辞書などに書かれていたり、よく言われている「匹」と「頭」の数え分ける目安は、
- ヒトより大きな動物を「頭」、小さな動物を「匹」
- 両腕で抱きかかえられる動物を「匹」、抱きかかえられない動物を「頭」
確かに。猫は「1匹」と数えるけど、ライオンは「1頭」と数えています。しかし、文章やニュースだと猫でも「1頭」と数える場合もあって、数え分ける目安は正しいようで正しくないような気がしてしまいます。
管理人も人と話す時は、猫のこと「いっぴき」「にひき」と数えますが、文章となると時折悩むことがあります。それは、環境省などの公的機関の文書や論文などの資料では、「頭」で数えていますので。
数え分ける目安というのはわかりましたが、どうもしっくりこない。しっくりこない点を様々な視点から少し掘り下げてみました。
▼目次
- 匹の語源は象形文字から
- 「匹敵」という言葉
- 匹の小さいというイメージの裏付け「匹夫」「匹夫の勇」という言葉
- 抱きかかえられるかが目安っていうのをよく考えてみる
- 動物園では、全て「頭」と数える理由
- 飼育頭数、多頭飼いは「頭」が使われる
- 論文、公的機関の文書、ニュースでは「頭」と表現
- 感覚的な話。ペットは「匹」、家畜は「頭」
- 続・感覚的な話。獣(ケモノ)と思えば「匹」とは数えない
- 続・感覚的な話。警察犬・盲導犬は「頭」と数える
- ペットショップの店員さんは、”ひとり” “ふたり” と数えます
- キティちゃんは、猫ではありません
匹の語源は象形文字から
匹という文字の成り立ちは、象形文字の馬の尻尾の形や馬が二頭並ぶ姿から由来していると言われています。(諸説あり)匹という字の用途は、牛や馬などの家畜を数えるのに用いられていました。
馬のお尻のような形にも見えますし、二本の波線から二頭並んでいる姿にも見えるかと思います。
「匹敵」という言葉
「匹敵」という言葉は、同程度、対等の相手などを意味します。
匹という文字は、対をなしているものを表しており、匹敵も対という意味を持ちます。
牛や馬を数えるのに匹を使うのは「一対の尻を持つ動物」という意味合いも込められているわけです。
匹の小さいというイメージの裏付け「匹夫」「匹夫の勇」という言葉
さて、数え方の目安として大きな動物を「頭」、小さな動物を「匹」と言われますが、匹という文字の小さいイメージはどこからきたものなんでしょうか?
「匹夫」「匹夫の勇」という言葉は、中国の三国志に関心がある方なら聞いたことがあると思います。身分卑しく武勇に頼り、知恵の足りない者を「匹夫」「匹夫の勇」と呼ばれることがあります。(呂布が敵に罵られる時など)
「匹夫」という言葉は、春秋戦国時代の話。斉の宣王と孟子との間の外交に関する問答の中で出てくる言葉です。勇を好む王に対して、孟子が答えた言葉の中に『剣を振りかざし怒りにまかせて怒鳴り散らすは、匹夫の勇というもの』がありました。
道理を知らず血気にはやるような行いは、身分が卑しく、取るに足らないほど小さい人間であること。たった一人を相手にするようなものである。
中国の歴史に関心のない方には馴染みがないものかもしれませんが、確かに「小さい」というイメージのある言葉です。
抱きかかえられるかが目安っていうのをよく考えてみる
では、数え方の目安である「抱きかかえられるか」というと実際のところどうなのか?
小さい動物、ねずみ、リス、猫は、「匹」と数えて違和感がありません。
犬は、小型犬のチワワ、ダックスフンドは、「匹」大型犬のシェパードは、「頭」。大型犬は匹より頭の方が自然だと思います。
ネコ科の少し大きな動物では、チーターはどうでしょう?抱きかかえられるとは思えませんが、やはり「頭」と数えていると思います。
ライオン、トラなどは、もちろん「頭」ですね。
抱きかかえられるかって話なら、ライオンやトラの赤ちゃんだったらどうでしょうか?考えてみると「1匹」「2匹」と呼んでいます。そして大きくなると「1頭」「2頭」と数え方が変わるものです。
しかし、故事・ことわざになると怪しいものです。
『猫の子一匹いない』これはその通り。
『鯨一匹捕れば七浦潤う』(くじらいっぴきとればななうらうるおう)鯨が一匹・・・妙です。でも、いっぽんでもにんじん♪の歌だと「八頭でも♪くじら」です。
『一匹狼』(いっぴきおおかみ)狼は、抱きかかえられますかね?
