ペット業界の現状について以下の項目で調べてみました。現状分析と合わせて今後の見通しを記載いたしましたのでご参考になれば幸いです。
▼目次
- 全国の犬猫飼育頭数
- ペット業界の市場規模
- ペット関連サービスの分類
- ペット関連会社・上場企業
- 上場企業の過去5年の株価推移
- ペットショップの動向
- ペットフード・ペット用品の動向
- ブリーダーと改正動物愛護法
全国の犬猫飼育頭数
全国の犬猫飼育頭数の統計は、ペットフード協会が公表されている資料で確認できます。
全国犬猫飼育実態調査https://petfood.or.jp/data/index.html
上記、主要指標サマリーから犬猫の飼育頭数の推移を抜粋すると以下の通りです。
犬の飼育頭数は少しずつ減ってきており、猫の飼育頭数はおおむね横ばいの推移です。
飼育率は飼育頭数の少ない犬の方が高くなっていますが、犬は一頭飼いが多く、猫は複数飼われる世帯が多いことで飼育率は逆転しています。また、直近の2022年を見ると犬:9.69%、猫:8.63%とあり、合計で18.32%。おおまかに5世帯のうち1世帯のご家庭で犬猫のいずれかを飼育されていると考えられます。
増減に関しては、10年で見ると微減、5年で見ると横ばい。コロナ禍でペットの飼育が増えたといったニュースも見受けられましたが、2021年の猫の飼育頭数の増加に見られるところだと思います。
今後の見通しとしては、日本の人口減、核家族化が十分に進んだ現状、人口の密集と集合住宅化、これらを鑑みるに犬猫の飼育はこれから増えていく環境条件ではないかもしれません。コロナ禍など一時的な需用で増加するケースはあるかもしれませんが、減少傾向であると思います。ただし、日本経済の浮揚や犬猫の寿命の延伸に大きな変化があれば違った結果になることも十分に考えられます。
なお、拡大推計のため調査対象を絞ったサンプリング調査の結果から、全国の人口に基づき重みを付けてカウントし、おおよその全国の犬猫飼育頭数を算出されています。誤差が生じている可能性は十分にありますが、おおよその数値として広く知られた結果になります。
ペット業界の市場規模
株式会社矢野経済研究所の調査によると、2021年度のペット業界の市場規模は1兆7,187億円であり、毎年2%前後の成長率を見せています。
矢野経済研究所「ペットビジネスに関する調査を実施(2022年)」https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3053
前述、犬猫の飼育頭数が微減、横ばいの状況を考えるとペット業界の市場規模の拡大傾向に疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。まず、上記ペット業界の市場規模1兆7,187億円(2021年)は、犬猫以外も含む全てのペットが対象となります。このため犬猫以外のペットが増加している可能性があります。加えて、ペットとの関わり合いの変化(室内飼いの増加や愛玩化)、平均寿命の延伸があります。ペットとの触れ合う時間が増えたり、ペットへの健康意識が高まることでペット用品や高価格帯のペットフードの需用が増えることにつながると思われます。
また、昨今のインフレ状況、あらゆる物の値段が上がっているのはペット関連サービスも例外ではないでしょう。単純な話、全ての物やサービスの値段が2%高くなれば、市場規模が2%伸びるということです。
以上のことからペット業界の市場規模は、ゆるやかな伸長傾向にあるのが分かると思います。
ペット関連サービスの分類
前述「ペットビジネスに関する調査を実施(2022年)」では、セグメントとして以下の区分けがありました。
- ペットフード
- ペット用品
- 生体+サービス分野
多くはこれらに集約されると思いますが、飼い主視点で言えばペット医療も加えられると思います。
なお、ペット用品はケア用品、生活用品に分けられます。サービス分野は、トリミング、ペットホテル、ペットのしつけ・訓練、猫カフェ、レンタルペット、ペット関連の専門学校等があげられます。
この他、関連サービスも含めると雑誌等のメディア、保険、葬儀、賃貸住宅(ペット可)などが考えられます。
ペット関連会社・上場企業
東証に上場している企業のリストが以下の通り。※国内企業に限ります。※全ての銘柄ではありません。一部を抽出。※ペット関連以外の事業を行う企業も含まれます。(上場企業でペット専業の企業はほぼありません)
企業名 | 売上高 | 事業 |
---|---|---|
ユニ・チャーム | 8,980億2,200万 | ペットケア |
