上記のグラフの出展元は、名古屋市の「のら猫に対する取り組みについて」で紹介されているのら猫に関する統計の推移です。以下で詳しく見ることができます。
名古屋市「のら猫に対する取り組みについて」https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/page/0000130453.html
グラフの下の表は、路上で死亡した猫の頭数を抜粋しておりますが、直近の令和二年度を見てみると「5,458」頭とあり、一日あたりに換算すると約15頭。環境省が公表されている殺処分数と比べるといかに多いかがわかります。
→令和二年度(2020年4月1日~2021年3月31日)の名古屋市の猫の殺処分数は「176」頭
名古屋市のように地域によっては、殺処分の何十倍もの猫が路上死をしていることを考えると、大きな問題と言えると思います。
また、路上死は交通事故によるものが多いため、ロードキルと呼ばれたりもしますが、ロードキルは東北・北海道ではシカとの衝突事故の増加が見られ、九州・沖縄では希少動物の交通事故死が保護をしていく上での課題となっています。
動物の路上死(ロードキル)の問題について、公表されているロードキル件数を踏まえながら、殺処分数、不妊去勢手術数との関連性、ロードキル対策の現状についてまとめました。
※動物全般を含みますが、考察部分は猫中心の内容です。
▼目次
- ロードキル件数の推移
- 猫のロードキル件数と殺処分数の相関
- 猫のロードキル件数と不妊去勢手術数の相関と苦情数(さいたま市)
- 継続した不妊去勢手術で猫の路上死に減少が見られたケース
- ロードキルに遭う動物の種類
- ロードキルが多く発生する時期
- ロードキルが多く発生する場所(地形)の考察
- ロードキルを減らす対策
- スマホアプリによるロードキルデータ収集の問題点
- 動物との衝突事故を未然に防ぐには?
- 動物と衝突事故を起こした時の対応
- 動物との衝突事故は自損(単独)、車両保険の適用可
ロードキル件数の推移
ロードキル件数は、以下の資料を参考に記載しました。
- 高速道路各社の落下物処理件数(国土交通省)の資料より2016年~2020年の5年分のロードキル件数をグラフ化したもの
- 全国猫のロードキル調査(人と動物の共生センター)の資料よりグラフを引用したもの
①高速道路各社の落下物処理件数(国土交通省)
2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | |
---|---|---|---|---|---|
東日本高速 | 20,400 | 19,600 | 19,700 | 20,600 | 22,400 |
中日本高速 | 6,900 | 6,700 | 6,300 | 6,700 | 7,300 |
西日本高速 | 20,500 | 19,100 | 19,600 | 19,500 | 21,300 |
本四高速 | 1,200 | 1,100 | 1,100 | 1,300 | 1,100 |
首都高速 | 500 | 400 | 300 | 400 | 500 |
合計 | 49,500 | 46,900 | 47,000 | 48,500 | 52,600 |
出展元:国土交通省「高速道路会社の落下物処理件数(令和2年度)」※過去資料も参照https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/ijikanri/pdf/rakkabutu_nexco.pdf
近年やや増加傾向。東日本高速、西日本高速で件数の増加が見られました。
②全国猫のロードキル調査(人と動物の共生センター)
出展元:人と動物の共生センター「全国猫のロードキル調査(2019)『28万9,572頭』が路上で死亡(推計)」https://human-animal.jp/activity/survey/4189.html
全国の政令指定都市・中核市の動物愛護管理担当部局(80都市)のうち、有効回答(2015年~2019年のすべての年度を把握)の41都市分のグラフ。
全国猫のロードキル調査の数値は、あくまで推計値
人と動物の共生センターによる2019年の調査結果では、全国で『28万9,572頭』が路上で死亡(推計)とのことでした。2019年の全国の猫の殺処分数が27,107頭でしたので、10倍を超える数値が出ています。
