月額380円。ねこホーダイは保護猫を飼うこと、飼えなくなってしまった猫を引き取ってもらうことが可能なサービスです。
端的にサービス内容を表せばこのようになりますが、年末年始にかけて大炎上したのは記憶に新しい方も多いと思います。
炎上の経緯を少し振り返ってみると、12月15日にねこホーダイのサービス開始、間もなくSNS上では問題点を指摘する人が出始め12月23日までに炎上、Twitterでは「猫のサブスク」「ねこホーダイ」がトレンド上位に入りました。加えて各社ニュースサイトが一斉にねこホーダイの記事を取り上げ、一般の方にも広く知れ渡るようになります。その後、ねこホーダイのサービスを運営する株式会社のら猫バンクは「想定を大きく上回る会員登録があり、円滑かつ適切にサービスをご利用いただくことを担保しかねる状況となった」とし、12月29日にサービスを停止する運びとなりました。
サービス開始からわずか二週間での出来事になりますが「命を物扱いしている」の指摘のように動物愛護の観点からの批判はかなり多くあったと思います。この指摘についてもう少しあげてみると、「審査やトライアルがない」「虐待の可能性がある」「飼い主が頻繁に変わる可能性があり猫にとって環境の変化はストレス」「ストレスは病気のリスク」「動物愛護の理念(終生飼養)に反してる」多く聞かれたのはこの辺りかと思いますが他にも、月額380円で病気や怪我の面倒までちゃんと診れるのか、老猫が返却された場合はどうするのか(飼い主が見つからなかったらどうなるのか?)という意見も耳にしました。
ねこホーダイを擁護するわけではありませんが、ここで指摘される内容の多くはペットショップで販売されている犬猫にも同様のことが言えます。また、動物愛護団体や愛護家が携わる保護猫の譲渡では審査やトライアルがありますが、審査で終生飼養可能か虐待の可能性はないかの一定の判断は可能にしてもトライアルは猫にとっては環境の変化になります。里親希望の方がやっぱり飼うのが難しいと考えれば返却です。トライアルを何度も繰り返す猫もいるかもしれません。こうした実態があることを踏まえるとねこホーダイだけを悪者にするのはおかしい部分もあると思います。
このように動物愛護の観点は様々な立場と視点があり、広く知れ渡った過程で一般の方からインフルエンサー、動物愛護家や獣医といった専門家までかなり議論をされていたと思いますので、こちらでは後述といたします。先にねこホーダイの問題の本質について、サービス提供までの経緯、その目的、ビジネスモデル、運営元がどのような判断でサービス停止に至ったのかを考察します。この他、詳しくは考察の中で記述いたしますが運営元は東証スタンダード(旧東証二部)の上場会社になります。このサービスの発表を受けて投資家(全く異なる立場)の視点ではどのように受け止められたのかについても触れたいと思います。
▼目次
- 中小企業ホールディングスと「野良猫ゼロプロジェクト」
- 業務提携先の「花の木シェルター」と「株式会社101」
- ねこホーダイのビジネスモデル
- 中小企業ホールディングスの株価の動向
- 優良誤認に該当する可能性「サービスの問題点」
- 第一種動物取扱業の無登録営業では?
- 見通しの甘かったサービス設計
- 動物愛護観点の問題の根源「動物の5つの自由」
- 動物愛護センターの譲渡条件との違い
- 虐待する人にとって利用価値のあるサービスか?
- ペットショップやペットレンタルの方が問題では?
- 猫を物扱い、命のサブスクは絶対ダメというのは猫だから?
