掲題の完全室内飼いの猫とは、産まれてからすぐに人間に引き取られ、人からミルクと猫用の餌で育てられた、飼い主とその住まいの環境しか知らない(ネズミと出会ったことのない)飼い猫のことです。
こうした完全室内飼いの猫がネズミを食べるのかという話です。
飼い猫がネズミを食べるかを考える前に、猫は本当に食料として食べるのかという疑問があります。昔のことを考えてみると、人の側で生活してきた猫は穀物などを狙うネズミを捕る大事な役目を担ってきたことを多くの方がご存知かと思います。また、ネコ科の動物が肉食であり、小動物や鳥類を獲物の対象としている事もご存知だと思います。加えて、飼い主であれば猫がネズミなどをお土産のように持ってきてしまう場面に出会ったこともあるかもしれません。
簡単な話、肉食の本能で空腹だったら食べるって考えもありますが、それだと話が終わってしまうのでもう少し深く考えてみたいところです。
▼目次
- なぜ猫はネズミを捕まえるのか?
- ネズミは猫にとって総合栄養食?
- 野良猫はネズミの他にも何でも食べる
- ネズミって美味しいの?
- 猫の本能を試す「ネズミ捕食実験」
- ネズミが食べられる物だということを知らないと食べられない
- 飼い猫がネズミを食べてしまっても問題はないか?
- ネズミは動物由来感染症の宿主でもあるので注意しましょう
野良猫なら母猫に捕獲の仕方を教わる
肉食動物の狩猟本能
そこにネズミがいたから
干支のエピソード。ねずみを恨み追い掛ける
飼い主へのプレゼント。褒めてもらいたいから?
なぜ猫はネズミを捕まえるのか?
食べる為には捕まえないと食べられません。
野良猫なら母猫に捕獲の仕方を教わる
野良猫の場合、外での生活を強いられるため、自分の餌は自分で確保できるようにならないといけません。このため、子猫が離乳の時期になると母猫がネズミをくわえて子猫の元へ持ち帰り、しばらくしたらその場で仕留めて見せ、殺し、バキッバキッと音を立てながら食べる所を見せます。管理人もこうした光景は、ネズミに限らず蝶や蛾、トカゲなどで見たことがあり、捕獲できたならニワトリやドバトのような鳥類だってあると思われます。(小鳥を食べている所は見たことはありませんが、鳥の羽根が散乱している現場は何度か目撃しています)子猫時代に野良猫として生きる上で必要なことを学ぶため、捕食対象のことや扱い方、食べられることを身をもって教え込まれているものです。
もちろん、餌やりをする人がいて餌に事欠かない野良猫達であれば、獲物の捕食を教える機会より、餌を出す人間のいる場所へ連れていくことの方が多いかもしれませんが。
肉食動物の狩猟本能
目の前に動いているものがいたら、つい手が出てしまう。動くものを獲物として認識して襲う、本能には逆らえない。
端的に言えばこのような話だと思いますが、飼い猫でも動くおもちゃで遊んだり、風で揺れるカーテンに反応したり、ひらひらするスカートに手を出してくることがあります。これは本能であるため猫自身はコントロールができません。問題行動だったとしてもそれを引き起こさないように注意しなければいけないのは飼い主だったりします。だから、狩猟本能を満たしてあげてストレスを溜めないように、たくさん猫と遊んであげないといけないわけです。
猫は獲物を認識し、狙いを定め、攻撃を仕掛ける。猫にとってちょうどいい大きさの相手は、とどめを刺すことで満足感を得られます。
野生の猫であれば、ヘビやモグラやトカゲにカエルも獲物としてちょうどいい。地面をすばしっこく走り回る小動物や届くか届かないかの空中や視界に止まる小鳥のような存在は、猫の狩猟本能を十二分に刺激する相手と言えるのでしょう。
そこにネズミがいたから
唐突に安直な話になりますが・・・何を言いたいのかというとネズミがたくさんいるから狩りの対象にしやすいという話。
ネズミ算という言葉はご存知のように、2匹のつがいのネズミから10匹以上もネズミを産み、さらにそのつがいから何十匹と産み、それが続いて爆発的に大量繁殖してしまうという例え。ただ、それほどの繁殖力を持つのにネズミが街中に溢れかえることってありません。増えすぎることがない程度に保たれているのは、多くの野生動物の餌になるから。(または駆除されているから)
ネズミも食べ物がある場所に棲み付き、そこには人が存在することが多い。だから、昔の人々は猫を飼ったし、猫に狩ってもらった。ネズミがいるから猫を側に置いていたとも言えますが、そこにネズミがいたから猫がいて、ネズミがいたから猫は(本能で)狩る。とも言えると思います。
干支のエピソード。ねずみを恨み追い掛ける
干支には猫がいません。
有名な干支のエピソードに、干支の動物達が神様の所に行く日を1月1日とされていたところを、ネズミが猫に1月2日と嘘をついたというもの。猫は1日遅れてしまったわけで、干支にもなれず、さらには神様に怒られる始末。「顔を洗って出直して来い」
だから、猫はねずみを恨んで、追い掛ける。
飼い主へのプレゼント。褒めてもらいたいから?