推計値については、有効回答を得られた41都市の人口10万人あたり遺体回収数を求め、平均化し(229.4頭※41都市平均)、さらに19年4月時点の日本の総人口(1億2623万人)で換算したものが『28万9,572頭』のようです。
推計値の換算方法は、概ね理解ができると思います。また、自治体にアンケート調査を行った遺体回収数になるため信憑性もあると思います。
では、自治体が回答した遺体回収数について、以下の数値を見てください。
※2017年に行われた全国猫のロードキル調査結果。各自治体の遺体回収数一覧より抜粋。https://human-animal.jp/wp-content/uploads/2019/07/kaihou12.pdf
倉敷市の遺体回収数がかなり少ないのがわかります。お隣の兵庫県の西宮市とほぼ同じ人口であるにも関わらず、10分1にも満たしません。もちろん、倉敷市では猫が野外で亡くなることは滅多にないのであれば問題はありませんが、さすがにそれはないでしょう。もし、倉敷市で猫が野外で亡くなることがほぼない日常であるなら、他の自治体にもどのような施策によるものなのか周知してもらいたいと思ってしまいます。
このような極端な数値は、他にも鹿児島市で見られますが、おそらく自治体ではほとんど回収を行っていないのでしょう。あくまで、自治体が遺体を回収して把握している数値なので、自治体が回収しなければ遺体回収数には上がってきません。住民が各自で処理したり受入施設に搬入したり、公共施設の場合は各施設の管理者が対応することになっていれば、自治体は回収しなくすみます。(道路上も同じです。国道、県道、市道の管理者が対応すれば、一部を除いて自治体での回収の必要がなくなります)他にも、動物の遺体回収を自治体に依頼する場合、引取り手数料を取られることがあれば、各自で処理したり受入施設に搬入される方が少なからずおられるかもしれません。
動物の遺体回収方法は、自治体によって対応が様々です。基本的に自治体で回収してくれる地域と住民や施設管理者が対応しなければいけない地域では、遺体回収数に大きな差が出てくるでしょう。
全国猫のロードキル調査の数値はあくまで推計値であり、推計値の確度はそこまで高くない可能性があることを念頭に見た方がいいと思います。(異常値として除外されている可能性もありますが)
猫のロードキル件数と殺処分数の相関
全国猫のロードキル調査の件数(41都市分)と環境省が公表している全国の殺処分数を折れ線グラフで表したものです。
猫 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 |
---|---|---|---|---|---|
遺体回収数(41都市) | 68,553 | 63,028 | 59,296 | 56,584 | 53,736 |
殺処分数(全国) | 67,091 | 45,574 | 34,854 | 30,757 | 27,107 |
路上死、殺処分数どちらも右肩下がりで減少傾向。特に殺処分に関しては、ここ数年で殺処分ゼロを掲げる自治体も増えてきていますので、保健所で極力引き取らない、引き取っても譲渡にまわすなどの対応が取られています。
猫のロードキル件数と不妊去勢手術数の相関と苦情数(さいたま市)
飼い主のいない猫の対策として、不妊去勢手術を行い繁殖を抑制する方法を取られる自治体が増えてきました。(地域猫活動やTNR活動の推進と補助金による助成)不妊去勢手術を推進する自治体では、手術費の一部を補助金(税金)で賄い、10年以上続けてこられている所もあるくらいです。
しかし、少なからず税金が投入されている環境対策にも関わらず、繁殖抑制効果がどの程度得られているか、飼い主のいない猫の生息数がどの程度減ってきているか、検証されている自治体は少ないと思います。
公表されている数値から検証が出来る程のものは、残念ながらありませんが、以下に埼玉県さいたま市における猫の遺体回収数と飼い主のいない猫の不妊去勢手術費事業の手術頭数を元にグラフ化してみました。
※猫の遺体回収数は、全国猫のロードキル調査(2017)に掲載のある2013年~2017年分。※不妊去勢手術頭数は、2004年~2017年の実績。(グラフ上は、累計値で表記のため右肩上がりになります)
さいたま市では、飼い主のいない猫の不妊去勢手術費事業における手術頭数が、2004年~2017年の間で7,709頭に上ります。また、令和に入っても継続して行われており、毎年900頭前後の手術が行われております。
