姫路駅北口を出て大手前通りを進み、大手門から三の丸広場に行きつけば木陰に野良猫の姿が見られます。どの猫を見ても痩せた子はおらず、栄養十分に観光客の姿を気にすることなくゆったり過ごしているものですね。三の丸広場のその先、姫路市立動物園の沿道にも猫達が見られ、結構いるもんだなぁと観光した思い出があります。
私が姫路城に訪れたのはコロナ前の4、5年くらい前でした。では、現時点の様子がどうなのかを調べてみれば、相変わらず猫達はたくさんおられるようです。
姫路城では、2013年に100匹の野良猫の一斉TNRを実施されておりますが、9年経た今でも猫の姿を見られる風景は変わりません。数を数えたわけではないので、増減に関して正確な話はできませんが、増えてもなく減ってもなくというところが現状ではないでしょうか。
TNRを行うことで猫が減り、近隣の迷惑やトラブルも減り、不幸な猫を増やさない、減らしていくというのがTNR活動の主旨だと思います。
私が数年前に訪れた際は、糞尿や臭いの問題、餌の食べ残しなど衛生面の問題があったようには思いませんでした。ただ、結構いるなって思ったものです。
姫路城を含め県や市など自治体の野良猫対策を含め、野良猫事情をまとめてみました。
▼目次
- 2013年姫路城の野良猫100匹TNRの経緯
- 2016年ふるさとひょうご寄付金による譲渡活動支援(兵庫県)
- 2018年野良猫の不妊・去勢手術の助成開始(姫路市)
- 兵庫県の猫の苦情・相談受付件数
- アニマルメリーランドの飼育放棄(ネグレクト)問題
- 100匹TNRしても減らない現状
- 餌やりの弊害?姫路駅前にキツネが出没
2013年姫路城の野良猫100匹TNRの経緯
2013年の姫路城の野良猫100匹TNRは、一部メディアでも取り上げられました。
以下は、読売新聞の記事になりますが、現在はリンク切れとなっております。
「姫路城の野良猫100匹、一斉に不妊・去勢手術」(2013年12月20日17時44分 読売新聞)http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20131220-OYT1T00338
世界遺産・姫路城周辺の野良猫100匹に不妊、去勢手術を行い、元の場所に戻して地域で見守る試みを、公益財団法人「どうぶつ基金」(兵庫県芦屋市)が動物愛護団体やNPO法人、姫路市に呼び掛けて始めた。
公益財団法人「どうぶつ基金」が姫路市の動物愛護団体や自治体に呼び掛けて実施されたという経緯が記されています。また、どうぶつ基金の公式HPでも姫路城一斉TNRの情報が掲載されております。
どうぶつ基金「姫路城一斉TNR」(記事:2013年12月10日)http://doubutukikin2010.blog58.fc2.com/blog-entry-537.html
しかし、上記の内容を見てみると実施の経緯としては、新聞記事とは異なるようです。以下、どうぶつ基金「姫路城一斉TNR」より引用。
どうぶつ基金は姫路城管理事務所からの協働申請を受け、移動診療車を現地に派遣して約100匹の猫の一斉捕獲、不妊手術とさくら耳カットを行った後に現地に再びリリースするという一斉TNRを行います。
新聞記事では、どうぶつ基金の呼び掛けで始めた、とあり、どうぶつ基金の記事では、姫路城管理事務所からの協働申請を受け一斉TNRを行う。としています。
真意は定かではありませんが、話が食い違ってしまうのも妙な話だと思います。ただ、どちらかが誤りという話ではなく、最初にどうぶつ基金が呼び掛けて、その話に姫路城管理事務所が応じてどうぶつ基金に申請を行い、一斉TNRを行ったという経緯かもしれません。
話を元に戻しまして、新聞記事では以下のように続きます。
今月10~14日に捕獲作業と手術を行い、今後は飼い主を探したり個体数を管理したりするという。参加した動物愛護団体「姫路城さくらねこの会」(姫路市)の水口信也代表(32)は、「人と猫の共生を図り、小さな命を守りたい」と話す。参加したのは、同会やNPO法人「アニマルメリーランド」(同市)、同市の動物管理センターや城管理事務所、城周辺整備室。
個体数の管理はされているようなので、現状を知りたいところでしたが「姫路城さくらねこの会」の問い合わせ先は不明。「アニマルメリーランド」は既に解散。姫路城管理事務所には問い合わせフォームから質問をさせていただきましたが、投稿時点では回答を得られていません。(以下、回答がありましたので追記します)
※2022年6月7日追記 姫路城管理事務所の回答
『姫路城周辺に野良猫がおり、また、その猫の世話している人がいることも把握しておりますが、野良猫の生息数までは把握しておりません。』