日清製粉グループ本社 | 7,986億8,100万 | ペットフード |
住友ファーマ | 5,555億4400万 | ペット医療 |
コーナン商事 | 4,390億2400万 | ペット用品 |
フィード・ワン | 3,079億1,100万 | ペットフード |
サーラコーポレーション | 2,348億4,800万 | ペットケア・ペットフード |
中部飼料 | 2,434億7600万 | ペットフード |
エコートレーディング | 969億5,500万 | ペットフード・ペット用品 |
三井松島ホールディングス | 800億1,500万 | ペットフード |
はごろもフーズ | 704億5,200万 | ペットフード |
アニコム ホールディングス | 565億2,800万 | ペット保険 |
三栄コーポレーション | 386億5,400万 | ペット用品 |
瑞光 | 265億500万 | ペット用品 |
ペットゴー | 100億2,500万 | ペットケア |
日本動物高度医療センター | 38億7,200万 | ペット医療 |
イオレ | 35億6400万 | ペット用品 |
ペットフードに関しては外資が多く、ペディグリーやロイヤルカナンのMars(アメリカ)、ピュリナのネスレ(スイス)などがあります。また、非上場企業では、ドギーマンハヤシ、いなばペットフードもよく知られる企業だと思います。
ペットショップに関しては、イオンペット株式会社、有限会社Coo&Riku、ワンラブ、株式会社AHB(ペットプラス)などがありますが、いずれも非上場企業です。イオンペット株式会社については、社名からも分かるようにイオンの連結子会社であり、サービス・専門店事業のセグメント内に含まれます。
上場企業の過去5年の株価推移(2023年6月9日時点)
ペット業界の市場規模は拡大を続けておりますが、株価に関しては企業によって強弱が見られます。
ユニ・チャーム
日清製粉グループ本社
住友ファーマ
コーナン商事
フィード・ワン
サーラコーポレーション
中部飼料
エコートレーディング
三井松島ホールディングス
はごろもフーズ
アニコム ホールディングス
三栄コーポレーション
瑞光
ペットゴー
日本動物高度医療センター
イオレ
2020年3月は、コロナショックがあったためほとんどの銘柄で大きく下げています。その後、株式市場では数ヵ月も経たないうちに株価は急回復を見せました。また、コロナ特需と呼ばれるようなコロナが追い風になった業界は株高の様相を見せたところもあります。ペット業界については、コロナ特需と呼べる恩恵は企業によってまちまちだと思います。
市場規模は、伸長傾向にあるのは確かかもしれませんが、毎年2%前後の成長率はかなり緩やかな成長とも言えるため、業界全体で大きく株高を見せるといったことはないのだと思います。
どこの業界も同じようなものかもしれませんが、国内が頭打ちであれば国外で商売をすることになると思います。特に寡占化が進んでしまった事業で拡大を目指すなら海外での商売を視野に入れるしかないのだと思います。
ペットショップの動向
動物愛護への意識の高まりはペットショップには(利益だけを考えれば)逆風です。2019年6月施行の改正動物愛護法では、出生後56日を過ぎるまでは犬猫の生体販売の原則禁止、従業員一人当たりの飼育数の規定、ケージの大きさの基準設定、2022年6月からマイクロチップの装着義務化、法令違反の罰則強化などの法改正がありました。いずれも犬猫にかかる経費の増加につながるものであり、生体販売のビジネス的には利益率を圧迫するものと思われます。
また、昨今の犬猫の飼育頭数は微減、横ばいの状況ではありますが、ペットショップでの犬猫販売に問題視する声が増えることは販売頭数の減少につながるかもしれません。※欧米の一部ではペットショップでの販売禁止の法案が成立したり、人目につきやすい歩道に面した生体展示を禁ずる地域があります。
ペットショップでの販売の増減について足元で大きな変化があるかは、ペットフード協会公表の全国犬猫飼育実態調査よりペット入手時の情報源・入手先の資料で見ることができます。犬猫の入手時の情報源について「ペットショップ」の項目を抜粋し過去5年分をまとめると以下のようになります。
犬猫入手時の情報源「ペットショップ」の割合
2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | |
---|---|---|---|---|---|
犬 | 53.4% | 52.6% | 56.2% | 52.7% | 51.8% |