上記グラフでは、不妊去勢手術頭数が年々増えるにつれて、遺体回収数が減少するようにも見えます。しかし、毎年の遺体回収数の多さと限られた不妊去勢手術の頭数から考えると繁殖抑制した結果がどこまで影響しているかは疑問が残るところです。
では、別の観点からも確認してみます。
猫の数が減れば猫に関する苦情や相談件数も減ってくると仮定すると、さいたま市に寄せられた猫に関する相談も減ってきているかもしれません。不妊去勢の手術費助成事業を十数年続けており、遺体回収数でも減少が見られます。この結果を受けて相談件数はどのような推移を見せているのでしょうか。以下は、さいたま市動物愛護ふれあいセンターが公表しているさいたま市の「ねこに関する相談件数」になります。
さいたま市 ねこに関する相談件数
年度 | 件数 |
---|---|
2006 | 1,652 |
2007 | 1,728 |
2008 | 1,640 |
2009 | 1,240 |
2010 | 1,742 |
2011 | 2,063 |
2012 | 2,447 |
2013 | 2,656 |
2014 | 3,470 |
2015 | 4,198 |
2016 | 4,717 |
2017 | 4,224 |
2018 | 4,076 |
2019 | 2,571 |
2020 | 2,342 |
直近の2019、2020年こそ減少していますが、2014-2018年までは10年前と比べて倍以上の件数で推移しております。かなり増えてしまったというのが実態でしょう。2019年に激減している理由は定かではありませんが、改正動物愛護法(2019年6月公布)による自治体や保健所での対応の変化、コロナ禍による行動様式の変化があったのかもしれません。
こうした猫の苦情や相談件数の推移は、冒頭の名古屋市でも件数の増加は見られないにしろ、横ばいで推移している地域もあるようです。
いずれにせよ、不妊去勢手術の繁殖抑制効果と遺体回収の減少は、ねこに関する相談件数とリンクしない地域があるのは確かだと思います。また、これらを踏まえると飼い主のいない猫の生息数が減少傾向であると考えるのは早計かもしれません。
以下、参照資料
さいたま市動物愛護推進協議会(議事録)https://www.city.saitama.jp/006/008/002/012/004/009/p074737.html
さいたま市動物愛護ふれあいセンター事業概要https://www.city.saitama.jp/008/004/003/007/p035904.html
会報誌12-全国ロードキル調査報告-他(人と動物の共生センター)https://human-animal.jp/activity/kaihou/1331.html
継続した不妊去勢手術で猫の路上死に減少が見られたケース
TNRや地域猫活動を通じて不妊去勢手術を継続して行った結果、猫の路上死が減少しているという地域もあります。
岐阜県岐阜市
事業評価シート:飼い主不明な猫不妊手術費補助金交付(平成23年以降)より、評価理由を以下引用。https://www.city.gifu.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/013/981/r3.jigyohyoka/1080seikatueisei.pdf
期待した効果が得られた。保健所が引取りする猫の数が減少(平成23年度:509匹⇒令和2年度:315匹 約38%減)路上等で死亡した猫の回収数も減少(平成23年度:2,107匹⇒令和2年度:1,318匹 約37%減)*死亡した猫の回収は環境一課が実施
補助金交付件数(不妊去勢手術の件数)の実績は、以下の通り。
平成30年 | 令和元年 | 令和二年 | |
---|---|---|---|
実績 | 84 | 157 | 166 |
東京都練馬区
ねこのきもち WEB MAGAZINEにて紹介の記事『10年で猫の路上死半減 ねりまねこの地域猫活動と「コロナ禍と保護猫」』(2021年4月10日時点の内容)https://cat.benesse.ne.jp/withcat/content/?id=90283
掲題の通り、10年で猫の路上死が半減したと推測されるそうです。ねりまねこの活動の基本は、TNR。明確な数値の記載はありませんが、ノラ猫の不妊手術助成金が練馬区にできたのは2009年とのことです。
宮城県仙台市