故事・ことわざとなるとその時代、言葉の背景などにより案外適当なのかもしれません。
動物園では、全て「頭」と数える理由
動物園では、全ての動物が「頭」と数えるようです。
「一個体に頭が必ず一つあるから」
ということのようですが、実際のところ動物によって数え方を変えるのも大変だから。という理由も大きそうです。
また、展示という意味では、「点」や「個」と数える場合もあります。
飼育頭数、多頭飼いは「頭」が使われる
犬猫のペットの飼育の数という意味では「飼育頭数」、「多頭飼い」が使われます。匹ではなく頭が使われますが、匹の漢字をあてると、飼育匹数、多匹飼い。やはり「頭」を使うのが一般的であり、違和感がないものです。
しかし、多頭飼いの方は、多頭=複数の頭 という意味でもあるわけで、本来は正しくないのかもしれません。
これらは、どこぞの誰べえが使い始めていつの間にか定着してしまったものではないかと推測しています。
論文、公的機関の文書、ニュースでは「頭」と表現
飼育頭数、多頭飼いという文言は、日常的な会話に出てくるというよりは、文章で見かけることの方が多いものです。
論文、公的機関の文書やニュースなど、お堅い場面では猫を数えるにしても「頭」が使われます。
英語の数え方「head」の翻訳が「頭」と考えると、論文や公的文書など公に公表する場合は、「頭」を使うということなのでしょう。
感覚的な話。ペットは「匹」、家畜は「頭」
ペットを1頭、2頭と数える方はいないのでは?
そう考えると「匹」には少し愛情がこめられているのかもしれません。小さいもの=可愛らしさがどことなく私達の中であるのかもしれません。
一方、家畜は1匹、2匹と数えることは少ないと思います。子豚の家畜がいたとして、1匹というよりは、1頭と数える畜産家が多そうです。(一般の方は、子豚は一匹、二匹と数えると思います)
続・感覚的な話。獣(ケモノ)と思えば「匹」とは数えない
似たような話で、獣(ケモノ)のことも「匹」とは数えないでしょう。
獣は、ケモノと読みますが、ケダモノとも読めます。毛だ物。毛が生えてないツルンとした動物をケダモノとは呼びません。
ケダモノとなると野獣のような粗暴な相手に投げかける言葉であり、いいイメージはないものです。
やはり、獣(ケモノ)のことは、「匹」とは数えないということです。
続・感覚的な話。警察犬・盲導犬は「頭」と数える
では、警察犬・救助犬・盲導犬になると、1頭、2頭と数えます。
家畜は、「頭」と数えますが、警察犬や盲導犬など仕事をする動物も「頭」と数えるのが自然です。
ペットショップの店員さんは、”ひとり” “ふたり” と数えます
数え方は様々あるものですが、ペット業界でも特殊な数え方があるものです。
ペットは家族。
そんなお客様に、1頭、2頭 とワンちゃんのことを呼んでしまったら、飼い主の機嫌を損なうでしょう。ネコちゃんも、1匹、2匹 と呼ぶのも適切ではないかもしれません。
ペットは家族と考えて「ひとり」「ふたり」と数えてあげるのが正解です。
ペットショップでは、この数え方が最も正しいものだと(勝手に)考えています。
キティちゃんは、猫ではありません
最後にキティちゃんの数え方を。
キティちゃんは、猫っぽい姿をしていますが、猫ではありません。
キティちゃんは、キティちゃん。
お友達のこともフィーフィー、ティッピー、トレーシーは、3にんなんです。
女のコ、男のコ、なんにん。
匹や頭なんて言いませんもの。
以上、大きさだけで匹と頭の使い分けができるようでできないところが日本語の難しいところですね。