猫 | 22.3% | 22.1% | 22.4% | 22.7% | 21.6% |
過去5年で見るとほとんど変化はありません。飼育頭数が微減、横ばいの状況から鑑みると生体販売数もほぼ変わらぬ頭数で推移していると考えられます。
現状は大きな変化が見られないかもしれませんが、ペットショップ、ブリーダーを含め適切な環境下での飼育、適切な医療、売れ残ったペットの扱いなど今後もより厳格な取扱いを求められていくと思われます。※大手ペットショップでは、ペットショップの経営の他、動物病院、ペットホテル、グルーミングサービス、ペット用品の販売などサービス全般をカバーする事業をすでに展開していたりします。
ペットフード・ペット用品の動向
ペットフード、ペット用品の需要も年々伸びを見せています。直近ではコロナ禍で新しくペットを飼う方が増えたり、在宅ワーク等でペットと触れ合う時間が増えました。人がペットと接する時間が増えれば、ペットにおやつを与える場面やおもちゃで一緒に遊ぶ時間が増えます。当然、ペットフードやペット用品の需要が伸びます。また、動物愛護の意識の高まりやペットを家族と考える飼い主が増えれば、プレミアムフードと呼ばれる健康志向のペットフードの需要も拡大します。高価格帯の商品は利益率も高いため各社力を入れて新製品の開発に取り組んでいます。
一方、コロナが落ち着き在宅ワークが解除されるなどペットと接する時間が減ると需用は落ち込むかもしれません。ただし、自動給餌機など一部の商品の需要が伸びることも考えられます。
なお、ペット用品は国内メーカーが多くを占めますが、ペットフードは外資が強いです。アメリカのマース、スイスのネスレはロイヤルカナンやピュリナワンなどの商品が知られるところでしょう。国内メーカーでは、ユニ・チャームの売上高が最も多く、愛犬元気やベストバランスなどのドッグフードは実際に使われたり店頭で見たことがある方もいらっしゃるでしょう。この他、食品メーカーの参入も多く、はごろもフーズ、マルハニチロ、いなば食品、日清製粉など見聞きするメーカーのペットフードも販売されております。
ブリーダーと改正動物愛護法
2021年6月に完全施行予定だった「第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令」この省令の施行が、2024年6月に先送りされたことはご存知の方も多いと思います。
本省令に対し、ペット業界で反対意見が出ていた大きな点は、飼育者一人当たりの飼育頭数。
- 繁殖用の犬は15頭、猫は25頭まで
- 販売用の犬は20頭、猫は30頭まで
この内容だけ見ると飼育者一人で行き届く範囲は妥当にも思えます。しかし「13万頭の犬猫が行き場を失う」のような見出しで問題視されました。また、この他にも飼育ケージのサイズの規定や繁殖制限が定められるなど動物の管理方法が厳格になりました。
反対意見が出るからには改正動物愛護法の基準を満たせていないわけです。13万頭という数字を素直にとらえれば、基準を満たさない管理方法で飼育されている犬猫が13万頭いるということです。では、ペット業界からの反対意見はどのようなものがあったでしょうか。例えばネットニュースで見られる意見としては以下のようなものがあります。
「短期間で沢山の犬や猫の譲渡先を見つけるのは無理」「犬猫の殺処分が増える」「従業員が雇えない」「経営が成り立たない」「業者が廃業に追い込まれる」
おそらく、動物愛護家の方からすれば発狂ものの語録でしょう。施行案は動物を適切に管理するための改正内容です。獣医師や愛護家、協会等の関係者を交えて検討を重ねた結果の基準とも言えます。現実的な話、繁殖用の猫25頭を一人で面倒を見るのもなかなか厳しいのではないでしょうか?仮に25頭の繁殖用の猫から30頭の子猫が産まれたとします。一人の飼育者が親猫25頭、産まれたての子猫30頭の面倒をみきれるとは到底思えないのですが。(もっと言うなら規制案では親犬・親猫のいる子犬・子猫はカウント対象外です)ペット業界からは規制が厳しすぎるという意見が上がっておりますが、施行案の見直しは難しいのではと思ってしまいます。
第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令は、2024年6月に完全施行予定でありますがそれまでに基準を満たすことができなければ廃業を余儀なくされるブリーダーが増えることが考えられます。
以上になります。昨今、動物愛護やペットに対する接し方について意識の高まりを感じられる方も多いと思いますが、法改正を含めペット業界も動物の権利に配慮した対応がより必要になってくるものと思われます。