仙台市獣医師会による飼い主のいない猫の不妊去勢手術費助成事業が継続されています。本事業は、途中で補助金の変更(増額)があったと記憶していますが、少なくとも2015年以降継続して行われているものです。また、本事業による手術頭数は、仙台市獣医師会HPなどに記載が見当たりませんでしたが、確認した仙台市動物愛護協議会の議事録によれば、『平成28年度は9月末で、154頭の実績』とのことです。おそらく、毎年200頭前後の手術が行われていると思われます。以下、仙台市における交通事故(路上で回収された猫の遺体)の数は、近年減少傾向です。
仙台市「猫は室内で飼育しましょう」http://www.city.sendai.jp/dobutsu/kurashi/shizen/petto/hogodobutsu/aigo/dobutsu/documents/nekoha-shitsunaide-shiiku.pdf
以上のことから、継続した繁殖抑制により猫の路上死が減ったと見ることもできますが、これだけが減少に寄与しているわけではありません。野良猫への無責任な餌やりの注意喚起や保健所、愛護家の地道な譲渡活動、飼い主の室内飼いの推奨(放し飼いの減少)なども路上死減少につながります。様々な対策の結果、路上死の減少につながったと言えるのかもしれません。
ロードキルに遭う動物の種類
以下の画像は、高速道路会社の落下物処理件数(令和2年度)より引用したものです。
出展元:国土交通省「高速道路会社の落下物処理件数(令和2年度)」https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/ijikanri/pdf/rakkabutu_nexco.pdf
高速道路のロードキル処理件数(令和2年度)
グラフの右下に動物の内訳が書かれています。
分類 | 動物の種類 | 件数 |
---|---|---|
大型 | しか、くま、いのしし、その他大型動物 | 2,300 |
中型 | たぬき、きつね、いぬ、ねこ | 27,200 |
小型 | 鳥類、その他小動物 | 23,100 |
概ね動物の種類は上記で集約されていると思いますが、地域によって様々です。例えば、北海道でいえばエゾシカが多く、キタキツネやエゾリスも被害動物です。希少動物の多い沖縄では、奄美大島や徳之島にのみ生息するアマミノクロウサギ。西表島にのみ生息するイリオモテヤマネコ、沖縄本島北部の山原(やんばる)地域のヤンバルクイナ、ケナガネズミ。固有種であり絶滅危惧種でもあるためロードキルが問題視されています。
また、高速道路では中型動物の件数が一番多く、中でもタヌキが4割程度占めると言われています。以下、国土交通省国土技術総合研究所の資料を見ると被害動物の内訳がわかります。(少し古い資料。平成14年のもの。出展元は日本道路公団のようです)
上記画像の出展元:国総研「I.動物の生息地の分断対策」ページ I-3 1)ロードキルの実態に掲載http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0393_0395pdf/ks039304.pdf
ロードキルが多く発生する時期
以下は、北海道におけるエゾシカの交通事故発生状況。
出展元は、北海道警察「北海道における鹿が関係する交通事故の発生状況(令和3年中)」資料よりhttps://www.police.pref.hokkaido.lg.jp/info/koutuu/sika_jiko/sika_jiko.pdf
10月、11月が最も多く全体の40%を占めます。原因はシカの繁殖期であり行動が活発になること、シカの行動が薄明薄暮(朝方と夕方)であり日没が早まる時期と重なること(ドライバーが夜間程減速できていない、仕事の終業時間帯と重なる)などの理由が推測されています。
また、タヌキに関しても10月、11月が多いと言われており、秋は子ダヌキが独り立ちする季節で行動範囲が広がります。加えて、タヌキに関しては春先も多く繁殖時期で行動範囲が広がる、春の農作物を探しに出歩くためとも言われています。
以下は、エゾシカの時間別、年別の発生状況になります。(参考資料)
(参考)エゾシカの交通事故 時間別発生状況(出展元:同上)
16時~20時の時間帯で、全体の半分を占める。
(参考)エゾシカの交通事故 年別発生状況(出展元:同上)
近年の増加傾向が顕著に見られる。
ロードキルが多く発生する場所(地形)の考察
