ペットオークションの問題点と考察

 ペットオークションは、ペットショップの展示販売の在り方やパピーミルと呼ばれる子犬の大量生産の問題が取り上げられる際に、その温床とも考えられる方もいます。
しかし、現状は犬猫の流通の半分がペットオークションを経由していると言われており、国内における犬猫の卸売り方法として主流です。

ペットオークション自体は、古くは商売が盛んになった江戸時代に遡るとも言われますが、犬猫に関して言えば競りあっせん業が動物取扱業に追加された平成24年以降に実態が明るみになりました。現在は全国で20箇所以上の会場があり、大手ペットオークションでは週に1000頭を超える数の犬猫が取引されております。
これだけ多くの数を扱っているため問題は多かれ少なかれ必ずあると思いますが、昨今は悪質な繁殖業者の存在や流通過程の死亡数、感染症の蔓延、売れ残りの扱いなど問題視される声が大きくなってきていると思います。

そもそも命を競りにかけること自体が批判を呼んでいるとの見方もありますが、本記事ではペットオークションにおける問題点の整理と現状の分析や考察を行いました。

▼目次

  1. トレーサビリティ(生産出荷履歴追跡)が不十分
  2. 生年月日の偽装疑惑。情報に確実性がない
  3. ペットオークション主催者が動物愛護法違反者の通報を行っていない
  4. 飼養管理基準を満たせていないのでは?
  5. 遺棄と引取り屋の問題
  6. 動物を競りにかける行為そのもの

トレーサビリティ(生産出荷履歴追跡)が不十分

トレーサビリティとは、対象の生産者、生産場所、出生日を追跡できる情報のことを指します。ペットオークション経由の犬猫は、トレーサビリティに問題があるとかなり昔から言われておりました。

とはいえ、生産者、生産場所、出生日の情報をペットショップの犬猫が確認できないわけではありません。
ペットを販売する場合、消費者に対する情報提供が必要とされています(動物愛護管理法 第二十一条)。その中で繁殖者の氏名(または名称)、登録番号(または所在地)、生年月日も含まれています。このため流通ルートを確認するだけなら可能だと思われます。

おそらく生産者、生産場所、出生日の三つの情報に限れば、飼い主視点で考えると出生日くらいしか有益な情報はないでしょう。生産者、生産場所は何か問題が発生した場合に必要な情報になることもあるかもしれませんが、普通にペットと生活する上では意識することはない情報だと思います。
では飼い主にどんな情報が有益かを考えると、両親の年齢や健康状態、育った環境などだと思います。

例えば、両親に遺伝的疾患があれば購入時に健康体でもその後のリスクの可能性を考えることができます。
また、両親の気性が荒いなど性格を知ることができれば、自分達の手に負えるかどうか判断する機会を得られます。

これらの情報は、ブリーダーから飼い主が直接購入したり、ペットショップがブリーダーを通じて確認できる環境であれば入手可能かもしれません。(どこまでブリーダーが情報提供するかは別として)
しかし、ペットオークション経由場合、ブリーダー(繁殖業者)とペットショップ(販売業者)は直接接触しない仕組みになるためブラックボックスになってしまいます。こうなってしまうと両親のことも育ってきた環境も兄妹がいるかも知ることができずにペットを購入することになってしまいます。

生年月日の偽装疑惑。情報に確実性がない

トレーサビリティについてもう一つ問題点は情報の不確実性でしょう。

先日ニュース記事でも取り上げられておりましたが、全国のペットオークションの17会場に自治体が立入検査を行いました。この他、全国100以上の繁殖業者に対しても出生日や飼育状況を記録した台帳の提供を求めており、子犬・子猫の出生日偽装の実態を調査しているとのことです。

生年月日をなぜ偽装するかと言えば、高く売れるから(と早く売れば飼育コストも抑えられるから)。子犬や子猫は小さければ小さいほど高く売れます。このため高く売りたい悪質な繁殖業者や販売業者は、生年月日の偽装をして売りに出します。本来(現行法では)8週齢規制があり出生後56日を経過しない動物は引渡し又は展示ができません。(日本犬6種(柴犬、秋田犬、紀州犬、甲斐犬、北海道犬、四国犬)は、7週(出生後49日)の規制)

