件数が減っていますが、これも前回の法改正(平成24年)が影響したものと考えられます)

また、平成27年は前年度より2割程度の件数の増加が見られますが、条例を施行したことで市民の動物への関心度が高まったことによる影響が考えられます(不適切飼養の被害を我慢していた人が条例施行をきっかけに苦情や相談をするようになったなど)。この場合、仮に推測が正しければ、施行後しばらくは無秩序な餌やりを含むその他の苦情も増え、その後、苦情の対応と関心の薄れから減少していくことも推察されます。

それから、無秩序な餌やりに関する苦情は減少しているものの、少なくとも平成30年までの延べ苦情件数、ふん尿被害苦情の総件数は、減っていません。
飼い主のいない猫、放し飼いの猫の総数が減らないことにはふん尿被害が起き続けることも考えられますが、京都市の人口を考えると苦情件数をこれ以下に減らしていくのが困難な可能性もあります。

なお、平成21年に策定(平成28年3月改定)された京都市動物愛護行動計画では、苦情件数の数値目標を平成30年度に「1,000件」としていますので、目標値を達成されています。

追記:京都市では、まちねこ活動支援事業を平成22年に開始されています。

苦情件数の変化は、まちねこ活動(地域猫活動)も少なからず影響を及ぼしているかもしれません。

地域猫活動を行えば、その地域で生活していた野良猫は地域で管理する猫になります。単純に考えるとその地域から野良猫という存在がいなくなるわけです。なので、野良猫に関する苦情はなくなります。
さらに、地域猫が糞尿などの生活被害を及ぼしたときは、自治体や保健所などへ苦情する前に地域猫活動を行っている地域住民やグループ(もしくは自治会へ)へ苦情相談する流れになります。この結果、自治体や保健所への苦情や相談は少なくなります。
よって、地域猫活動を行うことで、自治体で集計している苦情件数は減って当然という話です。
加えて、地域猫活動を継続することで不妊去勢手術の効果も期待できます。一代限りの地域猫は時間経過とともに数が減少し、その地域から外で生活する飼い主のいない猫がいなくなると言われています。そこまでいけば飼い主のいない猫による苦情がなくなります。

京都市では、10年続けてきているまちねこ活動(地域猫活動)です。
平成25年に苦情件数は大きく減っていますが、平成24年度に動物愛護法の法改正がありました。その後、横ばいの推移を見る限りでは、まちねこ活動(地域猫活動)による影響(飼い主のいない猫の減少や生活環境の改善など)がどこまであったかは定かではありません。

京都市のまちねこ活動は、以下の「まちねこ活動支援事業の10年間の事業評価」で詳しい情報を見ることができます。
-> https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/0000277536.html

不妊去勢手術の補助金制度は、苦情件数に影響を与えるか?

不妊去勢手術の補助金制度は、主に飼い主のいない猫に対して設けられていると思います。

不妊去勢手術を行えば、将来増えてしまう可能性のあった猫の数を抑えられる効果が得られますので、長い目で見ると猫の数を減らせて、その分苦情や相談に至るケースも減るものと思われます。
自治体においては、苦情相談のみならず、保健所で引取る数や殺処分数の減少にも寄与するものと考え、制度を設けられていると思います。

不妊去勢手術の補助金制度は、自治体が行うものだけでなく、地域の獣医師会や動物愛護団体が行うケースもあり広がりを見せていると思いますが、自治体によってばらつきがあるのも確かでしょう。都道府県レベルで行われているところもあれば、市町村で行われているところもあります。また、補助金の額面や手術頭数の上限もまちまちで、上限100万円程度であったり、上限200頭までなど様々です。

この制度が苦情件数(や殺処分数、飼い主のいない猫の生息数)にどのような影響を与えるかを分析されている自治体は、おそらくほとんどないでしょう。少なくとも私は見たことがありません。
せめて不妊去勢手術の実績頭数があれば、推移を見てとれるかもしれませんが、公表されているデータもほぼないと思います。市町村で個別に実績数を出されている所はありますが、都道府県で集計して県全体で何頭といった数を出されている所はなかったと思います。
加えて、本制度は、長い目で見て効果が出始めると考えられますので、開始して数年で推移を見てもあまり意味がないでしょう。

とはいえ何かしら参考になるものが欲しいところです。以下の横浜市の猫の不妊去勢手術推進事業の補助頭数を見てください。
横浜市の動物愛護管理業務実施結果より数値を参照 -> 人と動物との共生推進よこはま協議会

平成26年 平成27年 平成28年 平成29年 平成30年 令和元年 令和2年
飼い主のいない猫 2,853頭 3,532頭 3,287頭 4,098頭 3,922頭 3,884頭 4,075頭
飼い猫にする猫 1,101頭 1,337頭
飼い猫 3,355頭 2,980頭 3,192頭
総数 6,208頭 7,613頭 7,816頭 4,098頭 3,922頭 3,884頭 4,075頭

※平成29年より補助の対象から飼い猫及び飼い猫にする猫を除外し、飼い主のいない猫のみとなっています。
※横浜市の猫の不妊去勢手術推進事業は、平成26年3月26日制定され同日施行されています。

上記は、令和2年度までの実績頭数になります。令和3年、4年度の実績はまだ出ておりませんが、両年の補助対象頭数4,000頭とされています。

少なくとも横浜市では、平成26年に猫の不妊去勢手術推進事業開始し、令和2年度までに延べ「37,616頭」、飼い主のいない猫に限ると「28,089頭」に対して手術をされています。また、令和3年、4年度も補助対象頭数4,000頭とされていますので、事業開始から9年経ても数字だけ見ると減少の傾向を見てとることはできないようです。

また、横浜市の猫の苦情等件数の推移は以下の通りです。

平成26年 平成27年 平成28年 平成29年 平成30年 令和元年 令和2年
3,388件 3,651件 3,190件 2,260件 2,306件 1,956件 1,742件

猫の苦情等件数は減少してきています。継続的な不妊去勢手術が苦情の減少につながったとするのは早計かもしれませんが、少なからず影響があるように見える推移だと思います。

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2017年4月に新居へ引っ越した直後から野良猫に悩まされる。
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