中小企業ホールディングスと「野良猫ゼロプロジェクト」
ねこホーダイのサービスを提供する会社は「株式会社のら猫バンク」といいますが、この会社を起ち上げたのが中小企業ホールディングス株式会社であり、のら猫バンクは完全子会社の位置付けです。(代表取締役はどちらも同じ方です)親会社である中小企業ホールディングスは、1997年に大阪証券取引所第2部に上場し現在は東証スタンダードの上場会社になります。
中小企業ホールディングスの本業は建設業であり、売上高の約96%が連結子会社である巧栄ビルド株式会社の建設事業によるものです。(2022年度決算時点)他にもオートモービル関連事業、コスメ衛生関連事業とありますが、現状では建設主体の会社として見ていいでしょう。
では、建設業の会社がなぜ猫に関わるサービスを始めたのかは、以下の公表内容を確認するとわかります。
『2021年11月4日 当社と一般社団法人花の木シェルター及び株式会社101との業務提携契約の締結に関するお知らせ』※中小企業ホールディングス(https://chusho-hd.co.jp/)のホームページ内のNEWSの過去記事より原本の確認が可能です。
要約すると以下の通りです。
- 犬より多い猫の殺処分の現状を解決するために「野良猫ゼロプロジェクト」を起ち上げ。
- 本プロジェクトの協議・検討を一緒に行っていた花の木シェルターと業務提携を締結。
- 本プロジェクトに賛同された101社と業務提携を締結。
加えて、『2022年4月21日 子会社設立に関するお知らせ』では、子会社設立の目的に「当社のESGの取組み」との記載もあります。ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)を考慮した投資活動や経営・事業活動のことです。環境問題や社会全体の問題に取り組む姿勢は企業の信頼性や透明性の向上につながるため企業のイメージアップが期待されます。野良猫ゼロプロジェクトは猫の殺処分の問題に関する事業になりますので、社会の課題への取組みであり企業価値の向上にもつながるため発足させたのだと考えられます。
※ESGの取組みを裏付けるものとして、ウクライナ出身の方の雇用についても公表されています。(2022年12月21日 ㈱のら猫バンクからのお知らせの資料で確認できます)
さて、野良猫ゼロプロジェクトの活動内容についてはもう少し詳しい説明も記載されています。プロジェクト最大の特徴として書かれている内容は以下の通りで、
NPOやボランティア活動ではなく、ペット関連サービス事業による収益を原資に、飼育困難や殺処分予定の猫を引き取ることにあります。
とのこと。
プロジェクトの特徴及び業務提携内容から読み取れば、飼育困難や殺処分予定の猫を引取って殺処分ゼロを目指す。これを実現するために、アニマルシェルターを運営し運営費用はペット関連サービスで賄うといった構想であったと考えられます。
この後、2022年4月21日の子会社設立に関するお知らせにある通り株式会社のら猫バンクの子会社を設立、2022年12月15日に会員制サービス『ねこホーダイ』開始の流れとなります。
業務提携先の「花の木シェルター」と「株式会社101」
業務提携先についても触れておきます。
花の木シェルター(https://www.hananokishelter.com/)は、愛知県名古屋市の保護猫の施設で名古屋市動物愛護センターや市民の方から猫を引取り、里親が見つかるまで保護と飼養を続けられています。また、代表理事の阪田泰志(さかたやすし)氏については、前述の中小企業ホールディングスのお知らせに以下の説明があります。
テレビのドキュメンタリー番組や動物番組でも取り上げられ「保護猫界の最後の砦」と言われている方で、野良猫の保護、飼育、里親探し等において多大な実績とノウハウを有しており、「野良猫のいない日本」を目指す本プロジェクトに強く共感し、企画段階から当社と一緒に本プロジェクトについて協議・検討に加わって頂いております。
テレビへの出演は、「ザ・ノンフィクション(2021年6月27日放送)」と「坂上どうぶつ王国(2022年4月15日、2022年8月19日放送)」の番組のことだと思われます。いずれもフジテレビの番組です。なお、阪田泰志氏は、株式会社のら猫バンクの取締役にも就任されています。また、野良猫ゼロプロジェクトの役割としては、アニマルシェルターの施設運営を担うものであったと思われます。
一方、株式会社101は、東京都練馬区でペットトリミング事業やペットホテル事業を展開する企業で、代表取締役は松本敬敏(まつもとたかとし)氏。こちらの役割は会員制ペット関連サービス事業の協力にあったと考えられます。
ペット関連サービスについてこの情報だけでは具体的な内容がいまいち掴みづらいと思いますので、株式会社101が運営する「i-dogs」(https://i-dogs.net/)のサービスを見てみましょう。i-dogsのサービスとして並ぶのは、「トリミング」「ペットホテル」「レンタルペット」「マナー&しつけ」「フォトスタジオ」であり、愛犬家に向けて提供されているのがわかります。これらを鑑みるに、ねこホーダイでもこうしたペット関連サービスの提供を検討されていたと考えられます。