猫がネズミを捕まえるのは、飼い主にプレゼントをするため?飼い主に褒めてもらおうと、自分が捕まえた獲物を自慢げに飼い主の元に持ってくるという話は耳にされたこともあると思います。
昔のようなネズミ捕りのために飼われていた猫であれば、自分の狩猟能力を誇示し、褒めてもらうため。現代の飼い猫であれば、いつもお世話になっている飼い主へのプレゼント。
飼い主の目に付く所に置かれることも多いことから、飼い主に見てもらうためであるのは間違いないようです。(食料を保管するような貯食性はないと言われていますし、貯食なら隠しておけるような場所に持っていくはず)
このような行為は野良猫でも見られることがあって、玄関前にカエルが仰向けになって転がっていたり、トカゲの死骸が置かれていた経験があります。もちろん、必ずしも猫の仕業とは言えないのですが、管理人の近所でこのような行為をする相手を思い浮かべると野良猫くらいなものなので、その時に転がっていたカエルやトカゲは野良猫の置き土産だったのではと思います。
では、野良猫のことを考えた時、褒めてもらいたいからか?と言えば、そうではないでしょう。どちらかと言えば、母猫が子猫に獲物を咥えて持って帰ってくるように、子猫に対してやってみせたことの疑似体験的に行っていると考えた方が正しいように思います。
もし、飼い猫が持ってきた獲物が死骸ではなく、まだ息があるものなら飼い主を子猫のように思い、獲物を持って帰ってきているのかもしれません。
ネズミは猫にとって総合栄養食?
体にいい物を食べる。どの動物でも言えると思います。
猫からすれば、ネズミの肉はタンパク源であるし、血液は水分補給にもなる。頭や尻尾や内臓の一部は残すこともありますが、まるまる一匹血肉になるのはなんとなくでもわかりますね。
また、ネズミなどの齧歯類は、穀類や木の実を食べています。胃袋には消化されるそれらの食べ物が残っていますが、猫は内臓ごといただきます。猫は、植物の消化が苦手な(腸の長さが短い)ため、草や野菜といった酵素類が不十分です。これらを一緒にいただくことで補っています。(消化酵素は、栄養素を消化して吸収する上で不可欠)
たしかに、総合栄養食と言ってもいいのかもしれません。
野良猫はネズミの他にも何でも食べる
とはいえ、ネズミばかりをターゲットにしているわけではありません。昆虫や蝶々、トカゲにカエル、カマキリといったところはよく見る光景。ご近所さんの外に付いている換気扇の裏あたりに野鳥の巣が作られていることがありますが、その付近をよくうろついてたりもありました。(食べられるようなことはなかったと思いますが)あとは、さすがに無理だろうと思ったのはカラス。じゃれついていただけかもしれませんが、カラスが降り立った所をにじりよってチャンスを窺うような場面を見たことがあります。
ニワトリでもドバトでも、飼われているウサギでも。飼っている小鳥やヒヨコが犠牲になる話もありますし、多頭飼いの悲惨な現場では共食いしている話すら聞くまでです。ネズミが特別好物というわけでもなく、食べられそうなものはその時々の空腹状況によって挑んでいるように思ってしまいますね。
ネズミって美味しいの?
好物と言えば、ネズミって美味しいのかなぁ..という疑問も。
日本人は、ネズミを食べる習慣はないので、味の良し悪しなんてわからないし、食べたいとも思わないでしょう。というのも私達日本人が思うネズミってドブネズミのような害獣だと思いますし。中国やラオス、ベトナムといった東南アジアの他、中南米などでは、ネズミを食用としている地域はありますが、もちろん可食用のネズミを食べています。(ドブネズミは食べません)
では、ネズミって美味しいのかというと・・・美味しいんだそうです。(本当か!?)南米で食用とされるテンジクネズミ(通称モルモット)は、英語表記が「Guinea Pig」。Pigというように豚肉のような味がするんだとか。(ウサギや鶏のもも肉に似ているという方もいる)調理方法は、丸焼き、串焼き、香草焼き、素揚げ、お腹にハーブを詰めた窯焼きと様々です。
臭みがなく柔らかでジューシーと紹介されているのを拝見しますが、日本人が食べたら生臭さは感じるんだろうなぁ..ぼんやりと思ってしまうものです。
猫の本能を試す「ネズミ捕食実験」
単純な話、完全室内飼いの生まれてこの方一度もネズミを見たことのない猫に、ネズミと対面させてどのような行動を取るかを実験できればこの疑問は解決できます。こうした実験結果がないものか、いくつか文献を探してみた結果、パウル・ライハウゼン氏の「ネコの行動学」という本に記載がありました。
この実験は、獲物捕獲の発達を調べる実験で、クオという方が行ったそうです。以下、実験の概要。対象となった猫がこちら。
- 生後間もなくして母猫から離して哺乳瓶で育てられた「隔離されて育った」猫