とのこと。姫路市の動物管理センターで個体数管理をされている可能性もありますが、姫路城管理事務所が把握していないところを見ると、現在は個体数の管理はされていないものと思われます。
なお、新聞記事では2013年当時の状況も掲載されています。
姫路城周辺では、1日に約20人の愛猫家が猫に餌を与えている。春から秋にかけては排せつ物の臭いや、餌を与えた人が残す空き缶や発泡スチロールが景観を汚しているなどの苦情が市に寄せられていた。今後は各団体が餌を与える人に声を掛け、片付けを促すことにしている。
1日約20人の愛猫家が餌やりとは驚きですね。
姫路市では当時も今でも地域猫制度はありません。動物愛護法や自治体の条例にも餌やりを制限する条文もないため、野放しになってしまっていたというのが実態だったと思われます。
2016年ふるさとひょうご寄付金による譲渡活動支援(兵庫県)
兵庫県の取組みで、ふるさと納税を利用した犬猫の譲渡活動支援が2016年から始まっています。2022年度も『子犬子猫の飼い主捜し等応援プロジェクト』の名称でふるさと納税の納税を募っています。
兵庫県「子犬子猫の飼い主捜し等応援プロジェクト~子犬子猫の小さな命を救うために~」(更新日:2022年4月25日)https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf14/koinukoneko.html
以下、活動実績の引用。
譲渡して家猫として飼われる方が猫にも人にもいいのでは。問題は、TNRや地域猫より費用や労力がかかりすぎること。譲渡活動に賛同される方は、ふるさと納税を通じてプロジェクトを支援されることもいいことだと思います。
2018年野良猫の不妊・去勢手術の助成開始(姫路市)
姫路市では、2018年より野良猫の不妊・去勢手術の助成が開始されました。助成金の額は、不妊手術対象猫1匹につき、オスの場合5,000円、メスの場合10,000円。年間400匹を予定しておりました。
この制度は現在も同額の助成金で行われており、譲渡会と合わせて野良猫の数を減らす目的で続けられています。
姫路市「飼い主のいない猫不妊手術助成」(公開日:2021年4月1日)https://www.city.himeji.lg.jp/bousai/0000001568.html
なお、助成金の制度は、公明党会派が主導して制度化を進められました。
兵庫県の猫の苦情・相談受付件数
TNRや譲渡活動、不妊去勢手術の助成など様々な対策をされておりますが、改善は図られているのでしょうか。この結果を見るひとつの目安として、猫の苦情・相談件数があります。外で生活する猫の数が減れば、猫の苦情や相談は自ずと減ります。加えて、保健所による猫の引取り数や殺処分数の減少にもつながります。
兵庫県の猫の苦情や相談件数は、兵庫県動物愛護管理推進計画で見ることができます。
兵庫県「兵庫県動物愛護管理推進計画について」(更新日:2022年4月27日)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf14/douaisuishinkeikaku.html
以下、苦情相談件数の引用。
数値にするとおおよその推移は以下の通り。(H22-R1の10年分、猫の数値)
平成22年 | 約1,850 |
---|---|
平成23年 | 約2,000 |
平成24年 | 約2,000 |
平成25年 | 約2,300 |
平成26年 | 約2,500 |
平成27年 | 約3,000 |
平成28年 | 約2,500 |
平成29年 | 約2,700 |
平成30年 | 約2,500 |
令和元年 | 約2,500 |
犬の苦情や相談件数は減少傾向にありますが、猫に関しては増加傾向にあります。直近4年はやや減少に転じていますが、過去10年で見ると増えた状態の横ばいと言って差し支えないと思います。
なお、兵庫県の「猫の適正管理普及推進のためのガイドライン」(平成29年3月公布)に苦情の増加傾向に関する背景が語られています。http://www.hyogo-douai.sakura.ne.jp/honpenshiryou.pdf
以下、Ⅲ 猫を取り巻く状況と課題 より引用。
猫がこのような苦情・相談の対象となっている背景には、猫の飼い主が屋内飼育や不妊措置、飼い主の明示措置等の責任を適切に果たしていないことや、猫への恣意的な餌やり行為により飼い主のいない猫が繁殖し、糞尿による悪臭、庭や畑荒らし、ゴミあさり等の問題を引き起こしていることがあります。
苦情、相談の多くは上記のような内容であることが推察されます。
以下、猫の殺処分数、譲渡数もご参考まで。
アニマルメリーランドの飼育放棄(ネグレクト)問題
こちらも以前話題になりました。動物愛護団体による飼育放棄。ネグレクトの問題。