ねこホーダイのビジネスモデル
前述の内容とねこホーダイのアプリのサービスを踏まえ、どのようなビジネスモデルであったのかを整理してみます。
2022年12月15日にサービス開始されたねこホーダイでは、二つのサービス「飼う」と「手放す」があります。さらに、会員限定コンテンツとして「フォトフレーム」も配信されているようです。
サービス及びコンテンツの概要は以下の通り。
「飼う」のサービスは、保護猫を飼うことができます。「手放す」のサービスは、飼い猫を引き取ってもらうことができます。「フォトフレーム」のコンテンツは、装飾素材のフレームを利用して写真が撮れます。
これらのサービスを月額料金380円(税込)で利用できるというものです。また、公表されている内容では追加料金を取られることもありません。ワクチン代、不妊去勢手術費などの費用も必要ありません。
以上のことから収益は現状、月額料金380円のみということになりますが、ここで疑問に感じるのは月額380円で利益が出るのかということ。
仮に1,000人の会員を集められたとしましょう。この場合、月額380円×1,000人=一ヵ月の売上は、380,000円 です。これで賄えるのかを費用面の中で一番大きいと考えられる人件費でみてみます。
公表されている資料から、取締役2名、スタッフ2名(うち1名は正社員)が何らかの業務に携わっているのが読み取れます。(他にも雇用されている可能性はあります)仮にスタッフ2名がフルタイムで働いた場合どうでしょうか。給料の支払いだけで売上のほとんどを使い切ってしまうと思われます。加えて、猫の飼養代や医療費を考えると会員数1,000人程度では全く利益が出ることはないでしょう。
では、会員数をもっと増やせばいいのかというと今度は保護猫の数が足りなくなったり、シェルターに収容できる猫の数を超えてしまったりといった問題が考えられます。サービスの安定供給を考えると抱えられる会員数には限度があるということです。
現実問題、月額380円で利益をあげることは難しいでしょう。おそらく、安くインパクトのある価格設定にしておき、さらに保護猫を飼いやすく見せることで、サービス開始当初は会員獲得の手段にされていると推察します。
では、どのような方法で今後利益を上げていこうと考えていたのかと言えば、「ペット関連サービス」が考えられます。現状は、ペット関連サービスは提供されておりませんが、会員向けにマナー&しつけの講習、ペットの預かりサービス、トリミング、ペットフードやペット用品の定期配給、ペットの葬儀といったサービスを検討されているかもしれません。そして、サービスの拡充をした場合、当然月額料金も変わってくると思います。コース料金のような形式で、月額3,000円コース、5,000円コース、10,000円コースといった金額での提供も考えられます。
以上のことから、月額380円の敷居の低い価格設定で会員を集め、その後ペット関連サービスを拡充し、高い月額料金のサービスに移行してもらい、収益および利益をあげていく仕組みだった可能性があります。
中小企業ホールディングスの株価の動向
愛護家、動物好きの方とは違った視点、投資家から見てねこホーダイのサービスがどのように映ったのかを見ていきます。
上記は、中小企業ホールディングスの株価推移です。期間は2022年10月24日~2023年4月24日(午前時点)になります。
いくつかプロットしてありますが、サービス開始前後と停止までに株価が上下していることがわかります。
サービス開始前の12月14日の終値は、36円サービス開始した12月15日の終値が、40円株価のピークは、12月19日の終値で、45円サービス停止した12月29日の終値が、37円(翌日も37円)
このような推移となりました。株式取引をされたことがある方はおわかりかと思いますが、サービス開始後に大きな上昇を見せているのがわかります。
※例えば、サービス開始前の36円で10,000株保有していた場合、360,000円の価値。ピークをつけた12月19日にはその価値が、450,000円まで上昇したということ。
ねこホーダイのサービスは投資家目線だと事業として期待を持てるもの、もしくは企業のイメージアップなど企業価値の向上につながると考えられたと思われます。
しかし、12月23日までに炎上してしまい、12月29日にサービス停止となったことで、37円まで下落します。さらに、4月21日の終値では33円をつけており、4月24日の午前の終値でも32円となっています。
現状では、ねこホーダイの事業が株価にとってプラスに寄与されているとは思えない値動きだと思われます。
優良誤認に該当する可能性「サービスの問題点」
ねこホーダイのサービスの話に戻ります。
12月29日にサービス停止となりましたが運営元が発表したサービス停止の理由に驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。以下、投資家向けの決算補足説明資料(第59期第3四半期)に記載の内容。(同様の内容はのらねこバンクのホームページでも確認できます)