仮に生年月日の偽装が横行していた場合、なぜそのような事態に陥るかと言えば繁殖業者の自己申告制であるためです。第三者の出生証明などがなく悪質な業者であればいくらでも偽装できるというのが問題視されています。
この問題はこれまでも議論され続けており、対策として獣医師による出生証明を義務付けるなどが検討されてきましたが対応はまだ先の話になるものと思われます。

もう一つ、情報の確実性を考えると獣医師の出生証明だけで十分かと言えばそうではありません。獣医師とグルになればいくらでも偽れるという話です。確実性を担保するなら第三者の公正な機関による証明が必要になると思います。(もしくは確実性を証明できる手段)

ペットオークション主催者が動物愛護法違反者の通報を行っていない

現在多くのペットオークション会場では、獣医師が常駐し生体のチェックやマイクロチップの挿入などの対応が行われます。また、パルボウイルスや遺伝子検査も行われるため健康面の担保や安心して取引ができる体制も整えています。

しかし、悪質な業者も中には存在し大量繁殖させた中の健康な生体を選んでオークションに持ち込んで売りさばくというケースは少なからずあり、代表的な例ではアニマル桃太郎の事件※がありました。

※2021年11月、長野県松本市で約1000頭もの犬を劣悪な環境で飼育・虐待したとしてオーナーらが逮捕。

ペットオークション会場でも獣医師の生体チェックが行われており、問題が見られた生体は取引はされずに業者に返却という形を取っているのはわかります。また、度重ねて問題のある生体の出品が続いた場合、ペットオークション側は退会してもらうなどの措置を取っていると思われます。

では、獣医師の生体チェックによって衛生状態や健康状態などから劣悪環境での飼育が疑われた場合、動物虐待の疑いがあるとして警察に通報しているかと言えばそのような話は聞いたことがありません。当然、ペットオークションの主催者に法律で通報義務が設けられていることはないためあくまで任意ということでしょう。
アニマル桃太郎の件でも問題が明らかになったきっかけは、ペットオークション側の告発ではありません。地元の動物病院からの告発によるものです。問題を把握されていたか定かではありませんが、ペットオークション主催者が問題ある業者を積極的に自治体や警察に相談、通報が行われていないのはたしかだと思います。

もし、ペットオークションの獣医師が衛生状態や健康状態に問題あると感じ動物虐待が疑われた場合、自治体や警察に相談、報告を行えば問題が深刻になる前に止められるケースが少なからずある気がしてなりません。

飼養管理基準を満たせていないのでは?

ペットオークションの会場の犬猫は、多くの場合ダンボール箱に入れられて大人しくしています。悪く言えば狭い場所に閉じ込められています。
ただ、ダンボールにも利点があります。

  • 使い回すことがないので衛生面で心配が少ない。
  • 犬猫同士を分離できるため接触機会を減らし、感染症予防対策になる。
  • 暗所であるため犬猫が大人しくいられる。
  • オークション会場内の移動がしやすい。(出し入れが容易で犬猫のストレス軽減にもなる)

大きな会場では一度の開催で1000頭以上扱う場所もあります。安心して取引が行えるように工夫をされた結果が今のダンボールでの保管という形式なのかもしれません。

しかし、ペットオークションの運営方法としてダンボールが適しているとしても犬猫の扱い方に問題がないのかは人によっては疑問があるでしょう。

例えば、飼養管理基準を満たしているのか?

飼養管理基準は、「第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令」(飼養管理基準に関する省令)が正式名称で、令和3年6月1日から施行されております。
この基準の中には、ケージ等の基準、従業員の員数、飼養環境の管理、動物の疾病等に係る措置、動物の展示又は輸送の方法、繁殖できる回数、繁殖の方法等などが数値基準を明確にした上で規定されています。
このうちケージ等の基準であれば以下のようになります。

犬猫の飼養管理基準
画像は、埼玉県HP、新たな犬猫の飼養管理基準についての資料より運動スペース分離型の基準部分を引用

イメージに取り上げられている犬猫のサイズからすると小型の部類のものを例とされていると思います。これをダンボールに当てはめるとサイズは犬が160サイズ、ネコが180サイズ必要です。特に猫は高さが必要なためかなりスペースを取られます。