前述した通り、アニマルメリーランドは姫路城一斉TNRに参加したNPO法人。動物保護を目的としたNPO法人が犬猫のネグレクトを行っていたということで問題になりました。詳しい内容は割愛しますが、2016年6~7月に姫路市保健所による立ち入り調査が行われ、数百匹の犬猫が過酷な飼育環境に長期間おかれ、死んだ犬猫の死骸が放置、衰弱したり病気にかかっている個体も多数いたとのことでした。
さて、NPO法人(特定非営利活動法人)といえど活動費は必要です。犬猫の飼育費、スタッフの人件費はかかります。寄付金を募ったり、犬猫の引き取り手数料をいただいたり、譲渡の際に医療費など諸経費を里親から徴収して運転資金としていると思われます。(グッズ販売で収益をあげている場合もあり)
おそらくは、飼い主やペットショップ、ブリーダーから引き取り手数料を受け取り、引き取るだけ引き取って後は杜撰な管理。飼育場所や管理可能なキャパシティも考えず、餌も水も不十分。病気になろうと衰弱しようとスタッフが面倒を見切れなければそのまま。はたから見れば動物虐待と言える飼育状態と思いますが、面倒は見れる範囲で見ているので虐待ではないと主張する。
このように書くと、引き取り業者の悪事がいよいよバレて摘発されたような印象を持ってしまいそうですが、動物保護を目的としたNPO法人です。法人代表やスタッフを含め虐待の意図はなかったと思います。しかしながら、NPO法人である会社としての運営、スタッフのケア、犬猫の飼育管理、その他諸々行き当たりばったり感が否めません。崇高な理念や精神を持ち合わせていても運営能力に問題があれば、飼育放棄(ネグレクト)が起こってしまうということなのだと思います。
アニマルメリーランド、アニマル(動物の)メリー(merry:楽しい)ランド(土地、場所)が語源とすれば皮肉なものだと思います。
100匹TNRしても減らない現状
2013年に行われた姫路城の野良猫一斉TNRですが、9年経った2022年の時点では野良猫がいなくなった、数が激減したということはないと思われます。少なからず税金が使われており、公共施設(ましてや姫路城は世界文化遺産)で行われた対策です。成果に疑問視される方もおられると思います。TNRや地域猫活動といった対策は、今後成果が上がるのか?それとも目立った成果は上がらないのか?そして、変わらず対策を続けていくのか、気になるところです。
餌やりの弊害?姫路駅前にキツネが出没
神戸新聞NEXTより以下のような記事もあります。
神戸新聞NEXT「キツネ、姫路駅前に出没増える 野良猫追い払いくつろぐ姿」(更新日:2018年05月15日)https://www.kobe-np.co.jp/news/odekake-plus/news/detail.shtml?news/odekake-plus/news/pickup/201805/11257319
市内では姫路城周辺をはじめ年間10件ほどの目撃情報があり、近年増えているとのことです。
餌を求めて市街地まで出てきたと考えられるのかもしれませんが、記事内では以下のようなことも書かれています。
4月上旬の深夜、駅前の大通りを横切るキツネを見つけ、後を追うと公園に入った。茂みにいた野良猫を追い払い、誰かが置いた餌をむさぼる。食べ終わり、逃げ去ると思いきや近寄って来て、揚げ句に砂場で丸くなってくつろいだ。
野良猫用の置き餌によりキツネを誘引していると考えられます。海外でもTNRや地域猫といった活動による弊害として、アライグマやスカンクを呼び寄せてしまうことが指摘されています。こうした野生動物は狂犬病ウイルスの保菌者であることは言うまでもありません。ウイルスで言えばキツネもエキノコックスの保菌者であり、ヒトに感染した場合は、数年から10数年の潜伏期を経て重い肝機能障害を起こすと言われています。
容易に安全に餌を得られるのであれば、キツネやアライグマのみならず野生動物が市街地まで出てきてしまうのは当然のことかもしれません。人間の健康リスクのみならず、生態系への影響や農作物などの被害も考えられます。
現時点では少ない目撃情報がある程度かもしれませんが、人と動物(特に猫)との共生の難しさを物語る一つだと思いました。
以上になります。猫が好きな人も嫌いな人もいます。嫌いな人からすれば公共の場で出くわしたくないのは当然のことだと思うし、はっきりとした効果もないのに野良猫対策に税金が使われるのも不満だと思います。一方で、好き嫌いや税金うんぬんではなく、動物との共生を考えた場合はまた別の話です。人間中心の社会が当たり前と考えるか、動物にも自由に生活する本質的な価値があると考えるかという話もあります。難しい話だと思いますが、現時点では賛否両論があるのが実情ではないでしょうか。