ロードキルが多く発生する場所や地形に関しては、様々な検証が行われており、事故を未然に防ぐ対策に役立てられています。
例えば・・・と色々と書いてみたものの少し長くなりすぎたので、資料を確認していて興味深かったものを挙げておきます。(ネット上で閲覧可能な資料)
ロードキル多発地点の位置判定に関する研究(東京大学大学院農学生命科学研究科/農学部 生物・環境工学専攻/専修 環境地水学研究室)
http://soil.en.a.u-tokyo.ac.jp/jsidre/search/PDFs/06/06004-17.pdf
ロードキルの発生地点と進入防止柵や崖・水路の地形の関係が考察されています。
I.動物の生息地の分断対策(国総研)
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0393_0395pdf/ks039304.pdf
動物の行動とロードキルの発生原因、進入防止対策がまとめられています。
野生生物との交通事故を考えるシンポジウム開催報告集(環境省九州地方環境事務所、一般社団法人北海道開発技術センター)
長崎県対馬や沖縄県の希少動物の保護のための交通事故対策の取組みのプレゼンテーションおよび、有識者によるディスカッションが掲載されています。
ブリティッシュコロンビア州における野生動物のロードキルの現状と対策(土木学会北海道支部 論文報告集 第54号(B))
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00057/1998/54B-0562.pdf
海外事例の分析と考察資料。
釧路・根室地域の国道におけるエゾシカロードキル多発箇所の特徴について(国立研究開発法人 土木研究所 寒地土木研究所)
https://thesis.ceri.go.jp/db/files/134493269755068a1d35ead.pdf
国道44号とその近辺におけるエゾシカのロードキルの調査分析資料。
Why do the deer jump out suddenly?(なぜ、シカは突然飛び出すのか)
https://gazoo.com/column/daily/19/06/30/
2018年9月、オランダで開催された Infra Eco Network Europe(IENE・アイイーナ)の国際会議(2018)にて発表されたシカが突然飛び出すメカニズムが紹介されています。(掲載ドキュメントは英語)
動物は、道路が敷設されても道路を渡って行き来ができれば、以前のように横断するだけですね。その一帯にたくさんの動物がいて、交通量が多い(もしくは速度が出やすく、見通しの悪い)場所であれば事故がどうしても起きてしまいます。少しでも事故が減らせるように研究者の方々の積み重ねがとても興味深いと思いました。
ロードキルを減らす対策
管理人の覚え書きのようなもの。参考情報。
警戒標識
多くのドライバーがご存知の対策が、警戒標識。黄色と黒のひし形標識に、「動物注意」「飛び出し注意」「シカ出没」の文言が見られます。この他、地域によっては路面に大きく白線で書かれた「シカ注意」「速度落とせ」「減速」の路面標示があります。
減速ロードハンプ(減速帯)
速度の減速を促す他、前方注意を高めるために設置されています。
ゼブラ舗装
減速帯と似たようなものにゼブラ舗装もあります。滑り止めの舗装になっており、幹線道路におけるカーブ手前に設けられたり、トンネルの手前で減速を促す目的で設置されます。この他、振動音で動物に危険を知らせる目的で設置される地域(希少動物の保護のために設置されている地域)もあります。
進入防止柵、進入防止ネット
フェンスやネットを設置してシカなどの哺乳類の道路内進入の防止をするもの。動物誘導の目的もあり、より安全に横断可能な場所に誘導する目的もあります。
アウトジャンプ
高速道路などのフェンス内に侵入したシカが内側からフェンスを飛び越えるため脱出用ジャンプ台。フェンスの一部に盛り土をして、ここからジャンプして抜け出せるようにしたもの。
アウトジャンプの他にもワンウェイゲート(一方通行ゲート)が設置されている所もあります。
アンダーパス、アニマルブリッジ
アンダーパスは、道路下に作られた地下道。アニマルブリッジは、動物のための歩道橋。どちらも動物が道路を安全に渡れるための設備です。