では、ペットオークション会場で利用されているダンボールの大きさが飼養管理基準を満たせているかと言えば、まず満たせていないでしょう。ペットオークションのHPの画像やオークション会場の動画を見る限りではもう一回り小さいサイズのダンボールに見受けられます。(チワワなどの小型犬で基準を満たしているものもあるとは思います)
このことがなぜ問題視されないかと言えば、ペットオークションの犬猫の保管が一時的な保管と考えられているためです。ケージ等の基準は、一時的に保管する場合等の特別な事情がある場合にあっては、この限りではない。とされています。

飼養管理基準としては上記の理由から問題ありません。しかし、ケージの大きさは動物が日常的な動作を容易に行うための十分な広さを考え決めた基準だと思います。ペットオークションの競りが終わるまでの一時的な時間とは言え、立ち上がる、横たわる、向きを変えるなど日常的な動作が困難な空間であるのは犬猫にとっては苦痛を伴うことかもしれません。

遺棄と引取り屋の問題

ペットオークションの売れ残りや販売に適さなかった個体の扱いも問題視されています。

動物の遺棄と引取り屋の利用をする繁殖業者はどちらも悪質だと思いますが、引取り屋を利用する場合引取り費用がかかる為、本当に悪質な業者はお金をかけずに遺棄してしまうのでより悪質だと考えられています。
ただし、多くの繁殖業者はコンプライアンスを守って営業を行っていると思います。少なくとも新聞等のメディアで動物の遺棄の問題が乱発するようなことはないのは事実だと思います。

また、動物の遺棄といった悪質なケースでなくとも犬舎や猫舎で売れ残りを飼い続けることも良い事か悪い事かはわかりません。必要最低限の飼育環境と医療で死ぬまで飼われ続けるのは犬猫にとって幸せなことであるかは全く分からないからです。

動物を競りにかける行為そのもの

ペットオークション反対の方は、命ある動物を競りにかけるべきではないと考える方も多いと思います。動物の大量生産や流通過程で亡くなる数が問題なのではなく、倫理観の問題という話です。

競りはダメ。

犬猫を壇上に並べ、参加者が札を挙げて値段をつけていくことがダメなのでしょうか?
魚の競り市やサラブレッドの競売も同じような形式で値段を付けられ買われていきますが魚や馬もダメですか?
それとも良し悪しの判断は行末の違いで決められているのでしょうか?馬は使役され、魚は捕食され、犬猫は愛玩される違いはありますが。

競りは、人がモノの売買を効率化するための仕組みです。
小売業者が繁殖業者を一件一件回って買い集めていたら効率が悪いです。もちろん、ペットオークション級の大規模繁殖場が存在していれば必要なかった仕組みかもしれませんが、繁殖業者が何十種類の犬種や猫種を扱っていることはありません。血統種は犬種や猫種を絞ってブリーディングして卸しています。たくさんのブリーダーを一堂に介して売買していった方が効率的というわけです。

同じような話はペットショップにも言えます。展示販売をやめろという声はありますが、もしやめることになったらブリーダーをいちいち訪ねて見て回るのでしょうか?それとも映像を見てなんとなく判断して気に入った子がいれば見に行ってみるということになるのでしょうか?
ペットショップを利用した飼い主はお店にディスプレイされている犬猫と値段を見て買いました。競りのように札を挙げて値段をつけたわけではありませんが似たようなものじゃありませんか?

どちらも今のところ合法ですが、ペットオークションがダメだという方は一様にペットショップの売買もダメだということなのかもしれません。

動物の扱いにおける理不尽さや不条理さを嘆くものだと思いますが、ペットオークションの仕組み自体をなくすには代替となる仕組みを用意する必要があります。それができなければ混乱し無秩序になりトラブルの温床になるだけでしょう。それは動物達にとって競りにかけられていた頃より悪いものに成り下がっているかもしれません。

動物の尊厳や幸せに寄り添うか、人間の利益や愛玩のためにこれまで通り扱うかは、とても難しい問題だと思います。

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のらねこらむプロフィール

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のらねこらむ管理人

2017年4月に新居へ引っ越した直後から野良猫に悩まされる。
日々、野良猫との領地争いを繰り広げています。

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