野良猫が敷地内に住み着いている、仔猫をたくさん産んでしまった等、飼うこともできないし、かと言ってこのまま敷地内に住まわせるわけにはいかない。近隣住民に飼っていると勘違いされるのも困る。
居着いてしまって出て行かない。飼い主を探してあげたいけど探す時間が取れない。など。様々な事情でやむを得ず保健所へ持ち込みを考える方がいらっしゃるかと思います。
こちらの記事では、野良猫を保健所に持ち込む手順と保健所での引取り拒否についてをまとめました。
持ち込む手順の前に。動物愛護法での引取りの扱い
動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律)では、犬及び猫の引取りについて第三十五条に記載があります。
第三十五条 都道府県等(都道府県及び指定都市、地方自治法第二百五十二条の二十二第一項の中核市(以下「中核市」という。)その他政令で定める市(特別区を含む。以下同じ。)をいう。以下同じ。)は、犬又は猫の引取りをその所有者から求められたときは、これを引き取らなければならない。ただし、犬猫等販売業者から引取りを求められた場合その他の第七条第四項の規定の趣旨に照らして引取りを求める相当の事由がないと認められる場合として環境省令で定める場合には、その引取りを拒否することができる。
2 前項本文の規定により都道府県等が犬又は猫を引き取る場合には、都道府県知事等(都道府県等の長をいう。以下同じ。)は、その犬又は猫を引き取るべき場所を指定することができる。
3 前二項の規定は、都道府県等が所有者の判明しない犬又は猫の引取りをその拾得者その他の者から求められた場合に準用する。この場合において、第一項ただし書中「犬猫等販売業者から引取りを求められた場合その他の第七条第四項の規定の趣旨に照らして」とあるのは、「周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがないと認められる場合その他の」と読み替えるものとする。
4 都道府県知事等は、第一項本文(前項において準用する場合を含む。次項、第七項及び第八項において同じ。)の規定により引取りを行つた犬又は猫について、殺処分がなくなることを目指して、所有者がいると推測されるものについてはその所有者を発見し、当該所有者に返還するよう努めるとともに、所有者がいないと推測されるもの、所有者から引取りを求められたもの又は所有者の発見ができないものについてはその飼養を希望する者を募集し、当該希望する者に譲り渡すよう努めるものとする。
出展:「動物の愛護及び管理に関する法律」
2019年6月19日に改正された「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律」では、第三十五条3項の記載が変更されました。
要約すると、所有者不明の猫(野良猫)も引取り対象だけど、生活環境が損なわれる事態でなければ引取りを拒否しますよ。ということです。
これまでの引取り拒否に関する条文より一歩踏み込んだ内容としており、保健所で野良猫の引取り拒否をしやすい根拠が設けられました。これまで以上に保健所では野良猫を引き取らなくなっていると思われます。
野良猫を保健所に持ち込む流れ
対応は自治体により様々ですが、大まかにあげると以下のように対応が分かれます。
- 引取場所、日時を指定して引き取っている。
- 保健所に事前連絡、引取日時を指定の上、引き取っている。
- 所有者不明の猫(野良猫)は引き取りを行っていない。
※詳しくは住まいの自治体に確認するのが良いでしょう。
引取場所、日時を指定して引き取っている
広島県呉市の例
出展:広島県呉市「飼い主不明の犬・猫の引き取りについて」
自治体HPで案内ページに記載されている場合があります。自治体HPに記載がなければ、自治体へ問合せしてみましょう。
保健所に事前連絡、引取日時を指定の上、引き取っている
山口県下関市の例
出展:山口県下関市「飼い犬・飼い猫の引取り手数料について」
大まかに手続きの流れとしては以下になるでしょう。
1. 拾得者からの事前相談(事情聞き取り)↓2. 所有者有無の確認(首輪、拾得時の状況等)↓3. 飼育意思の確認、または飼い主、譲渡先の探しの指導↓4. やむを得ない事情があると判断した場合、引取日時を指定↓5. 引取手続き
野良猫の場合、引取り手数料を無料としているところが多いようです。こちらも合わせて確認しましょう。