西表島のイリオモテヤマネコ保護を目的としたアンダーパスは、現在までに120ヵ所超が設けられ、これだけの数が造られているのは世界的に見ても稀と言われています。アニマルブリッジでは、八ヶ岳山麓の清里高原有料道路に架設された「ヤマネブリッジ」。国の天然記念物であるニホンヤマネを保護するために設けられています。他にも名古屋市守山区の志段味水野線(市道)でも、リスの道(ムササビ等も通る)が設けられています。
動物よけ警笛(シカ避け笛)
高速走行の風圧を利用して動物にしか聞こえない警報音(周波数)で車が近付いていることを知らせる警笛です。ミニスピーカーのような形状の笛を車の前面(バンパーやナンバープレート付近)に取り付けます。走行中の風圧を利用するため、ゆっくり走ると音が出にくい問題がありましたが、現在は改良されているものもあるそうです。
動物反射板
動物の目の高さに合わせた反射板を設置し、車のヘッドライトに当たることで道路への接近を躊躇させる仕組み。
ドライバーへの運転注意喚起
ドライバーへの安全運転や注意喚起の啓蒙活動もロードキルを減らす対策の一環と言えます。この他、動物の目撃情報や衝突事故の発生地点を地図上に表示するアプリなども開発されています。(一部地域に限る)
スマホアプリによるロードキルデータ収集の問題点
株式会社バイオームによるアプリ『バイオーム』を活用した全国ロードキル調査。(現在は終了。2020年9月1日~2021年8月31日に行われた)スマートフォンのアプリで統計データを集め、動物の分布情報を蓄積し、今後のロードキル対策につなげようという試みでした。また、全国ロードキル調査は誰もが参加できる一般参加型で、写真を撮影してアプリに投稿するというものでした。
もし、民間で幅広くデータ収集を行いたいなら、誰でも参加ができて写真を撮ってアプリに投稿するだけというのは、敷居が低いと言えると思います。
しかし、こうしたロードキル調査に何が問題であるかと言えば、道路内に立ち入って写真を撮影するケースがある点です。
十分な安全配慮の上、協力をお願いしていると思いますが、路上死している動物の撮影を考えると道路内に立ち入って撮影するケースはあり得ることでしょう。
では、法律の観点はどうなのかを確認してみます。道路における禁止行為は、道路交通法に条文があります。以下、第七十六条 4 二号抜粋。
(禁止行為)第七十六条 4 何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない。二 道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しやがみ、又は立ちどまつていること。
当然ですが、道路への立ち入りは交通の妨害になるのでNGです。現在のところこうした調査において事故につながるケースは散見されないと思いますが、道路交通法における禁止行為に該当するケースが往々にしてあると考えられます。また、仮に安全確保が不十分で事故につながってしまった場合でも自己責任でしょう。法律の観点や安全確保の周知が十分に行われているか疑問が残るところです。
スマホアプリを用いた調査で市民参加型にする場合、安全配慮とルールを十分に周知した上で参加者を募る方法がいいのではないでしょうか。少なくても子供が十分な安全配慮をできるかと言えば難しいと思います。
動物との衝突事故を未然に防ぐには?
ドライバーの心構えです。ご参考まで。
警戒標識がある付近では、速度を落とす
動物の飛び出し注意などの警戒標識(黄色と黒のひし形標識)がある付近では、速度を落とす。警戒標識がある付近は、過去に動物との接触事故や物損事故、目撃情報が多い地点と考えられます。けもの道になっており普段から動物が行き来する地点かもしれませんので、普段の走行より注意を払うことが大事です。もし、同乗者がおられるなら道路脇に目配りをしてもらっておくのも良さそうです。
また、前後に自分以外の車が走行していない場合は、車の走行音で動物が気付きにくいことが考えられます。飛び出しを想定して運転し、大きな事故に繋がらないよう安全運転を意識しましょう。
ハイビームを使って動物の目の光を発見する
走行中の状況にもよりますが、ハイビーム(上向きライト)を使って走行先に動物がいないか確認することも大事です。動物の衝突事故は、横から突然飛び出してきた時に対処する間もなくぶつかってしまうケースが多いと思いますが、横断中の動物や負傷して路上で動けなくなった動物などは、事前に発見できる可能性もありますので、ハイビームを活用することも有効だと言われております。
夜間や秋(10月、11月)は特に注意