想定を大きく上回る会員登録があり、円滑かつ適切にサービスをご利用いただくことを担保しかねる状況となり、現在サービスを停止させていただいております。
決して、炎上したから動物愛護に反する内容があったからという理由ではありません。
ねこホーダイのサービスを詳しく見ると、猫を飼うのも手放すのも年間一頭のみです。このため会員になった後にサービスを利用して猫を飼った場合、向こう一年間は「猫を飼う」サービスが使えなくなります。残るサービスは「猫を手放す」のみです。仮に「猫を飼う」サービスを利用後、何らかの事情で飼えなくなり「猫を手放す」サービスを利用すれば、どちらのサービスも利用後の一年間は使えなくなるということです。このような利用があった場合、月額料金を支払う定額制サービスにも関わらず、提供されているサービスが全く利用できなくなります。(フォトフレームは利用可能)
ただしこのケースは、利用者が退会すればいいだけの話なのでさほど問題はないと思われます。
一方、会員が増えすぎてしまった結果、保護猫が足りなくなり「猫を飼う」サービスが利用できない、シェルターの収容数が上限に達してしまい「猫を手放す」サービスが利用できない場合は問題があります。月額料金を支払っているにも関わらず、会員はサービスを利用できなくなります。
加えて、本サービスは「ねこホーダイ」の名称です。定額制サービスかつ〇〇放題ということであれば、サービスを利用し放題と考えるのが一般的だと考えられます。しかし、ねこホーダイの広告にもApp Store、Google Playのアプリの説明にも年間一頭のみという掲載はありません。定額制サービスかつ〇〇放題という名称であるにも関わらず、継続して利用できないサービスがあるとすれば、優良誤認表示に該当する可能性も十分あると思います。
もっと言えば、猫を飼うのも手放すのも保護施設に行かないとサービスを受けられません。対面でのサービスというわけです。にも関わらず保護施設がどこにあるのかが広告やアプリの説明を見ても、ましてや利用規約を見てもわかりません。全国に保護施設があるため記載をする必要がないのであれば問題はありませんが、業務提携先の花の木シェルターは愛知県名古屋市に保護施設を構えています。現状、愛知県名古屋市に出向いて猫の受取りや引取りを行う必要があると思われます。結果、遠方の方の交通費は実費でかかってくるというわけです。
※千葉県内でも保護施設を新規開設されていました。(2023年7月2日追記)
運営元からすれば、利用条件は利用規約に明示してあるから問題ないと考えているのかもしれませんが、利用に制限があったり月額料金の他に費用がかかるケースがあるのであれば利用者が認識しやすい形式で明示するべきです。定額制のビジネスモデルを提供する側として当然の話です。
第一種動物取扱業の無登録営業では?
動物を扱う営利目的の事業です。第一種動物取扱業の登録が必要です。また、登録を受けた第一種動物取扱業者は、顧客の出入口から見やすい位置に標識を掲示することが必要です。第一種動物取扱業の登録について詳しい話は控えますが、動物愛護管理法では譲受飼養の事業を行う場合、登録と提示が必要になります。
標識の提示に関しては、猫カフェなどを訪れたことがある方は目にされたこともあるかもしれません。登録番号、登録年月日、動物取扱責任者の名前などを出入口などに掲示されています。
ニュースサイトやメディアの報道ではあまり話題になっていなかったと思うのですが、ねこホーダイを運営する株式会社のら猫バンクは、第一種動物取扱業の登録をされているのでしょうか?子会社設立時の資料、のらねこバンクのホームページ、広告、アプリの説明では、第一種動物取扱業の登録を確認できません。動物取扱責任者が誰であるかもわかりません。
標識を掲示していないだけで無登録営業ではないのかもしれませんが、守るべき基準を満たせていない可能性が十分にあります。
※保護施設を運営する花の木シェルターが第一種動物取扱業の登録をしているため問題ないと判断している可能性はあります。例えば、 のら猫バンク=アプリの運営、会員管理の業務 花の木シェルター=譲渡飼養業務 株式会社101=ペット関連サービス業務 といった役割分担をされている可能性も考えられますが、子会社設立の資料の事業内容には「動物(猫)に関連する会員制サービスの提供、動物保護施設(シェルター)の運営」とあります。あくまでのら猫バンクが主体の事業と考えれば、第一種動物取扱業の登録は必要になるのではないでしょうか。
見通しの甘かったサービス設計
ここまでの話の他にも「猫を手放す」サービスの対象となる猫は、ねこホーダイで譲渡された猫のみであったりします。終生飼養を考慮したり安易に猫を手放す目的で利用されないことを考えると特に問題はありませんが、「猫を手放す」サービスが会員登録してすぐに使えないことを考えるとサービスの見せ方としては問題があるでしょう。