- 母親と一緒に育てられ、母親の獲物捕獲を見て育った「母親に育てられた」猫(※獲物を食べたことはない)
- 生後間もなく獲物動物と一緒の空間で育てられた「獲物動物と一緒に育った」猫
の三つのグループに分けられ、さらに、与えれる餌を「草食」か「肉食」かの違いに分けて育てられ、生後四カ月になるまで四日に一回、三十分間、ネズミを一匹同じ檻の中に入れるというものです。※獲物の種類や空腹か否かなど細かい条件は他にもありましたが、実験の概要はこのようなものです。
そして、この実験結果を引用した表が以下になります。
ネコの行動学(パウル・ライハウゼン, 今泉訳, 2017, p.123)より以下引用。
表3 隔離されて育つ 母親に育てられる 獲物動物といっしょに育つ 合計 純粋な草食 10 10 9 29(20) 肉を豊富に与えられる 20 11 9 30(20) 合計 20(9) 21(18) 18(3)
全部で59頭の子猫が観察され、そのうち()書きの数字が獲物を殺した数です。よって、隔離されて育った猫は、20頭のうち9頭。母親に育てられた猫は、21頭のうち18頭。獲物と一緒に育った猫は、18頭のうち3頭が獲物を殺したということです。
また、表中には殺した獲物を食べたかどうかは確認できませんが、書籍に言及があります。
ネコの行動学(パウル・ライハウゼン, 今泉訳, 2017, p.124)より以下引用。
『殺したあとに獲物を食べるかどうかには影響をあたえたようで、「菜食主義」子ネコのうち四頭しか殺した獲物を食べなかった。これに対し「肉食」子ネコでは、十七頭が獲物を食べた。空腹の程度も実験結果に影響しなかった。』
この実験結果からクオは、本能で殺しているのではなく、行動の発達全体が条件反射の形成によって決定されると結論付けておりますが、著者のパウル・ライハウゼンは論拠が確固たるものではないと否定もしています。(実験方法が限定的すぎる点を指摘しています)
少なくとも、隔離されて育つより母親の獲物の捕獲を見て育った方がネズミを捕まえるし、獲物と一緒に育った猫は獲物動物=仲間と思いこみやすい(刷り込みと呼ばれる学習現象)。また、草食より肉食であれば、殺した獲物を食べられるものと理解して食べることができると言えると思います。
とても興味深い実験だと思いますので、気になった方は、パウル・ライハウゼン氏の「ネコの行動学」で詳しい実験結果を確認してみてください。
ネズミが食べられる物だということを知らないと食べられない
前述のネズミ捕食実験の結果からもネズミが食べられる物だと知らないと食べない猫が多いです。だから母猫は子猫時代に獲物を捕って見せ、食べられるものだと教えます。
仮に生存本能を持っていて、教えられなくても生まれ持っている知恵で獲物を食べることができるのであれば、母猫も教える必要はありません。捕獲の仕方を教えているとも考えられますが、であれば狩場に連れていって実演した方が現実的です。本能だからの一言で片づけるなら教えない母猫がいてもおかしくありませんが、そんなことはありません。
当たり前の話かもしれませんが、殺した獲物が食べられることを教える必要があるのだと思います。
飼い猫がネズミを食べてしまっても問題はないか?
当然、問題はあって、寄生虫の媒介になります。よく知られる所だと条虫(サナダムシ)が猫の体内に寄生してしまいます。多くは共生関係なので不顕性感染(無症状)の場合が多いと思いますが、下痢や便秘、腹痛などを起こすこともあります。
また、ネズミが殺鼠剤を口にしているかもしれませんので、決していいことはありません。(殺鼠剤の二次汚染が起きたケースはないと思いますが、中毒症状が見られるなどあれば注意が必要)
猫の元気がなくなったり、下痢や嘔吐など普段では見られない症状が出てしまった場合は、速やかに獣医師に診てもらうのがいいでしょう。
ネズミは動物由来感染症の宿主でもあるので注意しましょう
ネズミは、レプトスピラという動物由来感染症の病原菌を持っています。また、寄生虫由来のトキソプラズマ症、回虫症、エキノコックス症も寄生ネズミを食べることで猫に感染することがあります。
飼い猫がネズミを食べてしまった時は、過度なスキンシップは控えるべきです。口の中やつめなどにいる場合があるので、濃厚接触はせず、糞尿を速やかに処理するなど清潔に保つよう心がける必要があります。
以上になります。産まれて間もなく人に引き取られた猫や完全室内飼いの母猫から産まれた猫などは、自分で狩りして食べるという事自体が難しいように思ってしまいます。それに、可愛らしい飼い猫のことを想像してみると獲物の首や頭に噛み付いて、息の根を止めるような獰猛な狩りをする姿を思い浮かべるのも難しいと思います。