夜間は、夜行性の動物の活動時間帯。ロードキルが特に多いタヌキは、日の出まで活動を行うため運転時には注意が必要です。また、10、11月は、シカの移動の季節。繁殖期であり行動が活発になり、個体によっては越冬前に越冬地へ移動をし始めます。タヌキや猫に関しても春先に生まれた子の子離れの時期になるため、子タヌキ、子猫が自分の縄張り生活圏を求めて移動します。
動物の生態から見ても、活動時間帯の夜間、繁殖期、越冬や子離れの移動時期は、道路に出てきてしまう可能性が高まりますので、普段より注意を払うのがいいのだと思います。
※活動時間帯については、シカ(猫も)は「薄明薄暮」(朝方と夕方)の活動が活発であると言われています。餌になる獲物の活動時間帯や肉食獣からの捕食を避けるためにこのような習性があると言われます。
色々と挙げてみましたが、結局のところ安全運転を心がけるに尽きるのだと思います。時間や心に余裕を持ち、安全配慮の意識を常に持ってリスク回避をしましょうということだと思います。
動物と衝突事故を起こした時の対応
警察に連絡
動物の大小に関わらず、交通事故を起こした場合は、最寄りの警察署へ報告措置が必要です。
道路交通法
(交通事故の場合の措置)第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
人身事故、物損事故どちらであっても報告措置であり、報告義務違反の場合には「3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する」(道交法119条第1項第10号)の罰則規定があります。
動物の保護または二次事故防止措置
衝突した動物が生きている場合は、保護できる場合は保護し、動物病院や保健所などに運ぶ。亡くなっている場合は、路肩など交通の妨げにならない場所へ移動する。
模範的な対応になるとは思いますが、あくまで小動物(猫やウサギ、キツネなど)であれば出来得ることで、大きな動物や親子連れの動物(イノシシやクマ)は興奮状態であったり暴れることも考えられます。動物の様子や怪我の状況次第ではご自身での対応が難しい場合もあるので、動物愛護センターや保健所などへ連絡の上、指示を仰ぎながらの対応がいいのだと思います。また、動物由来感染症が心配な方(タオルなどを使って素手で触らずに動物を触るのが難しい場合)も安易に手を出さず指示を仰ぐのがいいでしょう。
高速道路や国道など一時停車が難しい状況では、安全に停車できるところを見つけ次第、国土交通省の道路緊急ダイヤル「#9910」に連絡する方法があります。
こうした対応は、出来る事に越したことはありませんが、全てのドライバーが対応できるかといえば難しいのかもしれません。ドライバーの精神状態、道路状況にもよりますので出来る範囲で対応し、安全確保の上、警察や保健所などの指示を受けて行動するのがいいのだと思います。
なお、動物病院での治療費は、ドライバー負担が基本です。一部の地域では希少動物の保護のため無償治療を行う施設もありますが、限られていると思います。
動物との衝突事故は自損(単独)、車両保険の適用可
野生動物との衝突事故は自損(単独)事故扱いです。自賠責保険(物損は補償外)なので、自損事故による補償が含まれる車両保険を受けることになります。自動車保険の適用には「事故証明書」の発行が必要なので、このためにも警察への連絡が必要です。
なお、飼い犬や飼い猫の場合は、飼い主の連絡先が分かるのであれば連絡します。故意に轢いたり、傷つけるようなことでもなければ、損害賠償請求などの訴えを飼い主から起こされることもないと思いますが、その後は飼い主の話し合い次第だと思います。(飼い主からすれば愛犬や愛猫が怪我を負わされた、殺された、責任を取ってもらう。と思われる飼い主もいるかもしれません)
また、放し飼いの猫や逸走している犬猫の場合は、むしろ飼い主の管理責任に問題がありそうです。(以下、動物愛護管理法より引用)
(動物の所有者又は占有者の責務等)第七条 動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者として動物の愛護及び管理に関する責任を十分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない。
以上になります。猫に関して言えば「死ぬ前に姿を消す」という迷信があったりもします。人知れずひっそりと病気や怪我で亡くなっている可能性も考えると想像以上に多くの猫が外で亡くなっているのかもしれません。