また、サービス以外の面でも老猫や傷病の猫を引き取った場合、適切な医療は施されるのかどうか。適切に医療措置が行ったとすると費用面で負担を強いられます。逆にそのままにして猫の健康を害することがあれば動物虐待を疑われる可能性が出てきます。
「猫を飼う」「猫を手放す」といったサービス自体を良しとした場合でも、事業の継続性を疑われるようなサービス設計であるのは見通しが甘かったと言わざるを得ないと思います。
動物愛護観点の問題の根源「動物の5つの自由」
動物愛護の観点での問題も触れておきます。
SNS上やニュースサイト、メディアの報道など指摘の多くが動物愛護の観点から許せないサービスといった印象を受けました。
「命ではなく物扱い」「命のサブスクはダメ」「命をおもちゃにしないで」「猫がたらい回しで可哀想」「虐待する人に渡ったらどうするの」「ねこホーダイの名前がよくない」「審査がないのも問題」「動物愛護の理念に反してる」「看取るのが飼い主の責任」「最低!なんでこんなことが許されてるの?」
猫の負担が大きく猫のためにならないサービスだと感じた方の意見だと思います。もう少し具体的になぜこのサービスが動物愛護の観点で駄目なのかを考えると「動物の5つの自由」(The Five Freedoms for Animal)が守られていないからだと思います。
動物の5つの自由は、イギリスで提唱された動物福祉の理念で国際的に認められている考えです。5つの自由は、猫に限らず人が管理するあらゆる動物に対して与えるべきものとして考えられているものであり、すなわち
- 飢えや渇きからの自由(Freedom from Hunger and Thirst)
- 不快からの自由(Freedom from Discomfort)
- 痛み、外傷や病気からの自由(Freedom from Pain, Injury or Disease)
- 本来の行動する自由(Freedom to behave normally)
- 恐怖や苦痛からの自由(Freedom from Fear and Distress)
この5つになります。
給餌や水は十分に与えられるべきだし、ケージに閉じ込められたままのような不快もなく、怪我や病気であれば医療措置が施される。生態や習性に合わせた行動も与えるべきで、恐怖や不安といった精神的苦痛や過度なストレスからも守る必要がある。おおまかにまとめればこのような内容です。
特に⑤の恐怖や苦痛からの自由は、多くの人が守られないと感じたということでしょう。加えて①から④までは保護施設の飼育状況を見てみないとわかりかねますが、不安に感じられて批判の声をあげられた方も少なくなかったものと思われます。
愛護と福祉を一緒にするなと愛護家や福祉に携わる方からお叱りを受けるかもしれませんが、動物の立場になって何が良くないことなのかを考えた意見(どちらかと言えば動物福祉寄りの意見)が多かったのは確かだと思います。
動物愛護センターの譲渡条件との違い
譲渡条件が緩すぎるという指摘も多く「審査がない」「トライアルがない」「里親の飼育環境がわからない」といったところです。
では、動物愛護センターとねこホーダイの譲渡条件の違いを見てみましょう。例として東京都動物愛護相談センターから譲渡を受ける条件を見てみます。-> https://wannyan.metro.tokyo.lg.jp/center-kara/
- 都内にお住まいで20歳以上60歳以下の方
- 現在、犬や猫を飼育していない方
- 家族に動物に対するアレルギーを持っている方がいない方
- 飼うことを家族全員が賛成している方
- 最期まで責任を持って飼い続けることができる方
- 経済的、時間的に余裕がある方
- 動物に不妊去勢手術による繁殖制限措置を確実に実施できる方
- 集合住宅・賃貸住宅の場合は、規約等で動物の飼育が許されている方
- 当センター主催の譲渡事前講習会を受講している方
一方、ねこホーダイは以下の通り。(保護猫飼い主募集のページに記載があります。-> https://noraneko-bank.co.jp/fosters)
のらねこバンクでは里親様に年齢制限や単身者不可などの条件は設けておりませんが、完全室内飼育を条件としております。
加えて、サービス停止後に公表された「当社にお寄せ頂いたご質問について」では、-> https://noraneko-bank.co.jp/news/d33e1d2a-71b5-46a4-a2b0-b5e3ef9d2659
提携先シェルターによる譲渡の際に、面談、本人確認、公共料金の領収書の確認による住所確認を行い、完全室内飼育や譲渡後の飼育状況の報告等について記載された譲渡誓約書の内容の確認、署名及び提出を行って頂きます。
とありました。書面等による手続きは、東京都動物愛護相談センターでもあります。
ねこホーダイでは、完全室内飼育を条件にその他は飼い主の責任において飼育していただくと捉えていいものと考えられますが「面談」がありますので、面談で飼育に関わる必要最低限(東京都動物愛護相談センターが提示しているような条件)は確認していると言われればそれまでかもしれません。
虐待する人にとって利用価値のあるサービスか?