所有者不明の猫(野良猫)は引き取りを行っていない
動物愛護法の条文を見る限り、引き取りを行っていないということはないはずなのですが、自治体によっては引き取らないと明言しているところもあるようです。
兵庫県姫路市の例
出展:兵庫県姫路市「Q.飼育していた猫が飼えなくなったので引き取ってもらいたい。」
上記に「飼い猫についての引き取りは行っていますが、所有者不明の猫(野良猫)は引き取りを行っていません。」と明示されています。
他にも成猫の野良猫は引取りしていないところもあります。
出展:愛媛県松山市「成猫の引取りについて」, 2015年11月19日
出展:長野県長野市「ペットを保護した方へ」, 2017年2月22日
出展:群馬県高崎市「迷い動物について」, 更新日不明
保健所が引取り拒否をする主な事由
飼い猫もそうですが様々な理由を付けて引取りを拒否する保健所が多く存在します。その主な事由というのもロジックと言いますか巧妙なやり口があり、彼らのロジックは以下のようなものです。
- 本当に野良猫ですか?飼い主がいる可能性もあるので引き取れません。
- 仮に野良猫であっても生活環境が損なわれる事態でなければ引き取れません。
- 仮にご自分の生活環境が損なわれていたとしても、“周辺の”生活環境が損なわれていなければ引き取れません。(そういった被害に遭われている相談は受けていません)
- 野良猫を飼い猫として持ち込んだとしても、終生飼養義務があるのでその努力をされているか確認させていただきます。
- もし、野良猫を飼い猫だと偽っているならもちろん引き取りません。
この他、繰り返し持ち込む業者や個人も拒否されます。
このような暴力的論理を振りかざされた場合、どう足掻いても保健所では拒否されてしまいます。
飼い猫の場合の確認点
- 飼養が困難であるとは認められない場合(問題行動が多い、しつけをしていない、世話が大変、引っ越す)
- 引取りを求める犬又は猫の譲渡先を見つけるための取組を行っていない場合
- 家族全員の承諾が得られていない場合
- 親犬、親猫の不妊措置の指導に応じず、生まれてきた子犬や子猫の引取りを求められた場合
- 犬猫の老齢又は病気等の事由
野良猫が怪我をしていれば話は別。保健所は引き取る義務があります。
負傷動物に関しては、動物愛護法で以下のような規定があります。
第三十六条 道路、公園、広場その他の公共の場所において、疾病にかかり、若しくは負傷した犬、猫等の動物又は犬、猫等の動物の死体を発見した者は、速やかに、その所有者が判明しているときは所有者に、その所有者が判明しないときは都道府県知事等に通報するように努めなければならない。
出展:「動物の愛護及び管理に関する法律」
このため、保健所に引取り義務があるわけです。この条文があるため引取り拒否を強化した場合に、故意に怪我をさせて持ち込むケースが増えないか?といったことが環境省の審議会で話し合われていたくらいです。
もし、野良猫が怪我をしている場合は保健所の獣医が手当を行ってくれるので、保健所に引き取っていただきましょう。(これは条文にある通り、通報の義務があるものです)
警察へ拾得物として届ける手もありますが、これもかなり難しいです。
落とし物は、警察に届ける。小学生でも知っていることですが、これは猫にも該当します。遺失物法で言うところの「逸走した家畜」(ペット)として扱われます。
遺失物法の詳しくは割愛させていただきますが、単純な話、落とし物は持ち主がいなければ返せないので、飼い主がいないといけないわけです。
野良猫を拾得物として警察へ持ち込んだ場合、飼い主がいない野良猫なので、警察では遺失物としては扱いません。保護もしません。なので、警察からは保健所へ相談するように案内されると思います。
野良猫の場合、飼い猫のように首輪や飼い主の連絡先が分かるものなども持ち合わせていないので、多くが上記のような対応を取られてしまうと思います。
首輪や飼い主の連絡先が分かるものを持ち合わせていない場合は、血統書付きの誰の目から見ても飼われている猫。と分かるくらいの猫でないと警察では遺失物としては扱ってくれないと思います。
以上になります。昨今では、殺処分ゼロを目指して。などのスローガンを打ち出している自治体も多くあります。このためか保健所でも極力引き取らないようにしているところが多くなりました。また、自治体によって対応が様々でもありますので、行動に移す前に住まいの自治体での対応方法を確認しておく必要があります。