虐待を不安視する指摘も相次ぎました。確かに譲渡条件を見る限りかなり緩めの条件です。虐待目当ての犯罪者に目を付けられる可能性もあるでしょう。
ただし、虐待目当ての犯罪者視点ではいくつかハードルがあります。
- ねこホーダイを利用するには、クレジットカードでの決済が必要なためカード情報の提示をしなければならない。
- 猫は保護施設での対面受け取りになるため顔バレしてしまう。
- 公共料金の領収書の確認、住所確認などで身バレしてしまう。
さらに、年間一頭のみしか引き取れないとなるとこれらのリスクを冒してまで利用するサービスではないかもしれません。わざわざお金を払ってまで虐待をしないという人もおられますが、お金の問題というよりリスクの問題の方が犯罪者にとっては大きいと思われます。
なお、虐待防止を考えるならマイクロチップの活用も有効だと思います。マイクロチップへの飼い主の個人情報の登録は、虐待目的の人からすればさらにハードルが高くなると思いますし、そうでない普通に猫を飼いたい里親さんに対しても責任を持ち飼育していただくことにもつながるものと思います。
ペットショップやペットレンタルの方が問題では?
ペットショップはお金さえあれば簡単に飼えてしまうし、ペットレンタルの環境の変化はストレスでしょう。他にも猫カフェでは人が入れ替わり立ち替わり入ってきます。猫の縄張りに見知らぬ人間が入り込んでくるのはストレスを感じているかもしれません。ストレスは病気のリスクになると考えるならすでにあるサービスも問題でしょう。
安易に飼ったり捨てたりするのが問題と考えるならペットショップで購入する犬猫にも当てはまりますし、環境の変化に弱い動物だと考えるならペットレンタルや猫カフェも問題があります。また、猫を金儲けの道具に使うなと考えるならすでにペットは金儲けの道具です。全て人間の都合で成り立っています。
ねこホーダイだけを叩くのはおかしいということです。
猫を物扱い、命のサブスクは絶対ダメというのは猫だから?
ねこホーダイの炎上騒動は、対象の動物が猫だったからでしょうか?
「猫を物扱い、猫は生きていて命があるものだということを尊重していない」
といった動物愛護活動家の方が発言されているのを見かけましたが、牛や豚はいいんですか?毎日ぶっ殺して食べてますけど。少し考えればわかると思いますが、牛や豚などの家畜は物以下の扱いを受けています。命を尊重しているなんて到底言えないでしょう。それとも猫は可愛いから感情があるから違うとでも言うのでしょうか。可愛くなくて感情がわかりにくい動物はぶっ殺して食べていいと。
思うにこんな発言をした愛護家が、その日の夕飯にステーキやら豚カツやらを満面の笑みで食べていたとしたら狂気としか思えませんね。
以上になります。ねこホーダイのサービスは廃止ではありません。停止です。安心して利用できるサービスを検討し体制を整えた上で再開されるかもしれません。どのようなサービスが望ましいかは、多くの指摘やサービス設計の問題点を洗い出せばわかると思いますし、改善も可能だと思います。もともとは野良猫ゼロプロジェクト、飼育困難や殺処分予定の猫を引き取ることにありますとおっしゃられておりました。捨てられそうな猫を保護するサービスは悪いものではありません。改善を十分にされた場合、月額料金はとんでもなくはねあがるかもしれませんが、それでもねこホーダイを使ってみたいと思われるサービスになることを願っております。
2023年7月2日追記 のら猫バンクの解散とねこホーダイのサービス停止
中小企業ホールディングスのHPのIRより、2023年6月2日「連結子会社の解散及び清算、並びに特別損失の計上に関するお知らせ」が掲載されました。※連結子会社とは株式会社のら猫バンクのことになります。
また、中小企業ホールディングスは、経営者交代に伴い創建エースへ社名変更を行っております。新体制では保護猫に関する事業の注力は考えていないとのことで、のら猫バンクは解散となりました。